大腿骨頸部/転子部骨折の術後観察項目について

大腿骨頸部/転子部骨折の術後観察項目と、その根拠を徹底解説!

あずかん

高齢者の転倒で非常に多く発生する「大腿骨頸部骨折」と「大腿骨転子部骨折」。どちらも手術療法が第一選択となり、術後管理は患者さんの予後を大きく左右します。特に、術後の合併症を予防し、早期離床につなげるための「観察」は、看護師の重要な役割です。
この記事では、大腿骨近位部骨折の術後ケアで「何を」「なぜ」観察するべきなのか、その観察項目と根拠をセットで詳しく解説します。


目次

術後合併症の早期発見に関する観察項目と根拠

術後は、生命を脅かす可能性のある全身的な合併症と、患部の機能に影響する局所的な合併症の両方に注意が必要です。

観察項目(WHAT)観察の根拠(WHY)
1. バイタルサイン
(血圧、脈拍、呼吸数、SpO2、体温)
【根拠】ショック、感染、肺塞栓の早期発見
血圧低下、頻脈
術中・術後の出血による循環血液量減少性ショックの兆候です。特に転子部骨折は頸部骨折より出血量が多く、注意が必要です。
発熱
術後3日以降も続く発熱は、創部感染や肺炎、尿路感染症などの感染徴候を疑います。
突然の呼吸困難、頻呼吸、SpO2低下
深部静脈血栓症(DVT)が剥がれて肺動脈を塞栓する「肺血栓塞栓症(PTE)」を強く疑う危険なサインです。
2. 創部の状態
(出血量、腫脹、発赤、熱感、離開の有無)
【根拠】創部出血、感染、血腫形成の評価
ドレーンからの排液
性状(血性→漿液性へ変化するか)と量を経時的に確認し、異常な出血がないかを評価します。
ガーゼへの血液付着
ドレーンからの排液がなくても、皮下で出血している場合があります。
発赤、熱感、腫脹の増強
術後数日経ってからこれらの兆候が出現・増強する場合は、創部感染の可能性があります。
3. 下肢の循環・神経の状態
・足背動脈の拍動(左右差)
・足趾の色、温度、CRT
・足趾のしびれ、知覚鈍麻
・足趾の運動(自動運動が可能か)
【根拠】血行障害、神経損傷、コンパートメント症候群の早期発見
・手術操作や術後の腫脹により、血管や神経が圧迫・損傷されるリスクがあります。
・特に、腫脹の増強とともに激しい疼痛知覚障害運動障害が出現した場合は、緊急処置が必要なコンパートメント症候群を疑います。末梢の循環・神経所見の経時的な変化を注意深く観察することが、下肢の壊死を防ぐために不可欠です。
4. 疼痛の評価
(部位、程度、性質、鎮痛薬の効果)
【根拠】適切な疼痛コントロールと合併症の発見
・術後の痛みは患者にとって最大の苦痛であり、不眠やせん妄、離床の遅れにつながります。
・痛みの評価(NRSなど)を定期的に行い、鎮痛薬を適切に使用することで、安楽を確保し、リハビリへの意欲を高めます。
痛みの性質の変化突然の増強は、血腫形成や感染、コンパートメント症候群などの合併症のサインである可能性があり、注意が必要です。
5. 呼吸状態と喀痰
(呼吸音、呼吸パターン、痰の量・性状)
【根拠】無気肺、肺炎の予防と早期発見
・高齢者は、術後の痛みや安静により、肺活量が低下し、効果的な咳嗽ができなくなります。
・これにより気道に痰がたまり、無気肺や誤嚥性肺炎(沈下性肺炎)を発症するリスクが非常に高くなります。
・定期的な聴診や、痰の性状(膿性になっていないか)の観察が重要です。
6. 意識レベルと精神状態
(JCS/GCS、見当識、言動、睡眠パターン)
【根拠】せん妄の早期発見と予防
・高齢者、特に認知症のある患者さんは、手術侵襲、環境の変化、痛み、不眠、薬剤などの影響で、術後せん妄を発症しやすい状態にあります。
・せん妄は、興奮してチューブ類を自己抜去したり、転倒・転落したりする原因となり、治療の大きな妨げとなります。日頃の患者さんの様子と比較し、「いつもと違う」という変化を早期に察知することが重要です。
7. 下肢の腫脹、疼痛、熱感(患側・健側)
(特にふくらはぎ)
【根拠】深部静脈血栓症(DVT)の早期発見
・手術侵襲と術後の長期臥床により、下肢の血流がうっ滞し、静脈内に血栓(DVT)が形成されやすくなります。
・DVTの兆候(ふくらはぎの痛み、腫脹、圧痛、ホーマンズ徴候など)の有無を毎日観察します。DVTが肺血栓塞栓症(PTE)へ移行するのを防ぐために、極めて重要な観察項目です。

早期離床・リハビリテーションに関する観察項目と根拠

手術のゴールは、単に骨を接合することではなく、患者が「再び歩ける」ようになることです。そのために、早期離床とリハビリテーションが不可欠です。

観察項目(WHAT)観察の根拠(WHY)
1. リハビリに対する意欲、理解度【根拠】効果的なリハビリテーションの実施
・患者本人が治療の必要性を理解し、意欲を持って取り組むことが、回復の鍵となります。
・「なぜリハビリが必要なのか」を丁寧に説明し、不安や疑問に耳を傾け、理学療法士と連携しながら、患者のモチベーションを維持・向上させることが大切です。
2. 離床・運動時のバイタルサインの変化
(起立性低血圧の有無)
【根拠】安全な離床の推進
・長期臥床により、起立時に血圧が急激に下がる「起立性低血圧」を起こしやすくなります。
・めまいやふらつき、失神による転倒を防ぐため、初めての離床時は特に、段階的に(ベッドのヘッドアップ→端座位→立位)行い、バイタルサインの変化を注意深く観察します。
3. 患肢の荷重制限の遵守状況【根拠】再転倒、インプラント破損の予防
・術式によっては、一定期間、患肢に体重をかけられない(免荷)、または一部しかかけられない(部分荷重)などの指示が出ます。
・特に認知機能が低下している患者では、指示を忘れて全体重をかけてしまい、再骨折やインプラントの破損につながるリスクがあります。リハビリ時以外でも、安全に配慮した環境設定と見守りが必要です。
4. 関節可動域(ROM)と筋力【根拠】廃用症候群の予防
・臥床が続くと、関節が固まる「拘縮」や、筋肉が痩せ衰える「筋萎縮」(合わせて廃用症候群と呼ぶ)が急速に進行します。
・理学療法士の訓練だけでなく、病棟での日常生活の中でも、足関節の運動や、健側・上肢の筋力トレーニングなどを促し、身体機能の低下を最小限に食い止めることが重要です。

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