大腿骨骨幹部骨折について|疾患の概要から看護のポイントまで徹底解説
あずかん高齢者の頚部骨折とは異なり、大腿骨骨幹部骨折は交通事故や高所転落などの高エネルギー外傷で運ばれてくる若い患者さんが多いのも特徴です(もちろん、骨粗鬆症が高度な高齢者の低エネルギー外傷もあります)。
「ただの骨折でしょ?」と侮っていると痛い目を見ます。なぜなら、太い骨が折れるということは、それだけ出血量が多く、ショックや致命的な合併症(脂肪塞栓など)のリスクが極めて高いからです。
今回は、現場ですぐに役立つアセスメントとケアのポイントを、失敗談も交えて紹介しますね。
サクッと復習!疾患の概要
- 病態・原因
- 大腿骨の転子下から顆上部までの「幹」の部分の骨折。
- 若年者では交通外傷などの高エネルギー外傷が多く、多発外傷(胸部・腹部・頭部外傷)の合併に注意が必要です。
- 高齢者では、長期のビスホスホネート製剤使用に伴う非定型大腿骨骨折なども含まれます。
- 症状
- 著明な腫脹、変形、異常可動性、激痛。
- 出血性ショック(骨折部からの出血だけで1,000〜1,500mlに達することも)。
- 治療
- 基本は手術療法。髄内釘固定術(が第一選択です。
- 全身状態が悪い場合、一時的に創外固定を行い、状態安定後に内固定へ変更することもあります。
観察ポイント&根拠
| 観察項目 | 具体的アクション(何をどう見るか) | プロの視点・根拠(なぜそこを見るか) |
|---|---|---|
| ショックの兆候と「Shock Index」 | 血圧低下を待つのではなく、脈拍数÷収縮期血圧(Shock Index)を計算する。 同時に、尿量が0.5ml/kg/hr以下に減少していないか、末梢冷感(CRT延長)がないかを確認する。 | 大腿部は筋肉が厚く、1L以上の出血があっても外見上は「太ももがパンパンに腫れている」程度にしか見えません(閉鎖性出血)。血圧が下がるのはショックの代償機転が破綻した後です。頻脈(HR上昇)や尿量減少といった初期サインを捉えることで、輸血や補液のタイミングを逃しません。 |
| 脂肪塞栓症候群(FES)の3徴候 | ①呼吸:SpO2低下、頻呼吸(20回/分以上) ②精神神経:不穏、つじつまが合わない発言 ③皮膚:胸部や結膜の点状出血 これらをセットで観察する。 | 受傷後12〜72時間以内に好発します。骨髄内の脂肪滴が血管内に流入し、肺や脳の血管を塞栓します。「なんとなく様子がおかしい」「息苦しい」という訴えは、疼痛によるものではなくFESの初期症状である可能性が高く、急変リスクとしてマークします。 |
| 神経麻痺(坐骨神経・腓骨神経) | 足趾の背屈・底屈ができるか。 足背および足底の知覚鈍麻(触った感覚の左右差)がないかを確認する。 | 骨折片による直接損傷や、血腫による圧迫、あるいは術中の牽引操作によって神経麻痺が生じることがあります。特に下垂足は見逃すとADLに直結する後遺症となるため、術直後から麻酔覚醒とともに必ず評価します。 |
もし患者さんが「胸が苦しい」と言ったら?
受傷翌日、若年の男性患者さんがナースコールでこう訴えました。
「足の痛みは痛み止めでマシになったんだけど、なんだか胸が苦しくて、息が吸いにくい感じがするんだ。」
ここで「不安なのかな?」「とりあえずSpO2測ろう」だけで終わらせてはいけません。この疾患特有のリスクを即座に連想してください。


対応アクションと会話例
- 即時のトリアージとアクション
- 「息苦しいんですね、すぐに行きます」と伝え、訪室前に酸素投与の準備とモニターを確保して走ります。
- 訪室時、SpO2が90%前半であれば、即座に酸素投与を開始し、バイタル測定(特に呼吸数と脈拍)、意識レベルの確認を行います。
- 医師への報告(SBAR)
- 「大腿骨骨幹部骨折術後1日目の〇〇さんですが、呼吸苦の訴えがありSpO2が92%まで低下しています。胸部の点状出血はありませんが、FESまたはPTEを疑います。直ちに診察をお願いします」と、疑っている病態を明確に伝えます。
- 患者さんへの声かけ(不安軽減と安静保持)
- 「酸素を吸って少し楽にしましょうね。肺の血管に負担がかかっているかもしれないので、今はベッドの上で動かずにしていてください。すぐに先生が来ますから、私がそばについていますよ。」
- 「大丈夫ですよ」と安易に励ますのではなく、「そばにいる」という事実で安心感を提供します。
現場で差がつく看護のコツ・ポイント
| 工夫・コツ・アイデア | 具体的な手技・環境調整 | 期待される効果・メリット |
|---|---|---|
| 良肢位保持のための「トロカンテロール」 | バスタオルを筒状に巻き、大腿外側に沿わせるように入れ込みます(転子部〜膝上まで)。 足先が外を向かないよう(外旋防止)、壁を作るイメージです。 | 骨幹部骨折は筋肉の牽引力で外旋位になりやすく、それが腓骨神経圧迫の原因になります。砂嚢だと重すぎて皮膚トラブルの元ですが、タオルロールならソフトに良肢位(中間位)を保持でき、褥瘡リスクも低減できます。 |
| 清拭・更衣時の「愛護的持ち上げ」 | 患肢を持ち上げる際、足首だけを持つのは厳禁です。 膝関節と足関節の2点を下から支え、大腿部全体を面で支えるように持ち上げます。また、牽引中の場合は、牽引の方向軸をずらさないように注意します。 | 骨折部の動揺を防ぎ、激痛を誘発させないための基本手技です。面で支えることで、患部にかかるせん断力を最小限にし、患者さんの「動かされる恐怖」を和らげることができます。 |
| 踵(かかと)の「完全フローティング」 | 枕やクッションを下腿(ふくらはぎ)に入れ、踵がベッドマットから常に浮いている状態を作ります。 | 牽引療法中や術後の安静時は、自力での除圧が困難です。踵は数時間で褥瘡ができるハイリスク部位。フィルムドレッシングを貼るだけでなく、「圧をゼロにする」物理的な対策が最強の予防策です。 |
新人さんが陥りやすいミスへの対策
こんな思い込み、ありませんか?それは「若いから大丈夫だろう」というものです。
20代の交通事故の患者さん。手術も無事に終わり、バイタルも安定していました。「若いし、回復も早そうだな」と安心して、夜勤中に少しナースコールの対応を遅らせてしまったんです。
後で見に行くと、バルーンカテーテルのバッグが空っぽ。実は術後のじわじわとした出血と脱水で、尿量が止まっていたのです。先輩に「若くて筋肉がある人ほど、ショックの代償機能が働いてギリギリまで血圧が下がらない。血圧が下がった時にはもう手遅れなんだよ!」と厳しく指導されました。
大腿骨骨幹部骨折の患者さんは、「見えない出血源(太ももの中)」を抱えていると思ってください。
血圧という数字だけに頼らず、「尿量」「脈拍のトレンド(徐々に上がっていないか)」「顔色」といったアナログな情報を大切にしてください。
「若いから大丈夫」ではなく、「若いからこそ、身体が無理をして数値を保っているかもしれない」と疑う視点を持つ。これが、患者さんの急変を未然に防ぐプロの看護師への第一歩ですよ。