人工関節周囲の骨折について

あずかん

高齢化社会の進展と人工関節置換術の普及に伴い、術後に発生する人工関節周囲骨折(PPF)が増加しています。これは、人工関節が設置された骨に新たな骨折が生じるもので、治療が複雑で難渋することも少なくありません。この記事では、人工関節周囲の骨折について病態生理から看護のポイントまで詳しく解説していきます。

目次

人工関節周囲の骨折とは

人工関節周囲骨折は、人工関節(インプラント)が埋め込まれている骨、またはそのすぐ近くで発生する骨折である。主に股関節(大腿骨側)や膝関節(大腿骨側・脛骨側)の周囲に起こる。

発生の主なメカニズムとリスク因子

  1. 外傷
    • 最も多い原因は転倒である。大腿骨近位端骨折と同様に、骨粗鬆症を合併している高齢者が軽微な外力で受傷するケースが大半を占める。
  2. インプラントによる応力集中
    • 硬い金属製のインプラントと、相対的に柔らかい骨との境界部分には、物理的に力が集中しやすくなる(応力集中)。特にインプラントの先端部分は構造的な弱点となり、骨折の起点になることがある。
  3. 骨質の低下
    • 骨粗鬆症:骨全体の強度が低下しているため、骨折リスクが著しく高まる。
    • ストレスシールディング(Stress Shielding):インプラントが体重などの負荷を支えるため、周囲の骨にかかる力が減少し、骨が刺激を受けずに痩せてしまう現象であり、これにより骨密度が低下し、骨が脆弱化する。
  4. インプラントの弛み
    • 長期間の使用により、インプラントと骨の固定性が失われ、グラグラした状態が生じることがある。弛んだインプラントは骨に異常な力を加え、骨折を引き起こす原因となる。骨折が弛みを引き起こすことも、弛みが骨折を引き起こすこともある。

これらの要因が複合的に絡み合って発生するため、単純な骨折とは異なる複雑な病態を呈する。

診断方法

問診・身体診察
患者の自覚症状(痛み、腫れ、動きにくさなど)や受傷機転などを詳しく聞き取り、患部の状態を目で見て、触って確認する。

X線検査
骨折の有無、骨折部位、人工関節の状態などを確認する。

CT検査
X線検査よりも詳細な情報が得られる。骨折の形状や、人工関節と骨との関係などを立体的に把握する。

MRI検査
骨折そのものよりも、周囲の軟部組織の状態や血腫などを評価するのに有用。

骨折別の分類と手術方法

看護のポイント

人工関節周囲骨折の患者は、高齢で複数の既往歴を持つことが多く、過去の手術歴もあるため、より丁寧で個別的な看護が求められる。

  1. 詳細な情報収集とアセスメント
    • 初回手術の情報:いつ、どこで、どのような理由で人工関節手術を受けたのか、可能であれば手術記録などを基に情報を収集する。インプラントの種類が分かると治療方針の決定に役立つ。
    • 受傷前のADLと生活背景:受傷前にどの程度の生活を送っていたかを把握することは、治療目標を設定する上で非常に重要となる。
    • インプラントの弛みの兆候:受傷前から股関節や膝に痛みや違和感がなかったかを確認する。これは、インプラントの固定性を判断する上での重要な情報となる。
  2. 周術期管理:通常骨折との違いを意識する
    • 手術侵襲の大きさへの備え:特に再置換術は、出血量が多く手術時間も長くなる傾向があり、術中のバイタル変動や術後の貧血、循環動態の不安定化に一層の注意が必要となる。
    • 感染のリスク:体内に異物(インプラント)がある状態での手術は、感染のリスクが通常より高まるため、創部の厳密な観察と管理、抗菌薬の確実な投与が重要となる。
    • 疼痛管理:複雑な骨折と大きな手術侵襲により、術後の痛みは強くなる傾向がある。効果的な疼痛管理は、早期離床とリハビリテーションの鍵となる。
  3. リハビリテーションとの密な連携
    • 手術方法によって、術後の荷重開始時期やリハビリの進め方が大きく異なる(骨接合術では骨癒合がある程度進むまで免荷期間が長くなることが多い)。
    • 理学療法士と常に情報共有を行い、患者の荷重や可動域の制限を看護師も正確に把握し、病棟での活動(ポータブルトイレへの移乗など)に反映させる必要がある。
  4. 心理的支援と意思決定支援
    • 患者は「また手術をしなくてはならないのか」「もう歩けなくなるのではないか」という強い不安と絶望感を抱いていることが多く、その思いに寄り添い、傾聴することが精神的安定につながる。
    • 治療方針が複雑になることもあり、患者や家族が病状や治療法を理解し、納得して治療に臨めるよう、医師の説明を補足し、意思決定を支援する。
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