術前の補液について

術前の補液について|種類と理由を徹底解説

あずかん

手術出しの朝、「とりあえず指示通りに点滴をつなぐ」だけで終わっていませんか?
術前補液は、単なる「水分補給」ではありません。絶飲食による脱水を防ぐだけでなく、麻酔導入時の急激な血圧低下(血管拡張)に備えるための重要な「命綱(ルート確保)」でもあります。ここで適切な種類を選択し、確実にルートを確保できなければ、手術室で麻酔科医が薬剤を投与できず、患者さんを危険に晒すことになります。
今回は、術前補液の「なぜこの輸液なのか」と、手術室に笑顔で送り出すための「確実なルート確保・管理の手順」を解説します。

【重要事項】
※本記事は一般的な手順・根拠を解説したものです。実施の際は、必ず所属施設の院内マニュアルや医師の指示、最新のERAS(術後回復強化)プロトコルを優先してください。


目次

術前補液の手順と根拠

手順その根拠・理由ここがポイント!
1. 輸液指示の確認と種類の評価
カルテで「細胞外液補充液(乳酸・酢酸リンゲル液など)」か「維持液(3号液など)」かを確認し、患者の絶飲食時間・下剤内服の有無と照らし合わせる。
【なぜ術前に補液するのか】
麻酔薬が入ると血管が拡張し、相対的に循環血液量が不足して急激な血圧低下を招きます。
これを防ぐため、血管内に水分を留めやすい「細胞外液補充液(等張液)」がよく選ばれます。長時間の絶飲食や大腸カメラ前の下剤による脱水がある場合は必須です。
【禁忌・NG行動】
心不全や腎不全がある患者さんへの急速投与は、肺水腫(心不全増悪)を招くため絶対NGです。
指示された滴下速度が速すぎないか、事前に基礎疾患を必ずチェックしてください。
2. 穿刺部位の選定とルート確保
手術の体位(仰臥位、腹臥位など)を確認し、「関節部(手関節・肘窩)」を避けて前腕の太く直線的な静脈を選ぶ。輸血や急速投与に備え、原則18Gか20Gの留置針を使用する。
【なぜそこを刺すのか】
術中は患者さんは動けず、体位変換や抑制によってルートが屈曲・閉塞するリスクがあります。関節部で閉塞すると、麻酔薬や昇圧剤が投与されず術中覚醒やショックの危険があります。また、出血時の急速輸液・輸血には太いゲージ(18G/20G)の物理的な内径が必要です。
針が太い分、穿刺時の疼痛は強くなります。穿刺時は「皮膚を末梢側に向かってしっかりと伸展」し、血管の逃げを防ぎつつ、皮膚をピンと張ることで痛覚の刺激を最小限に抑えましょう。
3. 滴下状態の確認と術前観察
クレンメを開放し、自然滴下テスト(全開にしてポタポタとスムーズに落ちるか)を行う。刺入部の腫脹・疼痛がないか確認し、患者に「術衣の袖を通すときはルートが引っ張られないように注意してください」と伝える。
【安全管理の根拠】
血管外漏出に気づかずに手術室へ送ってしまうと、麻酔導入時にプロポフォール(血管痛・組織障害性が強い)が皮下に漏れ、最悪の場合は皮膚壊死を起こします。自然滴下テストは、針先が確実に血管内に留まっているかを確認する最も原始的で確実な方法です。
「少しでもチクチク痛かったり、ポッコリ腫れてきたらすぐナースコールを押してくださいね」と、具体的な症状を伝えておくことが早期発見の鍵です。

よくあるトラブル・疑問(Q&A)

ぴよナース

Q. 「喉がカラカラで辛い。点滴をしているから一口だけ水を飲んでもいい?」と患者さんに聞かれたら?

あずかん

A. 昔のように「前日21時から一切の飲水禁止」というルールは変わりつつあります。


近年はERAS(Enhanced Recovery After Surgery)の概念が普及し、術前2時間前までの「クリアウォーター(水、お茶、経口補水液など、固形物を含まない透明な液体)」の摂取は、胃内滞留時間が短く誤嚥リスクが低いとされています。
ただし、自己判断は禁忌です。「点滴が入っているから飲んでいい」わけではなく、「麻酔科の術前指示で何時まで飲水可能となっているか」をカルテで即座に確認し、「〇時まではお水やOS-1なら飲んで大丈夫ですよ」と根拠を持って答えられるようにしておきましょう。


参考資料
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