正常圧水頭症(NPH)について

あずかん

正常圧水頭症(NPH)は、主に高齢者に見られる疾患で、治療可能な認知症の一つとして重要です。この記事では、正常圧水頭症の病態生理から看護のポイントまでを詳しく解説します。

目次

正常圧水頭症とは

脳の表面には脳脊髄液という液体が循環しており、脳の保護や栄養供給、老廃物の除去などの役割を担っている。この脳脊髄液は、脳室という脳の中にある空間で作られ、脳の表面を循環した後、くも膜下顆粒という場所で吸収されて静脈に戻っていく。

正常圧水頭症では、この脳脊髄液の産生、循環、吸収のいずれかに問題が生じ、脳室内に脳脊髄液が過剰に貯留することで脳室が拡大する疾患である。しかし、脳圧は正常範囲内で推移している点が特徴で、なぜ脳圧が正常であるかについては、まだ完全に解明されていない。脳室の拡大がゆっくりと進行するため、脳が徐々に適応していく、あるいは脳実質の萎縮が同時に起こるためなどが考えられている。


脳室拡大が慢性的に持続し、脳(特に前頭葉)の機能が次第に障害されるため、三徴に代表される様々な神経症状が現れ、ゆっくりと進行していく。ただし、三徴はNPHに特有なものではなく、慢性期の成人水頭症(LOVAなど)でもみられるものである。

LOVAとは?

LOVAとは、長期存続型著明脳室拡大のことである。非交通性水頭症の一種で、小児期に発症し、著明な脳室拡大を呈するが、巨頭症以外の症候を認めずに、成人期になって高圧性水頭症として発症するものをいう。
通常、中脳水道閉塞によって生じ、神経内視鏡手術の適応となる。

正常水頭症の進行と症状

NPHの症状はゆっくりと進行する。三徴の中では、歩行障害が最初に現れることが多く、出現頻度も多い。またシャント術による症状改善も最もみられやすい。
歩行障害のみを呈する場合、パーキンソン症候群との鑑別が重要となってくる。

認知機能障害
記憶力の低下、意欲の低下、注意力の散漫、思考の遅延などが見られる。アルツハイマー病と間違われることもあるが、判断力や人格は比較的保たれる傾向がある。NPHの認知機能障害は可逆性であると考えられ、治療で改善される場合が多い。

歩行障害
初期には小刻み歩行、すり足歩行、不安定な歩行が見られる。進行すると、開脚歩行や重心移動の困難、転倒のリスクが高まる。

尿失禁
尿意切迫感、頻尿、あるいは膀胱に尿が溜まっていることに気づかないといった症状が現れる。

治療・対症療法

正常圧水頭症の治療の中心は、脳脊髄液を体外に排出するシャント手術である。

シャント手術

脳室から過剰な脳脊髄液を、チューブを通して体内の他の部位(腹腔や心房など)に排出する手術。
VPシャント(脳室―腹腔シャント): 脳室から腹腔へ脳脊髄液を排出する方法で、最も一般的に行われる。
VAシャント(脳室―心房シャント): 脳室から心房へ脳脊髄液を排出する方法。

シャント手術後は、症状の改善が見られることが多く、特に歩行障害や尿失禁の改善が期待されている。認知機能障害の改善は、個人差が大きいとされている。

圧可変式バルブ
近年では、シャントチューブの途中に脳脊髄液の流出量を調節できる「圧可変式バルブ」を留置している。これにより、術後に頭蓋内圧を適切な範囲に調整し、合併症(シャント機能不全、硬膜下水腫など)のリスクを減らすことができる。

看護のポイント

  1. 症状の観察
    • 認知機能: 記憶力、見当識、理解力、計算力などの変化を注意深く観察する。日付や時間の認識、簡単な計算ができるかなどを確認していく。
    • 歩行: 歩行の様子(小刻み、すり足、開脚、不安定性、転倒の有無)を観察し、転倒のリスクを評価する。
    • 排泄: 尿失禁の有無、頻度、状況を把握し、排泄パターンを観察する。
    • 意識レベル: 傾眠傾向や意識の変化がないか観察する。
    • 頭痛・嘔気: 脳圧亢進症状(シャントの機能不全なども含め)の有無を確認する。
  2. 術前・術後の看護
    • 術前: 患者や家族に手術内容やリスク、術後の経過について十分に説明し、不安の軽減に努める。合併症(感染、出血など)のリスクについて説明し理解を促す。
    • 術後:
      • シャント機能の観察: シャントの閉塞や感染、過剰なドレナージによる低髄圧症状(起立性頭痛、嘔気、めまいなど)に注意する。シャントの種類によっては、外部から圧設定が調整できるものもある。
      • バイタルサインの観察: 発熱や意識レベルの変化、神経学的症状の悪化に注意し、感染や出血などの合併症を早期に発見する。
      • 症状の改善度評価: 歩行、認知機能、排泄の改善状況を定期的に評価し、患者の生活の質の向上を目指す。
  3. 転倒予防
    歩行障害があるため、ベッドからの離床時や歩行時には介助を行い、手すりの設置、段差の解消など、環境整備を徹底する。
  4. 排泄ケア
    尿失禁に対しては、定時排泄、おむつ交換、皮膚ケアなどを行い、清潔保持と皮膚トラブルの予防に努める。患者の尊厳を保ちながらケアを提供していく。
  5. 精神的サポート
    認知機能障害や排泄障害は、患者の自尊心を傷つけることがある。そのため患者の話を傾聴し、精神的なサポートを行い、家族に対しても、病気への理解を深めてもらい、介護負担の軽減や情報提供を行っていく。
  6. リハビリテーション
    シャント手術後、症状の改善が見られた際には、早期から理学療法士、作業療法士と連携し、歩行訓練やADLの改善に向けたリハビリテーションを計画的に実施していく。
参考資料
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