てんかん発作について
あずかん病室や待合室で、患者さんが突然バタンと倒れ、全身をガクガクと震わせる強直間代発作に遭遇したとき。何度経験しても、一瞬頭が真っ白になるような緊張感がありますよね。「早く止めなきゃ!」「舌を噛まないようにしなきゃ!」と焦ってしまうかもしれませんが、実はその瞬間の私たちの「観察眼」と「初動」が、患者さんのその後の治療方針や命を大きく左右します。
今回は、いざ「てんかん発作」を目の前にした時、慌てずにアセスメントし、安全を守るためのポイントを現場のリアルな視点から紹介していきます。
サクッと復習!疾患の概要
てんかんは、大脳のニューロン(神経細胞)が突然、過剰に興奮する(異常な電気的発射を伴う)ことで、反復性の発作(てんかん発作)を引き起こす慢性的な脳疾患です。
- 病態と分類
- 脳の一部から異常興奮が始まる「焦点発作」(意識減損を伴うもの/伴わないもの)と、両側の大脳半球全体が同時に興奮する「全般発作」(強直間代発作、欠神発作など)に大別されます。
- 原因
- 脳腫瘍や脳血管障害、頭部外傷などの明確な原因がある「症候性てんかん」と、原因不明の「特発性てんかん」があります。
- 治療
- 抗てんかん薬(AEDs:イーケプラ、デパケン、ランドセンなど)の内服による発作のコントロールが基本です。難治性の場合は、焦点切除術や迷走神経刺激療法(VNS)などの外科的治療が選択されることもあります。
観察ポイント&根拠
発作中の患者さんを前にすると、全身の痙攣ばかりに目を奪われがちですが、医師が一番知りたいのは「脳のどこから異常な電気が発生したのか」です。
| 観察項目 | 観察ポイント | 根拠・予測 |
|---|---|---|
| 発作の「始まり方」と「眼球偏位」 | 痙攣が始まった瞬間、左右どちらの手足から始まったか、眼球や顔面が左右どちらかに引っ張られていないか(共同偏位)を真っ先に確認する。 | 【てんかん焦点(病変部位)の推定】 発作の初期症状は、異常興奮が始まった脳の部位を強烈に反映します。例えば、右側の手足から痙攣が始まったり、眼球が右を向いたり(右側への偏位)した場合、反対側である「左半球」に焦点があることを示唆する重要な所見となります。 |
| 発作の「持続時間」の計測 | 発作を目撃した瞬間、腕時計や壁時計を見て「何時何分から始まったか」を秒単位で記憶し、完全に痙攣が消失するまでの時間を計測する。 | 【てんかん重積状態(SE)の予測と薬剤準備】 発作が5分以上持続する場合、または意識が回復しないまま発作を繰り返す場合は「てんかん重積状態」と判断されます。脳の不可逆的なダメージ(低酸素脳症など)を防ぐため、開始から3〜5分経過した時点で、直ちにジアゼパム(セルシン)等の静注準備に取り掛かるサインになります。 |
| 発作後の麻痺(Toddの麻痺)と意識レベル | 痙攣が治まった後、患者さんの名前を呼びかけ、JCS/GCSを評価する。同時に、左右の手足を動かしてもらい、一過性の片麻痺(Toddの麻痺)や構音障害がないかを確認する。 | 【発作後状態の評価と新たな脳血管障害の除外】 発作後は、過剰に興奮した脳が疲弊するため、一過性の麻痺(Toddの麻痺)や意識朦朧状態が数十分〜数時間続くことがあります。これが発作後の一過性のものか、あるいは新たな脳出血などを合併しているのかを予測するためのベースライン評価となります。 |
もし患者さんが「お風呂の途中でまた発作が起きたら…と思うと、怖くて一人で入れません」と言ったら?
てんかんを持つ患者さんは、いつ起こるか分からない発作に対する「予期不安」を常に抱えています。特に入浴中は、溺水による死亡リスクが高まるため、強い恐怖を感じやすい場面です。
対応アクションと会話例
- 不安を受容し、具体的な安全策(妥協点)を一緒に考える
- 「いつ発作が起きるか分からない中で、一人でお風呂に入るのは本当に怖いですよね。お風呂で倒れてしまうと危険なので、入院中は湯船には浸からず、シャワーだけにしませんか?」
- プライバシーに配慮した見守りの提案
- 「もしよろしければ、シャワー中は私が脱衣所のドアのすぐ外で待機して、『シャンプー終わりましたか?』と時々お声掛けしますね。もしお返事がなかったらすぐに確認できるようにしておけば、少しは安心して入れますでしょうか?」
- このように、具体的なアクションを提示することで、患者さんは「自分の安全が守られている」という安心感を得やすくなります。
現場で差がつく看護のコツ・ポイント
発作時の対応は、「何をするか」よりも「何をしないか(二次被害を防ぐか)」が重要になる場面が多々あります。
| 工夫・コツ・アイデア | 具体的な手技・環境調整 | 期待される効果・メリット |
|---|---|---|
| 口にタオルや割り箸を「絶対に」入れない | 発作で歯を食いしばっていても、口腔内には何も突っ込まず、顔を横に向ける(側臥位にする)だけにとどめる。 | 「舌を噛むから」とタオルや指をこじ開けて入れるのは、昔のドラマの悪影響です。患者さんの歯が折れたり、異物が気道を塞いで窒息したりする危険が高まります。顔を横に向ける(回復体位)だけで、唾液や吐物の誤嚥は十分に防げます。 |
| ベッド柵の保護(環境整備) | 発作の頻度が高い患者さんの場合、ベッドのサイドレールにバスタオルを巻いてテープで固定するか、専用の保護カバーを装着しておく。 | 強直間代発作が起きると、手足が激しくベッド柵に打ち付けられます。事前にクッション性を持たせておくことで、骨折や打撲、表皮剥離などの二次的外傷を未然に防ぎます。 |
| 発作時の「抑制」はNG | 痙攣している手足を力ずくで押さえつけたり、ベッドに縛り付けたりせず、周囲の危険物(点滴台や床頭台)を遠ざける。 | 激しい筋肉の収縮を無理に押さえつけると、骨折や関節脱臼を引き起こす恐れがあります。患者さんの体に触れるのではなく、「患者さんの周りの空間を安全にする」ことに注力します。 |
新人さんが陥りやすいミスへの対策
新人さんが初めて目の前で強直間代発作を見ると、パニックになって「先生!先生!」とナースステーションへ走って行ってしまいがちですよね。私も昔は、患者さんを一人置き去りにして、慌てて応援を呼びに行ってしまった苦い経験があります。
でも、後から「いつから痙攣が始まった?」「どっちの目から偏位した?」と医師に聞かれても、全く答えられませんでした。
「発作を見たら、まずは時計を見る」。そして、「患者さんの顔を横に向けて、そばから離れずにナースコールで応援を呼ぶ」。
この2つだけを頭の片隅に入れておいてください。



私たちがパニックにならずに発作の「最初から最後まで」をしっかり観察することが、後々の医師の診断と治療薬の選択に直結する、ものすごく重要な看護アセスメントになりますよ。焦らなくて大丈夫。まずは時計を見ることから始めてみましょう。