
変形性膝関節症(膝OA)は、加齢に伴い膝の軟骨がすり減ることで、痛みや変形が生じる疾患です。日本には約2,530万人の患者さんがいると推定されており、高齢者のADLやQOLを低下させる大きな原因の一つです。この記事では、変形性膝関節症の病態生理から看護のポイントまで詳しく解説していきます。
変形性膝関節症とは
変形性膝関節症は、膝関節の軟骨がすり減り、骨が変形することで、痛みや腫れ、動きの制限などが生じる疾患である。加齢とともに軟骨の水分や弾力性が失われ、すり減りやすくなることが主な原因とされており、進行すると、日常生活に大きな支障をきたすこともある。中高年女性に多く、末期には手術の適応となってくる。
変形性膝関節症は、その原因によって大きく二つに分けられる。
一次性変形性膝関節症
明らかな原因がなく発症するもので、加齢による軟骨の老化が最も大きな要因と考えられている。遺伝的な要因や性別(女性に多い)も関連しているとされている。
二次性変形性膝関節症
なんらかの病気や外傷が原因で発症するもので、例としては以下のようなものがある。
関節リウマチなどの炎症性疾患
骨折や靭帯損傷などの外傷
痛風や偽痛風などの代謝性疾患
過去の感染症など
変形性膝関節症の症状
疼痛
- 初期
- 動作開始時痛: 立ち上がりや歩き始めなど、動き始めに膝がこわばったように痛みを感じるが、しばらく動いていると痛みが軽減することが多い。「使い始めの痛み」とも言われる。
- 軽度の運動後痛: 長時間歩いたり、階段を多く昇降したりした後に、軽い痛みやだるさを感じることがある。
- 中期〜後期
- 持続する痛み: 動き始めだけでなく、動いている間や安静時にも痛みが続くようになる。
- 夜間痛: 夜寝ている間や、寝返りを打った際に痛みで目が覚めることがある。
- 痛みの増強: 症状が進行すると、少しの動きでも強い痛みを感じるようになる。
- 末期
- 関節の変形:O脚が目立つようになり、膝がまっすぐ伸びなくなる(屈曲拘縮)。
- 歩行困難:膝の不安定性が増し、歩行補助具がないと歩くのが難しくなる。
- 痛みの部位: 膝の内側に痛みを感じることが最も多いが、膝の外側や前面に痛みを感じることもある。痛みが太ももやふくらはぎに放散することもある。
こわばり
朝起きた時や、長時間同じ姿勢でいた後などに、膝がスムーズに動かせないような感じ(こわばり)を感じることがある。しばらく動かしていると改善することが多いが、進行するとこわばりが長く続くようになる。
腫れ
膝関節内に炎症が起きることで、関節液が増加し、膝が腫れることがある。痛みが強い時や、無理をした後に腫れが目立つことがあり、触れるとプヨプヨとしか感触がある。
熱感
炎症が強い場合、膝関節が熱を帯びることがあり、腫れが伴うことも多い。
動きの制限
痛みのために膝を十分に曲げたり伸ばしたりすることが難しくなり、正座や深くしゃがむことが困難となる。進行すると、膝の曲げ伸ばしの範囲がさらに狭まり、歩行にも影響が出る。
轢音
膝を動かした際に、「ギシギシ」「ゴリゴリ」といった骨がきしむような音や感覚を伴うことがある。これは、軟骨がすり減り骨同士が擦れあうために生じている。
関節の変形
病気が進行すると、膝の骨自体が変形してくる。特に内反変性(O脚)になることが多く、これは膝の内側の軟骨がすり減りやすく、膝が外側に湾曲するように変形するためである。(※外反変性(X脚)になることもある)
歩行困難
痛みや関節の動きの制限により、スムーズに歩くことが困難となるため、階段の上り下りや坂道の歩行が困難になる。また、足を引きずるような歩き方になり、歩行が不安定になる。
治療・対症療法
進行度にかかわらず、第一選択は保存療法となる。
関節症が進行し、日常生活に支障をきたす場合には手術療法を検討していく。
保存療法
・生活指導(膝関節への負荷を軽減する)
減量、負担のかかる動作(正座、階段の昇降など)の回避、杖の使用
・運動療法(膝関節周囲の膝伸展筋を鍛え、関節の安定性を高める)
筋力増強訓練(大腿四頭筋など)、有酸素運動、ストレッチング
・装具療法(関節の安定性を改善し、内側への負担を軽減する)
膝装具、足底板(外側楔状足底板)
・薬物療法(疼痛改善)
鎮痛薬(NSAIDs、アセトアミノフェン、弱オピオイド、デュロキセチンなど)の内服、関節内注射(ヒアルロン酸、ステロイド)
手術療法
関節温存術
①関節鏡視下デブリドマン
関節鏡視下にて、変性・断裂した半月板・関節内遊離体(関節ねずみ)などを除去する。
病初期や、機械的な症状(関節内遊離体が膝関節に挟まる、半月板が引っかかるなど)がある場合に適応される。
手術侵襲は比較的少ないが、病態を根本的に改善させることはできないため、進行例には適応外である。
②高位脛骨骨切り術(HTO)
内側型変形性膝関節症に対して、脛骨近位部の骨を切ることにより、変性が及んでいない外側関節面への荷重を分散させる。
膝の内反変性を矯正し、荷重軸を外側へ移動させることが出来る。
比較的若年(50~60歳代)で活動性が高い患者へ適応される。
変性が関節の一部(内側)にとどまっており、前・後十字靭帯が正常である必要がある。


人工膝関節置換術
①人工膝関節単顆置換術(UKA)
膝関節の内側または外側(どちらか一方のみ)を人工関節へ置換する。
高齢者(75歳以上)に適応される。
変形が関節の一部(内側または外側)にとどまり、関節可動性も良好で、前十字靭帯が温存されている必要がある。
②人工膝関節全置換術(TKA)
膝関節の内外側とも全て人工関節へ置換する。
高齢者(65歳以上)に適応される。
変性が関節全体にわたる(末期変性膝関節症)場合適応される。


看護のポイント
疼痛アセスメントと疼痛管理
患者の痛みの部位、程度、性質、痛みの出現状況などを詳細にアセスメントし、適切な疼痛管理を行う。薬物療法の効果や副作用にも注意が必要。
ADLの援助
痛みによってADLが制限されている患者に対して、安全かつ安楽に日常生活が送れるよう援助する。移動や入浴、更衣など、具体的な動作における困難さを把握し、適切な介助方法を検討する。また、転倒予防のために歩行器や杖の使用指導、障害物の除去や手すりの設置などを検討する。
運動療法の支援
理学療法士と連携し、患者が自宅でも継続して運動に取り組めるよう支援する。運動の重要性を理解してもらい、安全な運動方法を指導することも大切。
生活指導とセルフケア支援
膝に負担のかかる動作の回避や、体重管理の重要性、病気に対する正しい知識などを患者に分かりやすく説明し、セルフケアへの意識を高めるよう促す。自宅での工夫についても情報提供を行う。
精神的なケア
慢性的な痛みやADLの制限は、患者の精神的な負担となることがあります。不安や落ち込みに寄り添い、傾聴する姿勢が重要となってくる。また、社会参加の促進や家族への支援も重要である。
合併症の観察
手術を受けた患者の場合、合併症の早期発見と対応が重要となってくる。。
離床状況の確認: 早期離床を促し、合併症予防に努めます。
疼痛、腫脹、発赤、熱感の観察: 感染や血腫の兆候に注意します。
創部の観察: 異常な分泌物がないか、縫合不全がないかなどを観察します。
下肢の浮腫、痛み、発赤の観察: 深部静脈血栓症の兆候に注意します。
呼吸状態の観察: 肺塞栓症の可能性も考慮します。





