
この記事では、整形外科領域でよく遭遇する「疼痛」について解説しています。疼痛は患者さんのQOL(生活の質)を大きく左右する重要な問題です。看護師として疼痛を理解し、適切なケアを提供できるよう、基礎知識をしっかりと身につけましょう。
病態生理
疼痛とは「実質的または潜在的な組織損傷に結びつく、あるいはこのような損傷を表す言葉を使って述べられる不快な感覚・情動体験」と定義されます。
疼痛は、侵害受容器と呼ばれる特殊な神経終末が刺激を受け、その情報が脳に伝わることで生じますが、疼痛は主観的な感覚であり、客観的に評価するのが難しく、社会的・心理的要因の関与によって、慢性化・難治化することがあります。
疼痛の種類
侵害受容性疼痛(急性)
<特徴・症状>
組織の損傷(骨折、靭帯損傷、炎症など)によって侵害受容器が直接刺激されることで生じます。刺激の種類には、機械的な圧迫や伸展、熱、化学物質などがあります。整形外科の疼痛の多くはこのタイプです。炎症が伴う場合は、炎症性サイトカインなどの化学物質が侵害受容器を感作し、疼痛を増強させます。
「ズキズキ」などの痛み。
<疾患例>
外傷・術後疼痛・感染・腫瘍(転移など)
<治療>
NSAIDs(内服薬・外用薬)・アセトアミノフェン・ステロイド・筋弛緩薬・オピオイド
<予後・合併症>
原因を除去できれば予後は良い。
神経障害性疼痛
<特徴・症状>
末梢神経や中枢神経の損傷や機能異常によって生じます。圧迫(椎間板ヘルニアによる神経根圧迫など)、炎症、虚血などが原因となります。特徴として、焼けるような痛み、電気が走るような痛み、しびれなどを伴うことがあります。
「ビリビリ」などの不快な痛み。
<疾患例>
脊髄症・神経根症・外傷性神経損傷(断裂・圧迫など)・絞扼性末梢神経障害・腫瘍(転移など)
<治療>
神経障害性疼痛治療薬・ノイロトロピン・神経ブロック・三環系抗うつ薬・デュロキセチン・オピオイド
<予後・合併症>
原因を除去しても、他の要因のために痛みは難治性となる。
慢性疼痛
<特徴・症状>
3か月以上持続する痛みのことで、侵害受容性疼痛と神経障害性疼痛が混合している。
神経の過剰反応を抑える脊髄内の下行性抑制系の機能低下によって、過剰に痛みを感じる状態にある。
<疾患例>
侵害受容優位
変形性関節症・変形性脊椎症・関節リウマチ・慢性腰痛症
神経障害優位
CRPS・脊髄損傷後疼痛・帯状疱疹後疼痛
<治療>
リハビリテーション・トリガーポイント注射・神経ブロック・心理療法・脊髄刺激療法
上記に合わせ、侵害受容性疼痛時または神経障害性疼痛時に使用する治療薬を組み合わせる
<予後・合併症>
原因を除去しても、他の要因のために痛みは難治性となる。
心因性疼痛
<特徴・症状>
心理的な要因が大きく関与する疼痛です。ストレス、不安、うつ病などが疼痛の感じ方や強度に影響を与えます。整形外科的な疾患が存在する場合でも、心理的な側面を考慮することは重要です。
<疾患例>
器質的な疾患なし。(精神ではなく認知機能の異常ともいわれる)
<治療>
抗不安薬など・リハビリテーション・心理療法 これら3つの集学的治療が必要
<予後・合併症>
原因を除去しても、他の要因のために痛みは難治性となる。
難治性疼痛とは?
難治性疼痛とは、通常行われる治療効果の見込みが低く、痛みが長期間続き、生活の質(QOL)に大きな支障が出ている状態のことである。
難治性疼痛は、身体的問題・心理的な問題・社会的な問題の3つの要素が絡み合って発生し、また大きく3つのケースに分けることができる。
治療が未確立なケース
治し方がいまだ確立されていないものがあてはまる。
たとえば、手や足が切断されているのに、失われた手や足に痛みを感じる幻肢痛げんしつうなども、難治性の領域に入る。
患者側になんらかの理由があるケース
患者側になんらかの理由があるケースとしては、肝臓や腎臓などの状態が悪く積極的な投薬治療を行えないような身体的理由がある場合や、心肺機能の低下により積極的な理学療法を行えないような場合があてはまる。
ほかにも、家庭環境が複雑で積極的に治療に向き合えない場合や、職場環境が不適切(パワハラやブラック企業など)である場合には、難治性の疼痛となってしまうことがある。
また、世界に目を向けると、貧困によって十分な医療が受けられないという要因も、難治性に至る原因となりえると考えられる。
医療者側になんらかの理由があるケース
医療者に、慢性疼痛に対する知見が不足しているがために、適切な診断や治療を行えていない場合があてはまる。
心理社会的要因に関する知識不足や探求不足は、患者の痛みを「気のせい」などと判断してしまうことにつながり、疼痛を難治性にしてしまう原因になると考えられる。
疼痛の原因または考えられる疾患
外傷
骨折、脱臼、捻挫、打撲、靭帯損傷、腱損傷など、外部からの力によって組織が損傷することで生じる疼痛です。受傷機転や損傷部位によって痛みの種類や程度は異なります。骨折に伴う疼痛は、骨膜の損傷や周囲組織の炎症によって生じます。
炎症性疾患
関節リウマチ、脊椎関節炎、痛風、偽痛風など、関節やその周囲に炎症が生じる疾患です。炎症によって滑膜が増殖したり、関節液が増加したりすることで疼痛が生じます。朝のこわばりや関節の腫脹、熱感を伴うことが多いです。
変性疾患
変形性関節症、変形性脊椎症など、加齢や負荷によって関節軟骨や骨が変性することで生じる疼痛です。軟骨のすり減りや骨棘形成などが原因となります。安静時の痛みよりも、運動時や負荷がかかった時の痛み(荷重時痛)が特徴的です。
神経疾患
椎間板ヘルニア、脊柱管狭窄症、坐骨神経痛、手根管症候群など、神経が圧迫されたり、炎症を起こしたりすることで生じる疼痛です。放散痛やしびれを伴うことがよくあります。
その他
腫瘍(良性・悪性)、感染症(骨髄炎、化膿性関節炎)、骨粗鬆症による圧迫骨折なども疼痛の原因となります。また、手術後の疼痛も重要な原因の一つです。
診断方法
整形外科における疼痛の診断は、患者さんの訴えを詳細に聞き取ることから始まります。次に、視診、触診、可動域測定、徒手筋力検査などの身体診察を行います。
画像検査は疼痛の原因特定に非常に有用です。X線検査は骨の異常(骨折、変形、骨棘など)を確認するのに適しています。MRIは、軟部組織(靭帯、腱、筋肉、神経、椎間板など)の詳細な評価に優れています。CTは、骨の詳細な構造や複雑な骨折の評価に有用です。超音波検査は、腱や靭帯の損傷、関節の炎症などを評価するのに用いられます。
血液検査は、炎症の有無(CRPやESR)、自己免疫疾患の診断(リウマチ因子や抗CCP抗体)、痛風の診断(尿酸値)などに用いられます。神経伝導速度検査や筋電図検査は、神経障害の診断に用いられます。
問診・病歴聴取のための「OPQRST」
Onset | 発症様式(突然、急に、亜急性に、ゆっくりと) |
Provocation/Palliative factors | 憎悪・寛解要因(姿勢、運動・労作、食事など) |
Quality/Quantity | 性質(ズキズキ、刺すような、締め付けるような、ビリビリなど) |
Region/Radiation/Related symptoms | 部位と放散の有無、関連症状 |
Severity | 強さ(VAS、NRSなど) |
Time course | 時間経過、日内変動 |
・これらに加えて、「日常生活や仕事をするうえで、何に困っているか」を聞くとよい
視覚的アナログスケール(VAS)


数値的評価スケール(NRS)


治療法・対症療法
整形外科における疼痛の治療法は、原因疾患によって異なりますが、大きく分けて保存療法と手術療法がありり、これらの治療法を単独で、あるいは組み合わせて行います。看護師は、患者さんの疼痛を継続的に評価し、薬物療法の効果や副作用を観察したり、物理療法やリハビリテーションの実施をサポートしたり、装具の使用方法を指導したりと、多様な役割を担います。また、疼痛に対する患者さんの不安や恐怖を傾聴し、精神的なサポートを提供することも重要です。
保存療法
薬物療法
疼痛の原因や性質に応じて、様々な種類の薬剤が使用されます。非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)は、炎症を伴う疼痛に広く用いられます。アセトアミノフェンは、炎症を伴わない疼痛やNSAIDsが使用できない場合などに用いられます。神経障害性疼痛には、プレガバリンやデュロキセチンなどの神経系に作用する薬剤が用いられることがあります。筋弛緩薬は、筋スパズムによる疼痛に効果的です。オピオイド鎮痛薬は、癌性疼痛や高度な疼痛に対して使用されますが、依存性などのリスクに注意が必要です。
物理療法
温熱療法、寒冷療法、電気刺激療法、超音波療法などがあります。温熱療法は血行を促進し筋緊張を緩和する効果があり、寒冷療法は炎症を抑制し痛みを和らげる効果があります。電気刺激療法は、痛みの伝達を遮断したり、筋力を強化したりする目的で行われます。
装具療法
コルセットやサポーター、装具などを用いて、患部を固定したり、安静を保ったり、関節への負担を軽減したりします。
リハビリテーション
運動療法や物理療法を組み合わせ、筋力強化、関節可動域の改善、協調性の向上などを目指します。疼痛の軽減だけでなく、再発予防や機能改善に不可欠です。
ブロック療法
疼痛の原因となっている神経の近くに局所麻酔薬などを注射し、痛みの伝達を遮断する治療法です。
手術療法
手術療法は、保存療法で十分な効果が得られない場合や、神経の圧迫が強い場合、関節の破壊が進んでいる場合などに考慮されます。骨折の手術(骨接合術)、人工関節置換術、椎間板ヘルニア摘出術、脊柱管拡大術などがあります。手術後の疼痛管理も非常に重要であり、硬膜外麻酔や持続的な局所麻酔、鎮痛薬の投与などが用いられます。

