糖尿病足病変の病態・アセスメント・ケアのポイント

糖尿病の合併症の中でも、患者さんのQOLに深刻な影響を与える「糖尿病足病変」。 フットケアの重要性は分かっているけど、「なんで足に症状が出るの?」「どこを観察すればいい?」「どんなケアが必要?」と、臨床や実習で戸惑うことも多いのではないでしょうか。
この記事では、糖尿病足病変の基本を「なぜそうなるのか?」という病態生理から、具体的な看護のポイントまで、分かりやすく解説します。
なぜ足にトラブルが起きるのか?
糖尿病足病変は、単一の原因ではなく、高血糖によって引き起こされる複数の要因が複雑に絡み合って発症します。主に「神経障害」「血流障害」「易感染性」の3つが大きな柱です。
糖尿病神経障害(末梢神経障害)
高血糖の状態が続くと、神経細胞にソルビトールという物質が溜まり、神経の働きを鈍らせてしまいます。特に、心臓から最も遠い足の指先から症状が現れることが多いです。
- 知覚神経の障害
痛みや熱さ、冷たさを感じる感覚が鈍くなります(知覚鈍麻)。そのため、靴擦れや火傷、小さな傷に気づきにくく、気づいた時には、すでに潰瘍化しているケースも少なくありません。 - 運動神経の障害
足の筋肉を動かす神経が障害されると、筋肉が萎縮し、足の形が変形してしまうことがあります(ハンマートゥ、クロートゥなど)。これにより、特定の場所に圧力がかかりやすくなり、胼胝・鶏眼ができやすくなります。 - 自律神経の障害
汗の分泌をコントロールする神経が障害されると、皮膚が乾燥しやすくなります。皮膚の乾燥が進むと、皮膚のバリア機能が低下し、ひび割れや亀裂から細菌が侵入しやすくなります。
血流障害(末梢動脈疾患:PAD)
高血糖は動脈硬化を促進します。特に膝から下の細い血管が狭くなったり(狭窄)、詰まったり(閉塞)しやすくなり、以下の状態を引き起こします。
- 酸素と栄養の供給不足
血流が悪くなることで、組織の細胞に十分な酸素や栄養が届かなくなります。 - 治癒能力の低下
傷ができてしまっても、治るために必要な酸素や栄養素、白血球などが届きにくいため、非常に治りにくくなります。小さな傷が、あっという間に重篤な潰瘍や壊疽に進行するリスクが高まります。
易感染性
高血糖の状態では、細菌と戦う白血球の機能が低下します。また、細菌にとっては糖分が豊富な血液は格好の栄養源となるため、一度感染が起こると一気に増殖しやすくなります。
これら「神経障害で傷に気づかず」→「血流障害で傷が治らず」→「易感染性で菌が増殖し、重症化する」という負の連鎖が、糖尿病足病変の病態の核心です。
足病変の引き金となるもの
足病変の直接的な引き金となるのは、日常生活に潜む些細な出来事であり、特に以下の内容には注意が必要です。
- 不適切なフットウェア:サイズの合わない靴、硬い靴による圧迫や摩擦(靴擦れ)。
- 外傷:爪切りの際の深爪、小石や画鋲などを踏む、家具に足をぶつける。
- 熱傷:湯たんぽやカイロ、こたつ、ストーブなどによる低温熱傷。知覚神経障害があると熱さに気づきにくい。
- 水虫(白癬菌):趾間や爪が水虫に感染すると、皮膚のバリアが破壊され、そこから細菌が侵入して蜂窩織炎などを起こすきっかけになる。
- 胼胝・鶏眼:放置すると、内部で出血や潰瘍を起こすことがある。
見逃してはいけない足のサイン
足病変の重症度によって症状は異なります。初期のサインを見逃さないことが重要です。
重症度 | 主な症状 |
---|---|
初期 | ・足のしびれ、ピリピリ感 ・足が冷たい、または逆に火照る ・足の感覚が鈍い ・皮膚の乾燥、ひび割れ ・足の色が悪い(紫色、蒼白色) |
中期 | ・胼胝、鶏眼 ・巻き爪、陥入爪、爪の肥厚・変色(爪白癬) ・足の変形 ・間欠性跛行(しばらく歩くと足が痛くなり、休むと治る) |
重度 | ・治りにくい潰瘍 ・悪臭のある浸出液 ・足趾の壊疽(黒色化) ・安静時痛(じっとしていても痛む) ・発熱、腫脹、発赤(感染の兆候) |
治療・対症療法
治療は、病変の重症度に応じて集学的に行われます。
- 血糖コントロール
- 全ての基本です。食事療法、運動療法、薬物療法により、病状の進行を抑制します。
- 局所療法(創傷処置)
- デブリードマン:潰瘍部分の壊死組織や不要な角質を除去し、創傷の治癒を促進します。
- 洗浄と消毒:感染のコントロールが重要です。
- 創傷被覆材(ドレッシング材):創部を湿潤環境に保ち、治癒を促します。
- 免荷:潰瘍部分に体重や圧力がかからないようにします。松葉杖や専用の装具、車椅子などを使用します。
- 血流再建術
- 血流障害が重度の場合、カテーテルやバイパス手術によって、詰まったり狭くなったりした血管を広げ、足への血流を回復させます。
- 薬物療法
- 抗生剤:感染を伴う場合に投与します。
- 抗血小板薬・血管拡張薬:血流を改善する目的で使用します。
- 疼痛コントロール:神経障害による痛みに対して、鎮痛薬を使用します。
- 切断術
- 壊疽が広がり、薬物療法や血行再建術でも改善が見込めない場合、生命を守るためにやむを得ず足趾や下肢の切断に至ることがあります。
看護のポイント
足のアセスメント
毎日、足をくまなく観察する「フットチェック」が基本です。
- 皮膚の状態
- 色:蒼白、紫色、発赤はないか
- 傷・潰瘍・水疱:小さな傷や靴擦れ、水ぶくれはないか?(特に趾間、足底、踵)
- 乾燥・亀裂:ひび割れはないか
- 胼胝・鶏眼:できていないか
- 温度:左右の足で温度差はないか(血流障害があると冷たく、感染があると熱を持つ)
- 爪の状態
- 形・色・厚さ:巻き爪、陥入爪、肥厚、白癬(水虫)はないか
- 爪の周りの皮膚:発赤や腫れ、痛みはないか
- 足の形
- 変形はないか
- 感覚
- しびれや痛みの有無、モノフィラメント検査による知覚の確認。
- 血流
- 足背動脈や後脛骨動脈の触知はできるか
- ABI(足関節上腕血圧比)検査の結果はどうか(0.9以下は血流障害を疑う)
具体的なフットケア(セルフケア指導)
観察で得た情報をもとに、患者と一緒にケアを実践し、セルフケア行動を支援します。
- 洗浄・清潔
- 毎日、ぬるま湯と低刺激の石鹸で優しく洗うよう指導します。ゴシゴシこすらず、趾間もしっかり洗い、よく乾かすことが重要です。
- 保湿
- 乾燥している部分には、保湿剤を塗布します。ただし、趾間は湿って水虫の原因になるため塗らないように伝えます。
- 爪切り
- 深爪はせず、まっすぐに切る「スクエアカット」を指導します。視力が悪い、手が震える患者には、家族に協力してもらうか、看護師が実施、または医療機関での処置を勧めます。
- 靴・靴下の選択
- サイズが合い、柔らかく、通気性の良い素材の靴を選ぶよう指導します。新しい靴は午後に(足がむくむため)、少し余裕のあるサイズを選びます。
- 靴下は、縫い目がなく、吸湿性の良い木綿やウール素材を勧めます。
- 日常生活での注意点
- 低温熱傷を防ぐため、湯たんぽやカイロは直接肌に当てない。
- こたつやストーブに近づきすぎない。
- 裸足で歩かない。
- 毎日のフットチェックを習慣化するよう促します。視力が悪い場合は、鏡を使ったり家族に見てもらったりする方法を具体的に伝えます。
- 異常の早期発見・早期受診
- 「どんな小さな傷でも、自分で判断せず、すぐに看護師や医師に相談してください」と繰り返し伝えることが、重症化を防ぐ鍵です。