2025年4月7日、静岡県内で事故を起こした広末涼子さんが、搬送された病院で女性看護師に対して暴力を振るったとして逮捕・送検される事件が発生しました。彼女は看護師の足を蹴ったり、腕を引っかいたりした容疑で逮捕され、その後、処分保留で4月16日に釈放されました。この事件は、ペイシェントハラスメント(通称「ペイハラ」)の一例として注目を集め、SNS上でも医療従事者が今まで自身に行われたペイハラを噴出させるなど、医療現場における暴力の問題を再認識させるきっかけとなりました。
そもそも、ペイシェントハラスメントは、医療現場において患者やその家族が医療従事者に対して行うハラスメントを指します。具体的には、暴言、脅迫、身体的暴力、過剰な要求、無理なクレームなどが含まれ、医療従事者の精神的・身体的健康に深刻な影響を及ぼし、医療の質の低下などにも影響を与えています。ペイハラが発生する背景にはいくつかの要因があげられます。
①患者側への配慮: 医療は患者の善意に支えられている側面があり、医療従事者側が患者の言動を問題視することで、信頼関係が損なわれることを恐れる傾向がありました。また、病気や不安を抱える患者に対して、ある程度の感情的な言動を許容すべきだという考え方も根強く存在しました。そのため、暴力行為があったとしても、「信頼関係が築けていないからだ」「あなたの対応の方法が悪かったからだ」と医療従事者が悪いと考えられていました。
②「お客様は神様」的な考え方: サービス業としての側面が強調されるにつれ、「患者はお客様」という意識が広がり、顧客満足度を優先するあまり、理不尽な要求や言動にも対応せざるを得ない状況が生まれていました。また、ネットの口コミサイトなどの普及により、患者の体験談などが容易に検索できるようになり、真偽問わず、それが医療機関の評価となってしまうため、理不尽な要求や言動に「NO」と言えない環境を生み出してしまいました。
③問題提起することへの躊躇: 医療現場は多忙であり、ハラスメントの問題に対処する時間や精神的な余裕がないことも少なくありませんでした。また、問題を提起することで、職場の人間関係が悪化したり、自身が不利益を被るのではないかという懸念もありました。また、他職員がペイハラに晒されていても、職場が対応してくれない現状があると、「どうせ被害を訴えたところで、守ってもらえない」という状態が出来てしまい、誰も被害を口に出せない環境になってしまいました。
④ハラスメントの定義の曖昧さ: ペイハラの線引きが不明確であったことが、ペイハラを黙殺されてきた原因にもなっています。クレームとの区別がつきにくく、主観に委ねられる部分が大きかったため、具体的な対策が困難でした。
⑤医療機関側の対応ノウハウの不足: ペイハラに対する具体的な対応マニュアルや研修が十分でなかったことも、黙殺の一因です。どのように対応すれば良いのか分からず、結果として問題が放置され多くの医療従事者が医療現場を離れていきました。
ペイハラの理不尽さは、医療従事者が患者の健康を守るために尽力しているにもかかわらず、暴力やハラスメントの対象となることにあります。医療従事者は、患者の命を預かる重要な役割を果たしているが、その努力や献身が理解されず、逆に攻撃されることが日本全国の病院・クリニック・施設などで起こっています。
医療従事者は常にこの理不尽な状況にさらされてきました。私たち医療従事者は、決してサンドバッグなどではありません。理不尽な要求・暴言に対して傷つき、無力感を感じ疲弊していきます。
私たち医療従事者が安心して働くことが出来る環境を整備し、そして将来にわたっても安定した医療体制を提供できるために、この問題を風化させてはいけません。
