熱中症の病態生理から看護のポイントまで年代別に徹底解説

毎年夏になると多くの人が発症する熱中症。特に看護の現場では、あらゆる年代の患者さんと接する機会があるため、熱中症に関する深い知識と適切な対応が求められます。この記事では、熱中症の病態生理から原因、症状、治療法、そして看護のポイントまでを、年代別の特徴を踏まえながら詳しく解説します。
熱中症とは
熱中症は、高温多湿な環境下で体内の水分や塩分のバランスが崩れ、体温調節機能が破綻することで生じるさまざまな症状の総称です。
通常、私たちの体は、暑い時には汗をかいたり(蒸発)、皮膚の血管を拡張させて血流を増やす(放射)ことで、体内の熱を外に逃がし、体温を一定に保っています。しかし、大量の発汗によって水分や塩分が失われると、血液が濃縮し、循環不全に陥り、その結果、汗をかくことや皮膚からの熱の放出がうまくできなくなり、体内に熱がこもって深部体温が上昇します。深部体温が40℃以上に達すると、脳をはじめとする重要な臓器の機能に障害が生じ、重篤な状態に陥ることがあります。
熱中症の原因
熱中症の直接的な原因は、暑熱環境です。しかし、それ以外にも以下のような要因が複雑に絡み合って発症します。
- 環境要因
- 高い気温、高い湿度
- 閉め切った室内、風通しの悪い場所
- 日差しの強い場所
- エアコンがない環境
- 身体的要因
- 脱水状態
- 睡眠不足、疲労
- 二日酔い
- 肥満
- 持病(心疾患、糖尿病、精神疾患など)
- 加齢
- 行動的要因
- 激しい運動や労働
- 長時間の屋外活動
- 水分補給の不足
熱中症の症状
熱中症の症状は、重症度によってⅠ度(軽症)、Ⅱ度(中等症)、Ⅲ度(重症)の3段階に分類されます。
重症度 | 主な症状 |
---|---|
Ⅰ度 | めまい、立ちくらみ、生あくび、大量の発汗、筋肉の硬直、筋肉痛(こむら返り)、手足のしびれ、気分の不快 |
Ⅱ度 | 頭痛、吐き気、嘔吐、倦怠感、虚脱感、集中力・判断力の低下 |
Ⅲ度 | 意識障害、けいれん、運動障害(うまく歩けないなど)、高体温(40℃以上) |
これらの症状は、急激に変化することがあるため、軽症だからといって油断は禁物です。
治療・対症療法
熱中症の治療の基本は、「体を冷やすこと」と「水分・塩分を補給すること」です。
涼しい場所への避難
まずは、風通しの良い日陰やクーラーの効いた室内など、涼しい場所へ移動させます。
衣服をゆるめる
衣服をゆるめ、体から熱が逃げやすいようにします。
体を冷やす
氷枕や氷嚢を首の付け根、脇の下、足の付け根など、太い血管が通っている場所に当てて、体を効率的に冷やします。また、皮膚に霧吹きで水をかけ、うちわや扇風機で風を送ることも有効です。
水分・塩分の補給
意識がはっきりしている場合は、経口補水液やスポーツドリンクを自分で飲んでもらいます]。吐き気がある場合や意識が朦朧としている場合は、無理に飲ませず、速やかに医療機関を受診させ、点滴による補液が必要です。
看護のポイント【年代別】
乳幼児
- 特徴
- 体温調節機能が未熟。
- 体重に比べて体表面積が広く、外気温の影響を受けやすい。
- 自分で「暑い」「喉が渇いた」と訴えることができない。
- 身長が低く、地面からの照り返しの影響を強く受ける。
- 看護のポイント
- 状態の観察: 顔色、機嫌、汗のかき方、おしっこの量など、普段との違いを注意深く観察します。
- 環境調整: 衣服の調整(薄着にする)、室温・湿度の管理を徹底します。ベビーカーに乗せる際は、照り返しに注意し、日よけや冷却シートを活用しましょう。
- 水分補給: 定期的に水分(湯冷まし、麦茶、幼児用イオン飲料など)を与えることが重要です。
青年期
- 特徴
- スポーツや課外活動など、炎天下での活動機会が多い。
- 自分の体力を過信し、無理をしてしまいがち。
- 脱水状態に気づきにくいことがある。
- 看護のポイント
- 予防教育: 熱中症の危険性、予防策(こまめな水分・塩分補給、適切な休息)、応急処置について、本人や指導者に繰り返し伝えることが重要です。
- 活動中の観察: 活動中の顔色や言動に注意し、異変があればすぐに活動を中止させ、涼しい場所で休ませるように指導します。
高齢者
- 特徴
- 体温調節機能が低下しており、暑さや喉の渇きを感じにくい。
- 体内の水分量がもともと少ない。
- 複数の持病(心疾患、高血圧、糖尿病など)を抱えていることが多い。
- 利尿薬などを内服している場合、脱水のリスクが高まる。
- 看護のポイント
- バイタルサインの確認: 定期的なバイタルサインの測定に加え、意識レベル、皮膚の乾燥、尿量などを注意深く観察します。
- 環境調整: 本人が暑さを感じていなくても、室温や湿度を適切に管理します。
- 水分補給の促し: 喉が渇いていなくても、時間を決めて水分を摂るように促します。嚥下機能が低下している場合は、ゼリー状の水分補給補助食品なども活用しましょう。
- 服薬状況の確認: 内服薬が熱中症のリスクに影響を与える可能性があるため、服薬状況を把握し、必要に応じて医師や薬剤師に相談します。