便秘について

便秘の病態生理から看護のポイントまで徹底解説

あずかん

臨床現場で頻繁に遭遇する「便秘」。患者さんのQOLに大きく影響するだけでなく、時には重篤な状態につながることもあるため、的確なアセスメントとケアが求められます。
この記事では、便秘について、病態生理から看護のポイントまでを解説します。この記事を読んで、便秘の患者さんへの理解を深め、自信を持ってケアを提供できるようになりましょう。


目次

便秘とは

便秘は、単に「便が出ない」状態ではありません。医学的には「本来体外へ排出すべき糞便を十分量かつ快適に排出できない状態」と定義されています。

便が作られ、排出されるまでには、以下の3つの主要なプロセスが関わっています。

大腸による便の形成と輸送
内容物: 食物繊維が少なく、脂肪の多い食事は、便の量を減らし、硬くします。
蠕動運動: 大腸がリズミカルに収縮し、内容物を肛門方向へ送ります。ストレスや薬剤、運動不足などでこの動きが低下すると、便の通過時間が長くなり、水分が過剰に吸収されて便が硬くなります。

直腸の感覚と便意
便が直腸に到達すると、直腸壁が伸展し、その刺激が骨盤神経を介して仙髄の排便中枢に伝わります。
この情報がさらに大脳皮質へ伝わることで、「便意」として認識されます。

骨盤底筋群と腹圧による排出
便意を感じ、排便の準備が整うと、大脳皮質からの指令で直腸が収縮し、内肛門括約筋が弛緩します。
さらに、意識的に腹圧をかけ(いきみ)、外肛門括約筋と恥骨直腸筋を弛緩させることで、便が排出されます。

これらのプロセスのいずれかに異常が生じることで、便秘は引き起こされます。

便秘の原因

便秘の原因は多岐にわたり、複数の要因が絡み合っていることも少なくありません。大きく「機能性便秘」と「器質性便秘」に分けられます。

機能性便秘

大腸や直腸の機能的な問題によって起こる便秘で、ほとんどの慢性便秘がこれにあたります。

  • 排便回数減少型
    • 大腸通過正常時間型: 食物繊維不足や水分不足が主な原因。便の量が少なく、排便回数が減少します。
    • 大腸通過遅延型: 蠕動運動そのものが低下している状態。薬剤(抗コリン薬、オピオイドなど)や糖尿病性神経障害、甲状腺機能低下症などが原因となることがあります。
  • 排便困難症(直腸性便秘)
    • 便が直腸まで来ているにもかかわらず、うまく排出できない状態です。
    • 便意の我慢の繰り返しにより直腸の感受性が低下したり、骨盤底筋群の協調運動が障害されたりすることが原因です。高齢者や出産後の女性に多く見られます。

器質性便秘

腸そのものに物理的な問題がある場合です。

  • 狭窄性: 大腸がん、クローン病、虚血性大腸炎などにより、腸管が狭くなっている状態。
  • 非狭窄性: 巨大結腸症や骨盤内腫瘍による圧迫などが原因となります。

その他、便秘を引き起こす一般的な要因

  • 生活習慣: 食物繊維・水分不足、運動不足、不規則な生活
  • 加齢: 腹筋力の低下、腸管機能の低下、食事量の減少
  • ストレス: 自律神経の乱れによる蠕動運動の低下
  • 薬剤の副作用: オピオイド系鎮痛薬、抗うつ薬、抗コリン薬、制酸薬など
  • 妊娠: ホルモンバランスの変化や子宮による大腸の圧迫
  • 環境の変化: 入院や旅行など

便秘による症状

便秘の症状は、排便に関するものから全身的な不快症状まで様々です。

  • 排便に関する症状
    • 排便回数の減少
    • 硬便(兎糞状便)
    • 過度のいきみ
    • 残便感
    • 排便時の肛門の痛みや閉塞感
    • 指で便をかき出すなどの用手的な介助が必要
  • 腹部症状
    • 腹部膨満感、腹痛
    • 食欲不振、悪心・嘔吐
  • 全身症状
    • イライラ、不快感
    • 肌荒れ
    • 頭痛、めまい

特に高齢者では、便秘が原因で食欲不振から低栄養に陥ったり、強い腹痛や嘔吐からイレウス(腸閉塞)を疑う状態になったり、硬い便が直腸に詰まる「糞便塞栓」を引き起こすこともあります。

治療・対症療法

便秘治療は、原因に応じて段階的に行われます。

生活習慣の改善(セルフケア)

まず基本となるのが生活習慣の見直しです。

  • 食事療法
    • 食物繊維の摂取: 1日20g以上を目安に、水溶性(海藻、果物など)と不溶性(穀物、きのこ、豆類など)をバランス良く摂取します。
    • 水分摂取: 1日1.5〜2リットルを目安に、こまめに水分を摂ります。特に朝起きてすぐの飲水は、腸を刺激し蠕動運動を促します。
    • その他: 発酵食品(ヨーグルト、納豆など)やオリゴ糖、適度な油分も有効です。
  • 運動療法
    • ウォーキングやストレッチなど、軽度な運動を習慣づけることで、腸の動きを活発にします。腹筋を鍛えることも効果的です。
  • 排便習慣の確立
    • 毎日決まった時間(特に朝食後)にトイレに行く習慣をつけます。便意がなくても数分間座ることで、排便のリズムが整いやすくなります。
    • 便意を感じたら我慢しないことが重要です。

薬物療法

生活習慣の改善で効果が見られない場合や、症状が強い場合には薬物療法を行います。

  • 便を柔らかくする薬(浸透圧性下剤)
    • 酸化マグネシウム、ラクツロースなど
    • 腸管内の水分量を増やし、便を柔らかくして排泄しやすくします。慢性便秘治療の第一選択薬としてよく用いられます。
  • 腸を刺激する薬(刺激性下剤)
    • センノシド、ピコスルファートナトリウムなど
    • 大腸を直接刺激して蠕動運動を亢進させます。頓用での使用が原則で、長期連用は耐性や習慣性を生むため注意が必要です。
  • その他の新規薬剤
    • 上皮機能変容薬: ルビプロストン、リナクロチドなど。腸管への水分分泌を促進します。
    • 胆汁酸トランスポーター阻害薬: エロビキシバット。大腸への胆汁酸流入を増やし、蠕動運動を促進します。
    • オピオイド受容体拮抗薬: ナルデメジン。オピオイド誘発性便秘に使用されます。

その他の治療法

  • 摘便
    • 硬い便が肛門付近に詰まっている場合(糞便塞栓)、指で直接便をかき出す処置です。患者にとっては苦痛を伴うため、最終手段と考えます。実施時は十分な説明とプライバシーへの配慮が必要です。
  • 浣腸
    • グリセリンなどを肛門から注入し、直腸を刺激して排便を促します。習慣性があるため、安易な使用は避けるべきです。

看護のポイント

便秘の患者さんへの看護では、個別性に合わせたアセスメントとケアプランの立案が重要です。

的確なアセスメント

  • 排便状況の確認
    • 「いつから出ていないか」だけでなく、「最後の排便はいつか」「便の性状(ブリストル便形状スケールなど)」「量」「残便感の有無」などを詳しく聴取します。
    • 排便日誌をつけてもらうことも有効です。
  • 腹部のアセスメント
    • 視診(膨満の有無)、聴診(腸蠕動音の聴取)、打診(鼓音、濁音)、触診(硬さ、圧痛の有無)を丁寧に行います。
  • 原因の評価
    • 食事内容、水分摂取量、活動量、使用中の薬剤、既往歴、精神的ストレスなど、便秘の原因となりうる因子を多角的に情報収集します。
  • 器質的疾患のスクリーニング
    • 急激な便秘の発症、体重減少、血便、強い腹痛などの「レッドフラッグサイン」がある場合は、器質的疾患を疑い、速やかに医師に報告する必要があります。

個別性に応じたケア

  • 生活習慣指導
    • アセスメントに基づき、患者の生活スタイルに合わせて実現可能な目標を設定し、食事や運動について具体的に助言します。管理栄養士と連携することも有効です。
  • 安楽な排便環境の提供
    • プライバシーが守られ、リラックスできるトイレ環境を整えます。
    • ポータブルトイレを使用する場合は、カーテンで仕切るなどの配慮をします。
    • 排便しやすい姿勢(前傾姿勢、足台の使用)を整えることも重要です。
  • 腹部マッサージ
    • 「の」の字を描くように、優しく腹部をマッサージすることで、腸の蠕動運動を促し、ガスや便の移動を助けます。食後すぐは避け、リラックスした状態で行います。
  • 温罨法
    • 腹部を温めることで、腸管の血行が良くなり、蠕動運動が活発になります。
  • 精神的ケア
    • 便秘による不快感や羞恥心に共感し、患者が悩みを話しやすいような信頼関係を築きます。治療には時間がかかる場合があることを説明し、焦らずに取り組めるよう支援します。
  • 薬剤に関する管理と説明
    • 医師の指示に基づき、薬剤を適切に使用します。
    • 下剤の種類や作用、副作用について患者に分かりやすく説明し、自己判断での中断や乱用がないように指導します。特に刺激性下剤の連用リスクは丁寧に説明する必要があります。
参考資料
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