静脈ルート確保(点滴)の手順と根拠を徹底解説!
あずかん静脈ルート確保は、輸液や薬剤投与のために必須となる基本的な看護手技ですが、苦手意識を持つ方も少なくありません。しかし、正しい手順とその根拠を一つひとつ理解することで、自信を持って安全・確実に行えるようになります。
この記事では、静脈ルート確保の一連の流れを「手順」と「根拠」に分けて、表形式で分かりやすく解説します。
目次
血管選びのコツと穿刺のポイント
ルート確保の成否は、穿刺前の準備、特に「血管選び」で8割が決まるとも言われています。慌てず、じっくりと最適な血管を見つけることが成功への近道です。
血管を選ぶ場所とコツ
| コツ・ポイント | |
|---|---|
| 良い血管の条件 | 「太く、長く、まっすぐで、弾力がある」血管が理想的です。 ・太さ: 留置針のカテーテルがスムーズに入る十分な太さがあるか。 ・走行: 穿刺したい長さ以上にまっすぐ走行しているか。蛇行している血管は避けます。 ・弾力: 指で軽く押したときに、押し返すような弾力があるか。硬い血管(硬化している)は針が滑りやすいです。 ・深さ: 見えなくても、触れて位置や走行が確認できれば穿刺可能です。むしろ、見えやすくても細い血管より、見えなくても触れる太い血管の方が成功率は高いことがあります。 |
| 穿刺部位の選択 | 前腕が第一選択です。特に橈側皮静脈や尺側皮静脈が狙い目です。 ・前腕は腕の曲げ伸ばしの影響を受けにくく、患者さんの日常生活の妨げになりにくい利点があります。 ・手背は血管が見えやすく穿刺しやすいですが、細くてもろいため、高齢者や長期留置には不向きな場合があります。また、患者さんの不快感や生活のしづらさにも繋がります。 ・肘正中皮静脈は太くて穿刺しやすいですが、関節部のため採血には良くてもルート確保には向きません。腕の屈曲で閉塞やカテーテルの破損、血管の損傷を起こすリスクがあります。緊急時や、他に選択肢がない場合に限定します。 |
| 避けるべき部位 | ・関節の近く: 屈曲により閉塞やカテーテルの破損、血管損傷のリスクがあります。 ・麻痺やシャントのある腕: 機能障害やシャント閉塞のリスクがあるため、禁忌です。 ・乳がんの手術でリンパ節郭清をした側の腕: リンパ浮腫を増悪させたり、感染のリスクが高まったりするため避けます。 ・皮膚に異常(感染、湿疹、硬結など)がある部位 |
| 血管を怒張させる工夫 | ・穿刺する腕を心臓より低い位置に下げる。 ・ホットタオルなどで穿刺部位を温める。 ・指で軽く血管を叩く(タッピング)。 ・患者さんに軽く手を握ったり開いたりしてもらう(グーパー運動)。 |
穿刺時の注意点と成功のポイント
血管を選んだら、次はいよいよ穿刺です。落ち着いて行いましょう。
| ポイント・注意点 | |
|---|---|
| 皮膚の伸展 | 穿刺する血管の走行に沿って、穿刺部位の少し末梢側を、利き手ではない方の親指でしっかりと引っ張り、皮膚と血管を固定します。この操作で血管が逃げにくくなり、格段に穿刺しやすくなります。特に高齢者など皮膚が柔らかい場合は必須のテクニックです。 |
| 穿刺角度 | 皮膚に対して15°~20°の角度でアプローチします。針先が血管内に入り逆血が確認できたら、すぐに針を寝かせ(皮膚とほぼ平行にし)、外筒(カテーテル)の先端が血管内に入るように、さらに数mm針を進めます。 この「逆血確認後に少し進める」操作が、カテーテル留置の成功を左右する重要なポイントです。 |
| カテーテルの進め方 | 針を少し進めた後、内針(金属針)は動かさず、外筒(カテーテル)だけをゆっくりと血管内に進めます。 この時、抵抗を感じる場合は無理に進めず、血管壁に当たっている可能性などを考えます。 |
| よくある失敗例と対策 | ・裏突き(血管を貫通してしまう): 穿刺角度が深すぎるか、逆血確認後に針を進めすぎることが原因です。逆血が来たらすぐに針を寝かせることを意識します。 ・血管に当たっても入らない: 血管が硬化している、または皮膚の伸展が不十分で血管が逃げている可能性があります。しっかり皮膚を伸展させ、弾力のない血管は避けるようにします。 ・カテーテルが進まない: 逆血確認後、針を進める操作が不十分で、カテーテルの先端がまだ血管内に入っていない可能性があります。また、血管の弁に当たっていることも考えられます。 |
| 精神的な準備 | 「失敗したらどうしよう」という不安は、手の震えや焦りに繋がり、成功率を下げてしまいます。「患者さんの苦痛は最小限に。でも、一回で決めなければならない訳ではない」と考えることも大切です。 困ったときや自信がないときは、ためらわずに先輩看護師に相談・交代をお願いする勇気を持ちましょう。安全が最優先です。 |
静脈ルート確保の手順と根拠
| 手順 | 根拠 |
|---|---|
| 【準備フェーズ】 | |
| ① 医師の指示を確認する(患者氏名、薬剤、量、速度など) | 誤投与を防ぎ、安全な輸液療法を実施するため。医療事故防止の基本であり、最も重要な確認事項です。 |
| ② 患者さんに目的と手順を説明し、同意を得る | 患者さんの不安を軽減し、協力を得るため。インフォームド・コンセントに基づき、患者さんの自己決定権を尊重します。 |
| ③ 必要な物品を準備する(トレー、指示された輸液、輸液セット、留置針、駆血帯、消毒綿、テープ、手袋など) | スムーズに手技を進め、中断による患者さんの苦痛や感染リスクを最小限にするため。 |
| ④ 輸液セットを輸液ボトルに接続し、ルート内を輸液で満たす(プライミング) | ルート内の空気を除去し、空気塞栓(血管内に空気が入ること)を予防するため。空気塞栓は重篤な合併症を引き起こす可能性があります。 |
| ⑤ 手指衛生を行い、手袋を装着する | 医療従事者自身と患者さん双方を感染から守るため。標準予防策(スタンダードプリコーション)の基本です。 |
| ⑥ 患者さんの体位を整え、穿刺部位を選定する | 患者さんが安楽な体位を保てるようにし、穿刺しやすい血管を選ぶため。利き腕を避け、太くまっすぐで弾力のある血管が望ましいです。関節付近は、腕の曲げ伸ばしで閉塞や脱落のリスクがあるため避けます。 |
| ⑦ 駆血帯を穿刺部位から5~10cm程度上部に巻く | 静脈血の還流を一時的に妨げることで血管を怒張させ、穿刺しやすくするため。動脈血流は止めない程度の強さで締めます。 |
| 【穿刺フェーズ】 | |
| ⑧ 穿刺部位を消毒綿で消毒する(中心から外側へ円を描くように、または一方向に) | 皮膚の常在菌によるカテーテル関連血流感染症(CRBSI)を予防するため。消毒薬が乾燥することで殺菌効果が得られます。 |
| ⑨ 穿刺部位より末梢側の皮膚を、穿刺する手の反対側の母指で伸展させる | 皮膚を張り、血管を固定することで、穿刺時に血管が逃げるのを防ぎ、針をスムーズに進めるため。 |
| ⑩ 留置針の刃面を上にして、皮膚に対して15~20°の角度で血管に進入する | 血管壁を突き破らずに内腔を捉えやすくするため。角度が浅すぎると血管に入らず、深すぎると血管を突き抜ける(裏突き)リスクがあります。 |
| ⑪ 逆血(血液の逆流)をフラッシュバックチャンバーで確認する | 針先が血管内に正しく入ったことを確認するため。 |
| ⑫ 逆血を確認したら、針を寝かせ(皮膚とほぼ平行にし)、さらに数mm進める | 針先だけでなく、カテーテル(外筒)の先端も血管内に確実に入れるため。この操作を怠ると、内筒を抜いた際にカテーテルが血管外に出てしまう原因になります。 |
| ⑬ 皮膚を伸展させていた手でカテーテルのみを血管内に進め、内針(金属針)を抜く | 血管を損傷させないように、柔らかいカテーテルのみを血管内に留置するため。 |
| ⑭ 内針を抜いた直後に、駆血帯を外す | 駆血帯を締めたままだと、カテーテルから血液が流出し続けるため。また、長時間の駆血は患者さんの苦痛や末梢の循環障害につながります。 |
| ⑮ カテーテルのハブ(接続部)をしっかり押さえながら、輸液セットを接続する | カテーテルからの出血を防ぎ、接続時にカテーテルが血管から抜けるのを防ぐため。 |
| ⑯ 輸液の滴下を確認する | ルートが正しく血管内にあり、閉塞や漏れがないことを確認するため。滴下がスムーズでない場合は、血管外漏出や屈曲などを疑います。 |
| 【固定フェーズ】 | |
| ⑰ 穿刺部の観察(腫れ、痛み、発赤がないか)と、患者さんへの声かけを行う | 血管外漏出の初期兆候を早期に発見するため。患者さんの自覚症状を確認することも重要です。 |
| ⑱ 刺入部が見えるように、滅菌された透明なドレッシング材などでカテーテルを固定する | カテーテルが抜けるのを防ぎ、刺入部を保護するため。透明なドレッシング材を使用することで、刺入部の感染兆候(発赤、腫脹、滲出液など)を容易に観察できます。 |
| ⑲ 輸液ルートをループ状にして、テープで腕に固定する | ルートが引っ張られた際に、直接カテーテルに張力がかかるのを防ぎ、自己抜去や偶発的な抜去を予防するため。 |
| ⑳ 実施日、時間、留置針のゲージ数、実施者名をテープに記入し貼付する | 留置期間を管理し、交換時期の目安とするため。また、トラブル発生時に誰が実施したかを明確にするトレーサビリティの観点からも重要です。 |
| ㉑ 滴下速度を指示通りに合わせ、片付けと報告を行う | 指示通りの速度で薬剤を投与するため。終了後は医療廃棄物を適切に処理し、実施したことを記録・報告します。 |