血糖測定について|手技の概要から看護のポイントまで徹底解説
あずかん病棟や外来において、日常茶飯事のように行う血糖測定。
あまりにも頻度の高いルーチンワークであるため、「指をアルコール綿で拭いて、パチンと刺して測るだけ」と、何気なく実施していませんか?
実は、簡易血糖測定は手順を一つ間違えるだけで、血糖値が「数十 mg/dL単位」で狂ってしまい、最悪の場合は医師のインスリン指示(スライディングスケール)の選択ミスを誘発して、人工的な重篤低血糖や高血糖昏睡を引き起こすリスクを秘めています。さらに、穿刺部位の選定を誤ると患者さんに「日常生活に支障をきたすほどの強い痛み」を継続して与えてしまいます。
今回は、一回で確実に十分な血液量を採取し、誤差のない正確な数値を導き出し、かつ患者さんの痛みを最小限に抑える技術と根拠を徹底解説します。
【完全ガイド】血糖測定の手順と根拠
| 手順 | 根拠・予測 | ここがポイント! |
|---|---|---|
| 【準備:手の温めと血流促通】 患者さんの手が冷たい場合、穿刺する前に手首から指先に向けて5〜6回優しくマッサージをするか、微温湯で手洗いをしてもらい、手を心臓より低い位置に下垂させておく。 | 【微小循環の改善と、血液の希釈防止】 末梢が冷えて血管が収縮した状態で無理に穿刺すると、十分な血液量が得られません。その状態で指を無理に強く絞り出すと、血管外の細胞間質液が搾り出されて血液に混入(希釈)し、血糖値が本来の数値より著しく低く測定される原因になります。 | 【絶対に「強く絞り出さない」】 「刺したけれど血が足りないから、指の根元からギューギュー搾り出す」のは最大のNG行為。測定値の信頼性が完全に失われます。穿刺前の加温と下垂こそが、一発で綺麗な血滴を作る最大の秘訣です。 |
| 【消毒と完全乾燥】 アルコール消毒綿で穿刺部位を清拭した後、最低でも15秒以上放置し、皮膚表面が「完全に乾燥した」ことを目視で確認する。(アルコール過敏症の場合は非アルコール系消毒薬を使用する) | 【溶血の防止と、測定エラーの回避】 アルコールが半乾きの状態で穿刺すると、流出した血液とアルコールが混和して赤血球が破壊(溶血)されます。また、アルコールそのものがセンサーの酵素反応を阻害したり、液体の体積を薄めたりするため、血糖値が異常に低く、あるいは高く表示される誤差の最大の原因になります。 | 【ふーふー息を吹きかけるのは禁止】 早く乾かそうと口で息を吹きかけると、唾液による飛沫汚染(交差感染)の原因になります。自然乾燥を待つ間に、血糖測定器にセンサーを差し込んで起動する動作を行うと無駄がありません。 |
| 【穿刺部位の選定と皮膚の伸展】 指先の「正中」を避け、「指尖部の側副」を選択する。穿刺する側の手の親指で、患者さんの穿刺部周辺の皮膚を「横方向へピンと突っ張るように伸展」させながら、穿刺器具を皮膚に対して「90度垂直」にしっかりと押し当てて穿刺ボタンを押す。 | 【痛みの軽減と、確実な穿刺深さの確保】 ・指の腹の中心は痛点(神経末梢)が最も密集しており、物をつまむ際に常に触れる場所なので、ここを刺すと激しい残存痛を生じます。側副は痛点が比較的少なく、日常生活での接触頻度も低いため苦痛を最小限に抑えられます。 ・皮膚がたるんだ状態で穿刺すると、針の衝撃が逃げて十分に穿刺できず、測定に不十分な浅い傷しかできません。皮膚を伸展させて垂直に押し当てることで、ブレずに一定の深さまで針が到達します。 | 【利き手やADLへの配慮】 基本的には、普段物を持ったり触れたりすることの少ない「非優位手」の「薬指または小指の側副」を選択すると、穿刺後の生活上の不便(しみる、痛む)を劇的に減らすことができます。 |
| 【採血とセンサー吸引】 穿刺直後に湧き出た最初の1滴は、滅菌ガーゼや乾燥綿でサッと拭き取り、その後に自然に盛り上がってきた「2滴目の血滴」を、測定器に挿入したセンサーの吸引口に直接吸い込ませる。(測定器の仕様により初滴で測定可能な場合はそれに従う) | 【組織液の混入排除と吸引エラー防止】 ・最初の1滴には、穿刺の衝撃で破壊された組織の液(組織間質液)や、皮膚表面に残存していた微量な水分・油脂が最も混入しやすいため、これを取り除くことで測定の正確性を担保します。 ・血液が十分に球状に盛り上がってから吸わせないと、センサー内で「血液量不足エラー」が起き、高価なセンサーチップを無駄にしてしまいます。 | 【センサーを皮膚に擦り付けない】 血をセンサーに吸わせる際、センサーの先端を皮膚に強く押し当てたり、こすりつけたりすると吸引が途切れ、エラーや数値のバラつきの原因になります。盛り上がった血滴の「山頂」にセンサーの先端をそっと触れさせる感覚で行います。 |
| 【後片付け・安全な廃棄】 測定終了後、速やかに患者さんの穿刺部に乾燥綿を当て、患者さん自身で「1〜2分間、指で強めに圧迫(圧迫止血)」してもらう。使用済みの穿刺針は、針を露出させない機構のものはそのまま、または器具の廃棄レバーを用いて、その場で直接医療用鋭利物廃棄容器(シャープスコンテナ)に廃棄する。 | 【止血の確実性と、針刺し事故・交差感染の防止】 ・穿刺部は小さくとも動脈系に近い末梢毛細血管を傷つけているため、揉んでしまうと内出血(紫斑)を形成します。揉まずに静的圧迫を行うことで、確実にフィブリン血栓を作らせます。 ・穿刺針をトレイに放置して持ち歩いたり、ゴミ箱へ直に捨てたりすることは、自分自身や清掃スタッフの針刺し事故・血液媒介感染(HBV・HCVなど)のリスクを極限まで高める最も危険な行為です。 | 【手袋をした手で片付ける】 測定後のセンサーや綿球には、肉眼で見えなくとも必ず血液が付着しています。すべての片付けが終わり、手袋を外して、手指衛生(アルコール消毒)を完了するまでが血糖測定という「一連の手技」です。 |
よくあるトラブル・疑問(Q&A)



Q. 何度指をマッサージして温めてから刺しても、どうしても血液が豆粒大まで盛り上がらず、測定エラーになってしまいます。何か裏技はありませんか?



A1. 穿刺する瞬間の「皮膚の圧迫固定」をより強くし、穿刺直後に指の根元から「じわーっとワンストロークで」圧をかけてみてください。
血液が出にくい患者さんの場合、穿刺する前に「穿刺器具を皮膚に押し当てる強さ」が足りず、針が浅くしか入っていないケースが非常に多いです。器具の先端が皮膚に少し食い込むくらい(指の肉が逃げないように)しっかりと垂直に押し当ててからボタンを押してください。
それでも出にくい場合は、穿刺後、傷口から2cmほど離れた根元側の皮膚を、自分の親指と人差し指で挟み、傷口に向かって「じわーっ」と一度だけ圧をスライドさせて止めてみてください。
このとき、指先を「何度もパッパッと細かく揉み搾る」のは間質液が混ざるので絶対に避けます。1回だけ、優しく下から上へ血液を押し上げて、そのホールドを維持したまま血滴が丸く盛り上がるのを待つのが、エラーを起こさないプロの技です。



Q. 患者さんが「果物を食べた直後」に血糖測定をしたら、普段より異常に高い数値が出ました。食事の影響以外に何か原因はありますますか?



A. 患者さんの指に「果汁(果糖)」が付着したまま、消毒が不十分な状態で測定した可能性があります。
これは臨床で本当によくある落とし穴です。
みかんやリンゴ、ブドウなどの果物を手づかみで食べた後、あるいは甘いお菓子やジュースを触った後の指には、目に見えなくとも糖分がべったりと付着しています。
この状態でアルコール綿で1回サッと拭いただけで穿刺すると、皮膚表面の糖分が針先や流出血液に溶け込み、実態より100∼200mg/dL以上も高い「偽性高血糖」を叩き出すことがあります。
このような場合、または数値が不自然に高いと感じた場合は、アルコール綿での消毒を繰り返すのではなく、「まず患者さんに石鹸と流水でしっかりと手洗いをしてもらうこと」を徹底してください。手洗いができないADLの患者さんの場合は、濡らした温タオルやガーゼで糖分を物理的に拭き取ってから、乾燥させ、改めてアルコール綿で消毒して測定し直すことで、不必要なインスリン投与(およびそれによる医原性低血糖ショック)を完全に防ぐことができます。



Q. 片麻痺があり、かつ健側で点滴をしている患者さんの場合、血糖測定の穿刺はどちらの手で行うべきですか?



A. 原則として、麻痺の有無よりも「点滴をしていない側(非輸液側)」での測定を最優先するため、この場合は「非輸液側である麻痺側の手」を選択します。
臨床において、最優先すべき安全管理は「輸液による血液の希釈・混和(測定値の異常)を防ぐこと」です。
もし点滴が挿入されている健側の手で穿刺を行うと、注入されている輸液(特にブドウ糖液や電解質液)が末梢毛細血管に混入し、血糖値が異常に高くなったり、逆に薄まって低くなったりして正しい数値が得られません。
麻痺側を穿刺する際の手技とコツ
徹底的な加温
麻痺肢は廃用や自律神経障害によって末梢循環が低下し、血液が出にくい傾向にあります。穿刺前にホットパックで温める、あるいは微温湯で入念に指先をマッサージして血流を十分に促通させてから穿刺します。
事後のスキンチェック
麻痺側は感覚鈍麻があるため、万が一傷口から感染を起こしても患者さん自身が痛み(警告サイン)を訴えることができません。看護師が責任を持って「完全に止血したこと」を確認し、その後の穿刺部に発赤や熱感がないか、翌日以降も継続して観察してください。



Q. 両腕に点滴が入っているなど、指先での測定が困難な場合に「耳(耳朶)」で血糖測定をしても良いですか?



A. 非常に合理的で正しい選択肢(代替部位)です。特に末梢循環不全の患者さんにおいては、指先よりも正確な数値を反映しやすいメリットがあります。
耳朶は、解剖生理学的に外頸動脈の枝からダイレクトに血流供給を受けているため、静脈から注入されている点滴(上肢の輸液)の影響を物理的に一切受けません。
さらに、ショックや低体温、脱水などで全身の血管が収縮している「末梢循環不全」の局面において、四肢の指先は血流が途絶えて測定エラーになりやすい一方、頭部・顔面の一部である耳朶は、生体防御反応によって最後まで血流が保たれやすいという特性があります。
耳朶で測定する際の手技とコツ
「初滴(最初の1滴)」を確実に捨てる
耳朶は皮脂分泌が非常に活発な部位です。アルコール消毒・乾燥後に穿刺して出てきた最初の1滴には、皮膚表面の皮脂や組織液が混入しやすく、数値を狂わせる原因になります。必ず1滴目は乾燥綿で完全に拭き取り、新しく盛り上がってきた「2滴目」の綺麗な血液で測定してください。
穿刺深度の設定を「浅く」する
耳朶は指先よりも皮膚が薄く柔らかいため、指先と同じ深さ設定で刺すと深く入りすぎて強い痛みや内出血の原因になります。穿刺器具のダイヤルを普段より1〜2段階「浅め」に調整して穿刺するのが、患者さんの苦痛を最小限に抑えるベテランの配慮です。