低血糖と高血糖について

あずかん

夜勤帯、糖尿病患者さんのラウンドで「なんか反応が悪い」「様子がおかしい」と感じた瞬間、頭の中で低血糖と高血糖、どちらの可能性を先に考えますか?
低血糖は数分〜数十分で意識消失やけいれんに至り、対応が遅れれば低血糖脳症という不可逆的な後遺症を残すこともあります。一方、高血糖は糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)や高浸透圧高血糖状態(HHS)に進行すると、著明な脱水と電解質異常から多臓器不全に発展するリスクを抱えています。

どちらも「血糖値」という一つの検査データが分かれ道になる病態ですが、症状の出方も対応の優先順位も全く違います。ドクターコールをする前に、自分の中で「これは低血糖なのか、高血糖の悪化なのか」を切り分けられるかどうかが、初動対応のスピードを左右します。今日はこの2つの病態を整理していきます。


目次

【保存版】観察項目&根拠

低血糖時の観察ポイント

観察項目観察ポイント根拠・予測
交感神経症状(冷汗・振戦・頻脈)患者さんの手掌や背部の湿り気を触診で確認し、脈拍数・脈の性状(速く弱い脈か)を測定する。手指の振戦の有無も観察する。血糖値が70mg/dL前後まで低下すると、生体は血糖を上げようとカテコラミン(アドレナリン)を放出します。これによる交感神経刺激症状(冷汗、振戦、動悸、頻脈)は、低血糖の「警告サイン」として、意識障害が起こる前段階で捉えられる重要な所見です。
中枢神経症状(意識レベル・言動の変化)JCSやGCSでの意識レベル評価に加え、「ろれつが回っているか」「会話の内容がいつもと比べて的を射ているか」を確認する。普段の患者さんとの会話パターンを知っているスタッフの情報も収集する。血糖値が50mg/dL以下まで低下すると、中枢神経のブドウ糖利用が障害され、中枢神経症状(傾眠、錯乱、異常行動、けいれん、昏睡)が出現します。「いつもと様子が違う」という些細な変化こそ、中枢神経症状の初期段階を捉える最も感度の高いサインです。
血糖測定のタイミングと再検の判断症状を確認したら、簡易血糖測定器で即時測定し、対処後15分後に必ず再検を行う。測定値と症状の重症度が一致しているかも併せて評価する。経口摂取やブドウ糖静注後、血糖値は一過性に改善しても、インスリン作用時間やSU剤の半減期によって再度低血糖に陷るリバウンド(遅発性低血糖)が起こり得ます。1回の測定値で安心せず、時間を空けた再検によるトレンドの確認が再発防止の鍵になります。
低血糖の原因検索(薬剤・食事摂取量とのズレ)直近のインスリン投与量・時刻、経口血糖降下薬の内服状況、食事摂取量(全量摂取できたか、下膳が早かったか)をカルテと実際の食事記録から突き合わせる。低血糖の多くは、「インスリンや薬剤の投与量」と「実際の糖質摂取量・活動量」のミスマッチが原因です。ここを突き合わせることで、単発のエピソードなのか、指示量そのものの見直しが必要なのかをアセスメントする材料になります。
低血糖無自覚症状(Hypoglycemia Unawareness)の既往罹病期間の長い糖尿病患者さんや高齢患者さんでは、過去の低血糖歴・自律神経障害(起立性低血圧など)の合併がないかをカルテで確認する。糖尿病の罹病期間が長い患者さんは、自律神経障害により交感神経症状が出現しにくくなり(無自覚性低血糖)、いきなり意識障害から発症するケースがあります。このハイリスク群を把握しておくことで、「症状が軽いから大丈夫」という誤った安心を避けられます。

高血糖(DKA・HHSへの進行を含む)の観察ポイント

観察項目観察ポイント根拠・予測
脱水所見(皮膚・粘膜・尿量)口腔粘膜や舌の乾燥、皮膚のツルゴール反応、時間尿量の推移を経時的に確認する。体重の変化も可能であれば追う。高血糖状態では、腎の再吸収閾値を超えたブドウ糖が尿中に排出される浸透圧利尿により、著明な脱水が進行します。HHSでは特に脱水が高度になりやすく、循環血液量減少性ショックへの進行を予測する重要な所見です。
呼吸様式(クスマウル呼吸)と呼気臭呼吸回数だけでなく、深く大きいゆっくりとした呼吸(クスマウル呼吸)の有無を観察し、呼気に果物様の甘い臭い(アセトン臭)がないかを確認する。DKAでは、インスリン欠乏により脂肪分解が亢進しケトン体が生成されることで代謝性アシドーシスが進行します。クスマウル呼吸は、呼吸性代償としてCO2を排出しようとする生体反応であり、アセトン臭はケトン体そのものの臭いです。この所見が見られたらDKAを強く疑う根拠になります。
意識レベルと血糖値・浸透圧の関連意識レベルの変化を確認する際、血糖値の数値だけでなく、可能であれば血清浸透圧(推定:2×Na+血糖値/18+BUN/2.8)も併せて評価する。HHSでは、血糖値が600mg/dL以上、血清浸透圧が320mOsm/kg以上に達すると、著明な高浸透圧により意識障害が出現します。DKAに比べてアシドーシスは軽度でも意識障害が重篤化しやすいという違いを理解しておくと、DKAとHHSの鑑別の視点が深まります。
消化器症状(悪心・嘔吐・腹痛)腹部の圧痛の有無、嘔気・嘔吐の頻度と性状、腸蠕動音の減弱がないかを確認する。特に小児や若年1型糖尿病患者では腹痛の訴えに注意する。DKAではケトアシドーシスによる消化管平滑筋の運動障害や炎症性メディエータの影響で、急性腹症様の腹痛(偽性急性腹症)が出現することがあります。虫垂炎などの外科疾患と誤診されるケースもあるため、血糖値と併せて評価する視点が必要です。
輸液・インスリン治療中のカリウム値モニタリングインスリン投与開始後は、心電図モニターの波形変化(T波の平坦化、U波の出現)と、定期的な血清カリウム値の推移を必ず追う。DKA/HHSの治療では、インスリン投与により細胞内にカリウムが移動し、急激な低カリウム血症を引き起こすリスクがあります。治療開始前は高血糖・アシドーシスの影響で見かけ上カリウムが正常〜高値に見えていることも多く、治療が進むにつれて「見かけの正常値」が「真の低カリウム血症」に転じるという視点を持つことが不整脈の予防に直結します。

現場で役立つ+αの看護ポイント

低血糖対応の「15-15ルール」を体に叩き込んでおく

経口摂取可能な患者さんには、ブドウ糖10〜20g(ブドウ糖タブレットやジュース150〜200mL程度)を摂取してもらい、15分後に再検するという流れを、慌てた状況でもすぐ動けるように普段からイメージトレーニングしておくと安心です。経口摂取が不可能な場合や意識レベルが低下している場合は、経口摂取による誤嚥リスクを避け、速やかに静脈路確保とブドウ糖静注(50%ブドウ糖20mLなど、施設のプロトコルに従う)に切り替える判断が必要になります。

αグルコシダーゼ阻害薬内服中の低血糖には、ブドウ糖以外は無効

αグルコシダーゼ阻害薬(アカルボースなど)を内服している患者さんは、二糖類(砂糖)の分解が阻害されているため、ジュースや飴を与えても血糖上昇効果が乏しく、必ずブドウ糖そのもの(グルコース)を投与する必要があります。この薬剤特性を知らずに対応すると、低血糖の改善が遅れてしまうため、内服薬の確認は初動対応と同時進行で行いたいポイントです。

シックデイルールの指導は「発症時」ではなく「平常時」に行う

発熱や食欲不振などのシックデイ時は、インスリンや経口血糖降下薬の自己調整判断が必要になりますが、体調が悪い最中に初めて説明しても患者さんの理解度は上がりません。外来や退院指導のタイミングで、あらかじめ「熱が出たとき、食事が半分以下しか摂れないときはどうするか」を具体的にシミュレーションしておくことが、急性増悪の予防に繋がります。

夜勤帯での急変時は「血糖測定を後回しにしない」

意識レベル低下やけいれんで急変対応をする際、つい気道確保やモニター装着を優先してしまい、血糖測定が後手に回るケースがあります。しかし、簡易血糖測定は数十秒で結果が出る検査であり、低血糖であればブドウ糖投与だけで速やかに意識レベルが改善することも多いです。急変時のプロトコルの中に、「血糖測定」を初期評価の一項目として組み込んでおくと、対応のスピードが上がります


参考資料

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