めまいについて|疾患の概要から看護のポイントまで徹底解説
あずかん患者さんから「急にめまいがして、気持ち悪くて立てない…」と訴えられた経験は誰にでもあると思います。
めまいは日常的によく遭遇する症状ですが、「きっと疲れか、耳からくるものだろう」と安易に考えてベッドに寝かせたままにしてしまうと、実は小脳梗塞や脳幹出血といった致死的な中枢性疾患の初期症状を見逃してしまう危険性があります。
今回は、ただの「めまい」と侮らず、命に関わるレッドフラッグサインを確実に見抜くためのアセスメントと、嘔吐を伴う激しい症状に苦しむ患者さんへの具体的な観察ポイントを紹介します。
サクッと復習!疾患の概要
めまいは大きく「末梢性」と「中枢性」、そして「全身性(血圧変動など)」に分けられます。この切り分けが最初のアセスメントの鍵になります。
- 病態・原因
- 末梢性(前庭性): 内耳の異常。良性発作性頭位めまい症(BPPV)、メニエール病、前庭神経炎など。全めまいの約7〜8割を占めます。
- 中枢性: 脳幹や小脳の血管障害(脳梗塞、脳出血)や腫瘍。見逃すと命に関わります。
- 全身性: 起立性低血圧、不整脈(Adams-Stokes症候群)、貧血、低血糖など。
- 症状の分類
- 回転性めまい: 「天井がグルグル回る」。末梢性に多いですが、中枢性でも起きます。
- 浮動性めまい: 「フワフワ、グラグラする」。中枢性や全身性の要因で多く見られます。
- 眼前暗黒感: 「立ちくらみ、スッと血の気が引く」。循環動態の悪化(脳虚血)を示唆します。
- 治療
- 原因疾患に対する治療が基本。対症療法として、抗めまい薬(ベタヒスチンなど)や制吐薬(メトクロプラミドなど)の投与、メイロン(炭酸水素ナトリウム)の静注、補液による循環血漿量の維持が行われます。
観察ポイント&根拠
| 観察項目 | 観察ポイント | 根拠・予測 |
|---|---|---|
| 眼振の性状と注視テスト | 患者の目の前にペンライトや指を立て、「顔は動かさずに、指先だけを目で追ってください」と指示し、左右上下に動かす。眼球がピクピク揺れる(眼振)方向が一定か、方向交代性かを見る。 | 末梢性めまいの眼振は一方向性で、一点を注視させると弱まる(注視抑制)特徴があります。逆に、見る方向によって眼振の向きが変わる(方向交代性注視眼振)場合や、垂直方向の眼振が出た場合は、脳幹や小脳の病変(中枢性)を強く疑うレッドフラッグです。 |
| 脳神経・小脳症状の有無(5Ds) | 「パタカ」と言わせて構音障害がないか確認する。指鼻指試験(自分の鼻と看護師の指を交互に触らせる)で測定異常(手が的を外れる)や企図振戦がないか確認する。 | Dizziness(めまい)、Diplopia(複視)、Dysarthria(構音障害)、Dysphagia(嚥下障害)、Dysmetria(測定障害・運動失調)の「5Ds」が一つでもあれば、脳卒中(椎骨脳底動脈領域の虚血)の可能性が極めて高く、即座に医師へ報告し頭部MRIの手配を考慮します。 |
| 発症のタイミングと持続時間 | 「ベッドから起き上がった瞬間ですか?」「じっとしていてもずっと回っていますか?」と、頭位変換と症状の連動性を問診する。 | BPPV(良性発作性頭位めまい症)は「特定の頭の向き」で数十秒〜数分の回転性めまいが起きます。一方、前庭神経炎や中枢性疾患は、頭を動かさなくても数時間〜数日間にわたり激しいめまいが「持続」します。 |
もし患者さんが「天井が回って吐きそう…」と言ったら?
夜間、トイレに起きようとした患者さんがベッドサイドでうずくまり、こう訴えました。
「気持ち悪い…天井がグルグル回って、吐きそうで動けません…」
この時、「とりあえずトイレに行きましょうか」と無理に立たせてはいけません。
対応アクションと会話例
- 安静の確保と頭部の固定
- 「天井が回って気持ち悪いですね。無理に動かないでください。ゆっくりベッドに横になりましょう」と声をかけながら、頭を動かさないように愛護的に臥床させます。
- 嘔吐への備えと誤嚥防止
- 「吐き気がある時は、我慢せずにこちらに出してくださいね」と、顔の横に膿盆を置き、誤嚥を防ぐために顔だけを側方(横向き)に向けさせます。
- バイタル測定と神経所見の迅速な評価
- SpO2や血圧を測定しつつ、「少しだけ私の指先を見てもらえますか?」「手がしびれたり、言葉が出にくかったりしませんか?」と、前述の「5Ds」の有無を素早くスクリーニングします。異常がなければ末梢性を疑い制吐剤の指示受けへ、異常があれば「中枢性疑い」として直ちにドクターコールします。
現場で差がつく看護のコツ・ポイント
| 工夫・コツ・アイデア | 具体的な手技・環境調整 | 期待される効果・メリット |
|---|---|---|
| 光刺激の遮断(病室の減光) | 窓のブラインドを下ろし、天井の蛍光灯を消して間接照明や読書灯のみの薄暗い環境を作る。 | めまい発作時は、視覚情報が前庭系の異常とハレーションを起こし症状を悪化させます。光刺激を抑える(暗室にする)ことで、視覚からの入力が減り、めまい感や吐き気が和らぎやすくなります。 |
| 「ゆっくり、予告してからの」体位変換 | 点滴やオムツ交換で体位を変える際、「今から右を向きますよ。1、2、3でゆっくり動かしますね」と声かけをし、患者の頭部を両手で包み込むようにして軸を保ちながら動かす。 | 突然頭を動かされると、三半規管内のリンパ液が急激に動き、めまいと嘔吐が再燃します。動きを予告することで患者も心の準備ができ、頭部の振れを最小限に抑える介助が可能になります。 |
| 安全柵の確保と「手すり」の配置 | 浮動感がある場合、ベッド柵を全周に上げる。トイレ歩行が可能になった際も、必ず健側(または利き手)に手すりやナースコールが来るように配置する。 | 空間の把握が難しいため、視覚的な柵や、ギュッと握れる物理的な「拠り所」があるだけで、患者さんの転倒への恐怖心は大きく軽減されます。 |
新人さんが陥りやすいミスへの対策
陥りやすいミスの一つが、「手足が動いているし、言葉もはっきりしているから脳卒中ではない(=末梢性のめまいだろう)」と自己完結してしまうことです。
多くの人は、脳卒中=片麻痺や失語、という典型的なイメージを強く持ちがちですが、小脳梗塞の場合、手足の麻痺が出ないことがよくあります。
「ただ激しいめまいがして吐いているだけ」に見えるのに、実は小脳がパンパンに腫れて脳幹を圧迫し始めている…というケースを私も何度か経験しました。
だからこそ、「指鼻指試験」のような簡単な小脳テストや、眼振の観察が命を分けるんです。



「めまいだから耳鼻科的なものだろう」という先入観を一旦捨てて、「最悪のシナリオ(中枢性)を否定するためのアセスメント」から入る癖をつけてください。その慎重さが、患者さんの命を救う最大の武器になりますよ。一緒に頑張りましょうね。