急性腎不全(ARF)について|疾患の概要から看護のポイントまで徹底解説
あずかん受け持ち患者さんのインアウトバランスを計算していて、「前日に比べて、今日の尿量が明らかに少ないな…」「なんだか急に血圧が下がって尿の出が落ちてきたな」とヒヤッとしたことはありませんか?
臨床で遭遇する「急激な尿量低下」や「急激な腎機能データの悪化」は、急性腎障害の強力なサインです。
急性腎障害はその発生プロセスによって「腎前性」「腎性」「腎後性」の3つに分類されますが、この鑑別を迅速に行えるかどうかが、患者さんの腎機能を救えるかどうかの分かれ道になります。今回は、アセスメントの優先順位を整理して紹介します。
サクッと復習!疾患の概要
急性腎障害とは、数時間から数日の間に急激に腎機能が低下し、高窒素血症や電解質異常、体液バランスの維持が困難になる病態です。


腎前性(原因の55〜60%)
病態・原因
腎臓そのものに異常はなく、全身の循環血液量減少や血圧低下による「腎血流量の低下」が原因。脱水、大出血、心不全、敗血症性ショックなど。
治療
急速輸液による循環血液量の確保、昇圧薬の投与など。早期対応で速やかに可逆的回復を示します。
腎性(原因の35〜40%)
病態・原因
腎臓のろ過装置(糸球体)や尿細管そのものが直接障害された状態。造影剤や抗菌薬などの薬剤毒性、腎前性の重症化による急性尿細管壊死(ATN)、糸球体腎炎など。
治療
原因薬剤の中止、原疾患の加療。尿細管の再生を待つための厳密な水分・電解質管理や一時的な血液浄化療法(CHDFなど)。
腎後性(原因の約5%)
病態・原因
腎臓で作られた尿の排泄経路(尿管、膀胱、尿道)が閉塞した状態。前立腺肥大症、尿管結石、骨盤内腫瘍の浸潤、尿道カテーテルの閉塞など。
治療
尿道カテーテル留置、腎瘻造設、尿管ステント留置などによる迅速な「尿路閉塞の解除」。
観察ポイント&根拠
| 観察項目 | 観察ポイント | 根拠・予測 |
|---|---|---|
| 経時的な尿量測定と時間尿の推移 | 尿道カテーテル留置中の場合は毎時の時間尿(目標:0.5mL/kg/hr以上)を計測。自尿の場合は排尿ごとの測定値を記録し、過去数日間の推移および前日とのインアウトバランス(水分出納)を正確に比較する。 | 【尿量変化の早期察知とAKIステージ評価】 尿量低下は血清クレアチニン(Cr)値が上昇するよりも数時間から半日早く現れる「最も感度の高いサイン」です。時間尿が0.5mL/kg/hr未満に落ち込んだ時点で、腎灌流圧の低下または尿路閉塞が生じていると予測し、介入を開始する必要があります。 |
| 皮膚・粘膜の乾燥、頸静脈の怒張、心不全症状 | 舌の乾燥度、皮膚の緊張度(ツルゴール低下:鎖骨下を軽くつまんで戻りが2秒以上かかるか)を確認。同時に平臥位での頸静脈怒張の有無、両下肢の圧痕性浮腫、肺雑音(湿性ラ音)の有無を聴診する。 | 【「腎前性(血管内脱水)」か「腎性(溢水)」かの鑑別】 ツルゴール低下や舌の乾燥、血圧低下(収縮期血圧90mmHg未満)があれば脱水(腎前性)を強く疑います。逆に、尿量低下に加えて頸静脈怒張や両下肢浮腫、肺の湿性ラ音があれば、心不全による腎血流低下(心腎症候群)、あるいは腎障害による体液過剰(溢水)をアセスメントできます。 |
| 検査値(Cr、BUN、K)の推移評価 | 血清クレアチニン(Cr)の前日比1.5倍以上の急増、BUN/Cr比(通常10:1前後)の上昇度をチェック。特に血清カリウム(K)値が5.5mEq/Lを超えて上昇していないかチェックする。 | 【高カリウム血症による致死性不整脈の回避】 BUN/Cr比が「20:1以上」に乖離して上昇している場合は、腎前性の脱水を示唆します。また、尿排泄が途絶えるとカリウムが体内に貯留し、致死的な心室細動(Vf)や心停止を引き起こすため、K値の急増を確認した瞬間に、医師へ報告して12誘導心電図を準備します。 |
もし患者さんがこう言ったら、あなたはどうする?
病棟で、特に高齢の男性患者さんや、整形外科・腹部外科の手術後ベッド上安静中の患者さんが「お腹が張って苦しいのに、トイレに行っても尿がちょろちょろとしか出ないんだ…」と言ったら?
単なる「便秘」や「術後の排尿困難」と捉えて様子を見てはいけない、緊急のシチュエーションです。
対応アクションと会話例
- 対応アクション
- すぐに患者さんの下腹部(恥骨上窩)を露出させ、膨隆がないか視診し、軽く触診(弾力のある腫瘤感と打診での濁音を確認)します。
- ポータブル超音波画像診断装置(ブラダースキャン)を持ち込み、膀胱内残尿量を測定します(300∼500mL以上の貯留があれば尿閉と確定)。
- 会話例
「お腹が張ってとてもお辛いですね。おしっこを作ったけれど、出口のところで詰まって出せなくなっている可能性があります。今から痛みのないエコーの器械をあてて、お腹の中におしっこがどのくらい溜まっているか確認しますね。(測定後)尿が溜まっていることが分かりましたので、先生に報告して、すぐに細いクダ(尿道カテーテル)を入れておしっこを抜く準備をします。抜けばすぐに楽になりますからね。」
現場で差がつく看護のコツ
| 工夫・コツ・アイデア | 具体的な手技・環境調整 | 期待される効果・メリット |
|---|---|---|
| 「腎前性」での急速輸液時の『30分ルール』 | 脱水(腎前性)に対して医師から「生食500mLを1時間で全開投与」などの指示が出た際、ただ流すだけでなく、開始後30分で必ず肺雑音の有無を聴診し、SpO2が低下していないかを評価する。 | 【心負荷による急性肺水腫の予防】 脱水だと思って急速に水分負荷をかけた際、実は潜在的な心機能不全や腎不全(腎性)が合併していると、血管内から溢れた水分が急速に肺胞へ漏れ出し肺水腫を起こします。30分時点でのチェックが早期発見に繋がります。 |
| 一時的な「尿量ゼロ」を疑ったら、まずルートの確認 | カテーテル留置中の患者さんで、時間尿の回収時にバッグに1滴も溜まっていない(無尿)場合、慌ててドクターコールする前に、カテーテルが患者さんの大腿の下で自重で潰れていないか、あるいは恥骨結合より高い位置に吊るされていないか(逆流防止)をベッドサイドで直接手で触って確認する。 | 【機械的閉塞(フェイク無尿)の除外】 カテーテルのねじれや屈曲を直した途端に、数百度の尿が勢いよくバッグに流れ込んで解決することが多々あります。不要な精密検査やドクターへの誤報告を防ぎ、業務の信頼性を高めます。 |
新人さんが陥りやすいミスへの対策
新人の頃って、医師の指示に「朝の採血データでCr値が1.5mg/dLを超えていたら報告」と書いてあると、その数値だけを必死に追いかけてしまいがちですよね。そしてデータが出てから「大変です!」と報告すると、先輩から「今日の朝の尿量はどうだった?夜勤帯から減ってたんじゃない?」と突っ込まれて答えに詰まる……これは誰もが通る道です。
腎臓のアセスメントで一番大切なのは、「採血データ(Cr)は、数時間前にすでに起きた腎障害の結果を遅れて示している」という時間差を意識することです。今、目の前で起きている「時間尿の低下」こそが、リアルタイムの腎臓の悲鳴です。
「Crの数値」という結果を見る前に、「尿量の変化(インアウトバランス)」や「皮膚のツルゴール」というプロセスを先回りしてアセスメントできるようになると、あなたの看護の視点は一気にプロの領域へステップアップします。