大腿骨骨幹部骨折について


あずかん

大腿骨骨幹部骨折は、人体で最も太く長い骨である大腿骨の中央部分が折れる骨折です。強固な骨であるため、非常に大きな外力が加わらないと骨折することは稀で、交通事故や高所からの転落など、高エネルギー外傷で発症することが多いのが特徴です。重篤な合併症を引き起こす可能性もあり、迅速かつ適切な初期対応と周術期管理が極めて重要となります。
この記事では「大腿骨骨幹部骨折」について詳しく説明していきます。

目次

大腿骨骨幹部骨折とは

大腿骨骨幹部は、骨皮質が厚く、強度が高いのが特徴である。しかし、この強固な骨が折れるということは、非常に大きなエネルギーが加わったことを意味している。そのため、交通事故、高所からの転落、スポーツ中の激しい衝突など、高エネルギー外傷が主な原因となってくる。

  • 直接的な打撃: 交通事故のダッシュボード損傷など、骨に直接外力が加わる場合。
  • 間接的な外力: ねじれ(捻転)、曲げ(屈曲)、圧縮などの力が複合的に作用する場合。スポーツ中の着地失敗など。

大腿骨骨幹部は、周囲を非常に太い筋肉群(大腿四頭筋、ハムストリングスなど)に囲まれていおり、骨折が発生すると、これらの筋肉の収縮により、骨折部が大きく転位したり、螺旋状に骨折線が走ったりする特徴がある。また、骨折部周囲には大きな血管や神経(大腿動静脈、坐骨神経など)が走行しているため、血管損傷による多量の出血や、神経損傷を合併するリスクが高くなってくる。

  • 出血: 大腿骨骨折では、内出血により1〜2リットル以上の出血を来すことが珍しくなく、出血性ショックに陥る可能性がある。
  • 軟部組織損傷: 骨折に伴い、周囲の筋肉や皮膚も損傷し、開放骨折となる場合もある。
  • コンパートメント症候群: 出血や腫脹により、筋膜に囲まれたコンパートメント(区画)内の圧力が異常に上昇し、神経や血管が圧迫されて筋肉の壊死などを引き起こす緊急性の高い病態。

骨折の分類

大腿骨骨幹部骨折では、主に骨折線の走行や骨折の状態に基づいて分類される。

AO/OTA分類

骨折の安定性や複雑性を評価するために、国際的に広く用いられている分類で、アルファベットと数字の組み合わせで骨折のタイプを表する。

  • A型(単純骨折): 骨折線が1本で、骨折部が分断されていないもの。
    • A1: 螺旋骨折(ねじれによる骨折)
    • A2: 斜骨折(斜めに骨折線が入る)
    • A3: 横骨折(横一直線に骨折線が入る)
  • B型(楔状骨折): 主要な2つの骨片の間に、第三の骨片(楔状骨片)があるもの。
    • B1: 螺旋楔状骨折
    • B2: 曲げ楔状骨折
    • B3: 断片化楔状骨折
  • C型(複雑骨折): 骨折線が複数あり、粉砕が激しいもの。
    • C1: 螺旋多発骨折
    • C2: 分節性骨折(骨が2箇所以上骨折し、間の骨片が浮いている状態)
    • C3: 不規則粉砕骨折

その他の分類

  • 開放性骨折
    骨折部が皮膚を突き破り、外気に交通している状態。感染のリスクが高く、緊急手術の適応となる。
  • 閉鎖性骨折
    皮膚が損傷されていない状態。
  • 部位による分類
    近位骨幹部、中央骨幹部、遠位骨幹部など、骨折が発生した骨幹部の場所で分類することもある。

治療・対症療法

手術療法

原則として手術治療を行う。
多発外傷・多発骨折を合併している場合初期治療で創外固定(DCO)を行う。

  • 髄内釘固定術(Intramedullary Nailing)
    大腿骨骨幹部骨折における標準的な治療法。大腿骨の内部にある髄腔に、金属製の長い棒状の釘(髄内釘)を挿入し、上下の骨片を固定する。これにより、骨折部を内側から支持し、強固な安定性を得ることができる。骨折部へのアプローチが最小限で済むため、軟部組織への侵襲が少なく、骨癒合に有利です。早期からの荷重が可能となることが多い。
  • プレート固定術(Plate Osteosynthesis)
    髄内釘が適用できない場合や、骨折部の粉砕が著しい場合などに選択される。骨の表面に金属製のプレートを当て、スクリューで骨に固定する。骨折部の整復が比較的容易で、複雑な骨折にも対応しやすい。

対症療法

・手術までの間や、術後合併症への対処として行われる

疼痛管理
骨折による激しい痛みに対し、鎮痛剤(非ステロイド性抗炎症薬、オピオイドなど)の投与や、硬膜外麻酔、神経ブロックなどによる疼痛コントロールを行う。

止血・輸血
大量の出血が予想されるため、早期に静脈路を確保し、輸液・輸血の準備をする。ショック徴候の早期発見と対応が重要となる。

牽引療法
骨折部の転位や筋肉の痙攣による痛みを軽減し、手術前の整復位維持のために、一時的に皮膚牽引や骨牽引が行われることがある。

コンパートメント症候群の監視
下腿の強い痛み、しびれ、腫脹、麻痺などの徴候がないか、定期的に確認する。疑われた場合は、緊急の筋膜切開術が必要となる。

全身状態の安定化
高エネルギー外傷の場合、多発外傷を合併している可能性があり、呼吸循環動態の安定化が最優先される。

看護のポイント

急性期の看護

  • 全身状態の観察と安定化
    • バイタルサインの綿密なモニタリング: 特に血圧低下、頻脈などのショック徴候に注意し、出血性ショックの早期発見に努める。
    • 意識レベル、呼吸状態の評価: 高エネルギー外傷の場合、頭部外傷や胸部外傷の合併も考慮し、全身状態を総合的に評価する。
    • 疼痛コントロール: 術前の牽引療法中の管理、鎮痛剤の効果判定、副作用の観察など。
  • 骨折肢の管理
    • 安静保持: 骨折部位のさらなる損傷を防ぐため、患肢の安静を徹底する。
    • 循環・神経学的評価(5P’s): 疼痛(Pain)、蒼白(Pallor)、脈拍消失(Pulselessness)、知覚異常(Paresthesia)、麻痺(Paralysis)の有無を定期的に確認し、コンパートメント症候群や神経血管損傷の兆候を見逃さないようにする。
    • 浮腫の観察: 患肢の腫脹を観察し、冷却や挙上など適切な処置を行う。
  • 合併症の予防
    • DVT(深部静脈血栓症)・PE(肺塞栓症)予防: 長期臥床や手術によりリスクが高まるため、弾性ストッキングの着用、間欠的空気圧迫装置の使用、早期離床、医師の指示による抗凝固薬の投与などを支援する。下肢の腫脹、痛み、発赤、呼吸困難、胸痛などに注意していく。
    • 褥瘡予防: 体位変換の徹底、除圧マットレスの使用、皮膚の観察と清潔保持など。
    • 廃用症候群の予防: 関節拘縮予防のための医師の指示のもと、自動・他動運動の指導、筋力低下予防のための訓練を行う。
  • 心理的サポート
    • 突然の事故による外傷、手術、長期臥床、今後の生活への不安など、患者が抱える精神的苦痛を傾聴し、共感的な態度で接する。
    • 今後の治療計画やリハビリテーションの見通しを分かりやすく説明し、不安の軽減を図る。

回復期の看護

  • 疼痛管理: 術後の創部痛に対し、適切な鎮痛剤の投与と効果の評価する。
  • 創部管理: 創部の感染兆候(発赤、腫脹、熱感、疼痛、排液)の観察とドレッシング交換、清潔保持など。
  • 早期離床とリハビリテーションの促進
    • 医師・理学療法士との連携: 早期からの理学療法士・作業療法士によるリハビリテーションへの積極的な参加を促す。
    • 荷重制限の遵守: 術後の荷重制限(全荷重、部分荷重など)を正確に理解し、患者に指導・介助する。無理な荷重は再骨折や固定具の破損につながるため、注意が必要となる。
    • ADL訓練: 患者の能力に応じた起居動作、移乗、歩行訓練を支援する。必要に応じて歩行補助具の選択や使用方法を指導していく。
  • 合併症の継続的な予防: DVT、PE、褥瘡、肺炎などの予防策を継続する。
  • 退院支援・社会復帰に向けた調整
    • 生活環境の評価: 退院後の自宅環境(段差、手すりの有無、トイレ・浴室の状況など)を確認し、必要に応じて改修を提案する。
    • 介護保険サービスなどの情報提供: 介護が必要な場合、地域包括支援センターやケアマネージャーとの連携を図り、訪問看護、デイサービス、福祉用具貸与などの社会資源の情報を提供する。
    • 患者教育: 骨折の原因となった外傷予防、再受傷予防、長期的なリハビリテーションの重要性を指導する。
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