【看護師向け】変形性股関節症の看護|病態生理から看護のポイントまで

変形性股関節症は、股関節の軟骨がすり減ることによって痛みや機能障害が生じる疾患です。特に日本では、先天的な股関節の形成不全が原因で発症するケースが多く、女性に多いという特徴があります。高齢化に伴い患者数は増加しています。この記事では、変形性股関節症の病態生理から看護のポイントまで詳しく解説していきます。
変形性股関節症とは
股関節は、大腿骨の先端(大腿骨頭)と骨盤のくぼみ(臼蓋)で構成されており、これらの関節面は、軟骨によって覆われて、クッションのような役割を果たしている。
変形性股関節症では、この軟骨が様々な原因によってすり減ったり、傷ついたりする。軟骨がすり減ると、関節の動きが悪くなり、骨と骨が直接ぶつかることで炎症が起こり、痛みが生じてくる。また、関節の安定性を保とうとして骨が増殖し、骨棘(こつきょく)と呼ばれるトゲのようなものが形成されることもあり、これにより、さらに動きが制限されたり、痛みが強くなったりする。
変形性股関節症は、原因によって一次性と二次性に分けられる。
一次性変形性股関節症
明確な原因が特定できないものを指し、加齢による軟骨の変性や遺伝的要因などが関与していると考えられている。欧米人に多く見られる。
二次性変形性股関節症
何らかの病気や外傷が原因で発症するものを指す。日本では、先天性股関節脱臼や臼蓋形成不全が原因となる場合が多く、全体の約8割を占めると言われている。その他、大腿骨頭壊死や関節リウマチなども原因となる場合がある。
変形性股関節症の症状
痛み
股関節の付け根や鼠径部(そけいぶ)に痛みが出現することが多い。初期は動き始めや長時間の歩行で痛むことが多く、進行すると安静時にも痛むようになる。歩行時に患側の足を引きずるように歩く、跛行が特徴である。
可動域制限
股関節の動きが悪くなり、靴下を履く動作や爪を切る動作などが困難になることがあります。特に、朝起きた時など、動き始めに関節がこわばる感じが目立つ。
また、股関節を動かした際に、カクカクとした音(クリック音)が聞こえることがある。
跛行
痛みを避けるために、患側の脚をかばって歩くようになる(疼痛性跛行)。進行すると、脚の長さに左右差(患側が短くなる)が生じ、体が左右に揺れる歩き方(トレンデレンブルグ跛行)が見られる。
治療法・対症療法
疼痛の軽減や症状の進行予防を目的にまず保存療法を行うが、進行が見られる場合には適切な時期に手術療法を行う必要がある。
保存療法
・生活指導(股関節にかかる負荷を軽減する)
減量、負荷のかかる動作(正座、あぐら、長時間の立位、階段昇降など)の回避、歩行補助具(杖・歩行器)の使用
・運動療法(股関節周囲の筋力を鍛え、関節の安定性を改善する)
筋力増強訓練(中殿筋など)、水中歩行
※可動域訓練は関節炎を助長する恐れがあるため積極的には奨励されない
・装具療法(股関節の動きを制限・固定することで疼痛を軽減したり、脚長差を補う)
股装具、補高靴、足底装具
・薬物療法(疼痛に対する対症療法)
鎮痛薬(NSAIDs、アセトアミノフェン、弱オピオイド、デュロキセチンなど)内服、関節内注射(ステロイド、ヒアルロン酸)など
手術療法
関節温存手術
股関節の適合性の改善や、関節軟骨への負担の軽減が目的である。
比較的若年(50歳前後まで)で、関節面の適合性が良好である。
①大腿骨内反骨切り術(適応:前股関節症、初期股関節症)
大腿骨内側を楔状に切除し、骨頭を内反させ、変性の内骨頭外側の軟骨を荷重面に移動させる。
②大腿骨外反骨切り術(適応:進行期股関節症、末期股関節症)
大腿骨外側を楔状に切除し、骨頭を外反させ、骨頭内側を荷重面に移動させる。
③寛骨臼回転骨切り術<RAO>(適応:前股関節症、初期股関節症)
球状に切離した寛骨臼を前外側に回転移動し、荷重面を拡大する。
移植骨を用いて切離した寛骨臼を押し上げることもある。
④寛骨臼形成術(適応:前股関節症、初期股関節症)
寛骨臼に移植骨を用いて棚を作ることで、骨頭を十分に被覆できる寛骨臼蓋を形成する。
⑤Chiari骨盤切り術(適応:前股関節症、初期股関節症、進行期股関節症、末期股関節症)
寛骨を股関節の上で横切し、寛骨臼と骨頭を内上方へ押し込むことで、新たな寛骨臼蓋を形成する。
人工股関節全置換術(THA)
THAは、大腿骨頭と寛骨臼の両方を人工股関節に置き換ええる術式のこと。
高い除痛効果と歩行能力改善が期待できるが、人工関節の耐用年数に限界があるため、若年者への施術には注意を要する。
そのためTHAの適応は、関節温存手術ができない患者や高齢者(60歳以上)が主となってくる。
変形した大腿骨頭を大腿骨頸部から切除する。
寛骨臼側にソケット、大腿骨側にヘッド(人工骨頭)及びステムを設置する。
ソケットとステムがそれぞれの骨に固定される。
看護のポイント
痛みの評価と緩和
痛みは変形性股関節症の患者にとって最もつらい症状の一つであり、日常生活に大きく影響する。
疼痛のアセスメントと介入
痛みの部位、性質、強さ、出現パターン、経過、日常生活への影響を正確に把握する。
医師の指示に基づき、薬物療法(内服薬、貼付薬。坐薬 など)を適切に管理し、効果や副作用を観察する。その他にも、温罨法/冷罨法、マッサージ、リラクゼーションなどの非薬物療法も有効な場合がるため、患者と検討し行っていく。
ADLの援助と自立支援
痛みや可動域制限により、日常生活の様々な動作が困難になってくる。患者の残存機能や環境に合わせて、安全かつ自立を促す援助を行っていく。
ADLのアセスメントと援助
患者が現在日常生活上で困っていることをアセスメントしていく。(更衣、入浴、排泄、移動 など)
アセスメント後、患者が安全に生活できるように動作指導を行ったり、自助具の活用などを検討する。また、同居家族がいる場合、介護方法の指導や休息の必要性について情報提供を行っていく。
自助具
リーチャー/マジックハンド
靴下履きエイド
長い靴べら
洋式トイレ用の手すりや便座の高さを高くする器具
入浴用具(バスボード、バスチェア、手すりなど)
環境整備(手すりの設置、段差の解消、滑りにくい床材の使用など)
転倒予防
痛みや可動域制限によるバランス能力の低下、筋力低下は転倒のリスクが考えられる。転倒は骨折などの重篤な合併症を引き起こす可能性があるため、予防が重要となってくる。
転倒リスクのアセスメント
身体機能、薬剤、環境、履物 など転倒につながる可能性をアセスメントしていく。
転倒しやすい身体的要因、環境的要因などを取り除き、安全な歩行ができるように支援する。
具体的な転倒予防策
環境整備: 手すりの設置、段差解消スロープ、滑り止めマット、十分な照明の確保など
履物の指導: かかとがあり、滑りにくい安定した靴や室内履きの使用
歩行補助具の検討と指導: 杖や歩行器が必要な場合、適切な種類の選択と正しい使用方法を指導する
運動療法による筋力・バランス能力向上
急な動作を避ける指導: 急に立ち上がる、振り返るなどの動作はバランスを崩しやすいため、ゆっくり行うように指導する
運動療法の継続支援
運動療法は、股関節周囲の筋力を維持・強化し、関節の安定性を高める上で非常に重要である。痛みをコントロールしながら、継続できるよう支援していく。
運動内容の理解促進
医師や理学療法士から指示された運動療法の目的や具体的な方法を患者が理解できるよう、分かりやすく説明する。
安全な実施の支援
痛みが強い時は無理に行わないこと、無理のない範囲で行うことなどを指導し、運動中の痛みの増強や違和感がないか観察する。
モチベーションの維持
運動療法は継続が大切である。患者の努力を認め、励ます声かけを行っていく。運動の効果を具体的に伝え、モチベーションを維持できるよう支援する。
自宅での実施環境の確認
自宅で安全に運動できるスペースがあるか、家族の協力が得られるかなどを確認し、必要に応じて環境調整や家族への指導を行う。
精神的サポート
慢性的な痛み、ADLの制限、病気の進行への不安などは、患者の精神面に大きな影響を与えます。
傾聴と共感
患者の悩みや不安、つらい気持ちに寄り添い、じっくりと耳を傾ける。共感的な態度で接することが大切で、患者の小さな進歩や努力を認め、肯定的な声かけなども行っていく。





