尿失禁の観察項目とその根拠を徹底解説!

尿失禁は、患者さんのQOLに大きく影響するだけでなく、皮膚トラブルや感染症のリスク因子にもなります。適切なケアを提供するためには、多角的な視点からの観察とアセスメントが不可欠です。この記事では、尿失禁のある患者さんを受け持った際に、必ず確認したい観察項目とその根拠を詳しく解説します。
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目次
尿失禁の観察項目とアセスメントの根拠
尿失禁のケアを考える上で、単に「尿が漏れている」という事実だけでなく、「なぜ・いつ・どのように」漏れているのかをアセスメントすることが重要です。以下の表を参考に、観察とアセスメントを進めていきましょう。
観察項目(WHAT) | 根拠(WHY) |
---|---|
1. 尿失禁のタイプとパターン | |
□ くしゃみや咳、立ち上がりなど、お腹に力が入った時に漏れるか | 腹圧性尿失禁が考えられます。 骨盤底筋群の緩みが主な原因です。 |
□ 急に強い尿意を感じ、トイレまで間に合わずに漏れるか | 切迫性尿失禁が考えられます。 脳血管障害やパーキンソン病などの疾患や、加齢による膀胱機能の変化が原因となることがあります。 |
□ 自分の意思とは関係なく、常にちょろちょろと漏れ続けているか | 溢流性尿失禁が考えられます。 前立腺肥大症や神経因性膀胱などにより、膀胱に尿が溜まりすぎて溢れ出てしまっている状態です。 |
□ トイレまで行くのに時間がかかる、ズボンが下ろせないなど、身体的な問題で間に合わずに漏れるか | 機能性尿失禁が考えられます。 身体機能の低下や認知症が原因で、排泄動作がうまくいかない状態です。 |
□ 上記の複数のタイプが混在していないか | 混合性尿失禁(腹圧性と切迫性の混合など)も多くみられます。どの要素が強いかを見極めることがケアのヒントになります。 |
2. 尿・排尿の状態 | |
□ 1日の排尿回数、1回あたりの排尿量 | 頻尿の有無や、1回の排尿量が少ない場合は、残尿や膀胱の過活動が考えられます。排尿日誌が有効です。 |
□ 尿の色、混濁、臭い | 濃縮尿は膀胱を刺激し、尿意を亢進させることがあります。混濁や強い臭いは尿路感染症のサインかもしれません。 |
□ 残尿感の有無 | 排尿後もすっきりしない感じがあるかを確認します。溢流性尿失禁や尿路感染症の可能性があります。 |
3. 全身状態・既往歴 | |
□ 意識レベル、認知機能 | 指示の理解度や、尿意の訴えが可能かなどを評価します。認知症があると、トイレの場所がわからなくなったり、尿意を感じにくくなることがあります(機能性尿失禁)。 |
□ ADL(日常生活動作)、麻痺の有無 | トイレまでの移動能力、衣服の着脱、姿勢の保持などを評価します。身体機能の低下が失禁の原因(機能性尿失禁)になっていないかを確認します。 |
□ 既往歴(脳血管障害、糖尿病、パーキンソン病、前立腺肥大症など) | 神経因性膀胱や溢流性尿失禁の原因となる疾患がないかを確認します。 |
□ 手術歴(婦人科系、泌尿器科系、消化器系など) | 骨盤周囲の手術は、膀胱や尿道を支える神経や筋肉に影響を与え、尿失禁の原因となることがあります。 |
□ 内服薬(利尿薬、睡眠薬、抗コリン薬など) | 利尿薬は尿量を増やし、睡眠薬は夜間の覚醒レベルを低下させます。薬剤の副作用として尿失禁が起こる可能性も考慮します。 |
4. 皮膚の状態 | |
□ 陰部や臀部の皮膚の発赤、びらん、浸軟 | 失禁はIAD(失禁関連皮膚炎)の大きなリスクです。皮膚トラブルは患者さんに苦痛を与え、感染の温床にもなります。予防的なスキンケアが重要です。 |
5. 水分・食事 | |
□ 1日の水分摂取量と種類(水、お茶、コーヒー、アルコールなど) | 水分摂取量が少なすぎると尿が濃縮され、膀胱を刺激して尿意を強めることがあります。逆に、多すぎても頻尿になります。カフェインやアルコールは利尿作用があるため、摂取量と時間帯を確認します。 |
□ 食物繊維の摂取状況、便秘の有無 | 便秘によって直腸に溜まった便が膀胱を圧迫し、尿失禁の原因となることがあります。 |
6. 心理・社会的側面 | |
□ 失禁に対する本人の思い、表出 | 「恥ずかしい」「情けない」といった感情を抱えていないか、精神的な負担の程度を確認します。羞恥心から水分摂取を控えてしまうケースもあります。 |
□ 生活への影響(外出をためらう、人と会いたがらないなど) | 失禁が原因で社会的に孤立してしまうことがあります。患者さんのQOLを評価する上で重要な視点です。 |