
骨粗鬆症は、骨の量が減少し、骨の質が劣化することで骨がもろくなり、骨折しやすくなる疾患です。特に高齢化が進む現代社会において、患者数は増加傾向にあり、要介護状態に至る大きな原因の一つです。この記事では、骨粗鬆症の病態生理から看護のポイントまでを解説します。
骨粗鬆症とは
骨は、一見すると変化しないように見えますが、実は常に「リモデリング」と呼ばれる新陳代謝を繰り返している。これは、骨を壊す「破骨細胞」と、新しい骨を作る「骨芽細胞」の働きによって成り立っている。
骨吸収(破骨細胞による骨破壊)
古くなった骨を溶かし、カルシウムを血液中に放出する
骨形成(骨芽細胞による骨造成)
新しいコラーゲンなどの有機成分を作り、そこにカルシウムやリン酸などを沈着させて硬い骨を作る
健康な骨では、この骨吸収と骨形成のバランスが保たれているが、骨粗鬆症ではこのバランスが崩れ、骨吸収が骨形成を上回ることで、骨量が減少し、骨の内部構造がスカスカになり、もろくなってしまう。特に、骨の内部にある海綿骨と呼ばれる部分の構造が脆弱になることが特徴である。
骨粗鬆症の原因
原発性骨粗鬆症
最も多いタイプであり、原因が特定できないもの、あるいは加齢や閉経といった生理的な要因が主となっている。
- 加齢: 骨を形成する能力は年齢とともに低下する。特に、破骨細胞の活性は維持されるため、吸収と形成のバランスが崩れやすくなる。
- 閉経後のエストロゲン欠乏: 女性ホルモンであるエストロゲンは、骨吸収を抑制する働きがある。閉経によりエストロゲンが急激に減少すると、骨吸収が進みやすくなり、これが女性に骨粗鬆症が多い大きな理由である。
- 生活習慣:
- カルシウムやビタミンDの摂取不足: 骨の主要な構成成分であるカルシウムや、カルシウムの吸収を助けるビタミンDが不足すると、骨形成がうまく進みまない。
- 運動不足: 骨は適度な負荷がかかることで強くなるが、運動不足は骨への刺激が少なくなり、骨形成が促されにくくなる。
- 喫煙: 喫煙は骨芽細胞の働きを阻害し、骨密度を低下させることが知られている。
- 過度の飲酒: アルコールはカルシウムの吸収を阻害したり、肝臓に負担をかけたりして骨代謝に悪影響を及ぼす可能性がある。
- やせすぎ: 極端な低体重は、骨密度が低い傾向にある。
続発性骨粗鬆症
特定の病気や薬剤が原因で起こる骨粗鬆症。
病気
内分泌疾患
甲状腺機能亢進症(甲状腺ホルモンが過剰になり骨代謝が促進されすぎ骨吸収が優位になる)、副甲状腺機能亢進症(副甲状腺ホルモンが過剰になり骨からカルシウムが流出する)、クッシング症候群(コルチゾール過剰による骨形成抑制)など。
消化器疾患
栄養吸収障害を伴うクローン病や潰瘍性大腸炎など。
慢性腎臓病
ビタミンDの活性化が障害されたり、骨代謝に影響を与えるミネラルバランスが崩れたりする。
関節リウマチなどの炎症性疾患
炎症性サイトカインが骨吸収を促進する。
薬剤
ステロイド: 骨形成を抑制し、骨吸収を促進します。長期的な使用は骨粗鬆症のリスクを高める。
抗てんかん薬、一部の抗がん剤など
骨粗鬆症による問題
骨粗鬆症の最大の、そして最も深刻な問題は「骨折」であり、転倒などのわずかな衝撃でも骨折しやすくなるため、日常生活に大きな支障をきたしてくる。
脊椎圧迫骨折
脊椎の骨折であり、転倒だけでなく、くしゃみや立ち上がりといった軽い負荷でも発生することがある。初期には無症状のこともあるが、進行すると背中や腰の痛み、身長の低下、円背などの症状が現れる。円背により背中が丸くなることで、呼吸器や消化器が圧迫され、機能低下につながることもある。
大腿骨近位部骨折
足の付け根にある太ももの骨の骨折であり、転倒による発生が多く、ほとんどの場合、歩行が困難になるため、手術を要する。手術後もリハビリテーションが必須で、ADLが著しく低下し、寝たきりの原因となることも少なくない。
橈骨遠位端骨折
手首の骨折で、転倒して手をついた際に発生しやすく、日常生活動作に支障をきたす。
上腕骨近位部骨折
肩の骨折で、転倒時に肩をぶつけたり、手をついたりして発生する。腕を上げたり回したりする動作が制限され、着替えや食事などの日常生活動作に影響する。
これらの骨折は、痛みだけでなく、生活の質の低下、ADLの制限、ひいては寝たきりや認知症の発症リスクの上昇、寿命の短縮にもつながると言われています。


治療・対症療法
生活習慣の改善
- 食事療法
- カルシウム: 1日700~800mg程度の摂取が推奨されている。牛乳、乳製品、小魚、緑黄色野菜、大豆製品などに多く含まれる。
- ビタミンD: カルシウムの吸収を促進する。きのこ類、魚類(鮭、マグロなど)に多く含まれる。日光浴によっても体内で合成される。
- ビタミンK: 骨形成を促進する働きがある。納豆、ほうれん草、ブロッコリーなどに含まれる。
- 運動療法
- 骨に適切な負荷をかけることで、骨形成を促す。ウォーキング、ジョギング、スクワット、バランス運動などが推奨される。
- 転倒予防のための筋力トレーニングやバランス訓練も重要となる。
- その他: 禁煙、過度の飲酒を控えることも大切となる。
薬物療法
非薬物療法だけでは骨密度が改善しない場合や、骨折リスクが高い場合に検討される。
- 骨吸収抑制薬: 破骨細胞の働きを抑え、骨が壊れるのを防ぐ。
- ビスホスホネート製剤: 最も広く用いられる薬剤で、経口薬と注射薬がある。
- SERM(選択的エストロゲン受容体モジュレーター): エストロゲンに似た作用で骨吸収を抑制する。
- デノスマブ: 骨吸収を促進するRANKLというタンパク質の働きを阻害する注射薬。
- 骨形成促進薬: 骨芽細胞の働きを活性化させ、新しい骨を作るのを助ける。
- 副甲状腺ホルモン製剤(テリパラチドなど): 骨形成を強力に促進する。毎日または週1回の自己注射が必要。
- ロモソズマブ: 骨形成を促進し、骨吸収を抑制する作用を併せ持つ。
- 活性型ビタミンD3製剤: 腸管でのカルシウム吸収を促進し、骨形成を助ける。
- ビタミンK2製剤: 骨形成を促進する働きがある。
看護のポイント
環境整備と生活指導
- 転倒リスクの評価: 患者の身体能力、既往歴、服用薬などを確認し、転倒リスクを評価する。
- 住環境の整備:
- 自宅の段差解消、手すりの設置、滑りやすい床材の見直し、照明の確保などを提案する。
- 浴室やトイレでの転倒防止策(滑り止めマット、手すりなど)も重要となる。
- 履物の見直し: 脱げにくい、滑りにくい靴を推奨する。
- 生活習慣の指導:
- バランスの取れた食事、特にカルシウム・ビタミンD・ビタミンKの摂取を促す。
- 適度な運動の継続、日光浴の推奨。
- 禁煙、節酒の指導。
骨折時の看護
- 痛みコントロール: 骨折後の痛みに対して、疼痛緩和のケア(薬剤管理、体位調整、温罨法など)を行っていく。
- ADLの維持・拡大:
- 早期離床の支援、リハビリテーションの促進。
- 患者さんの身体能力に合わせた日常生活動作の介助や指導。
- 自助具の活用提案。
- 精神的サポート:
- 骨折による活動制限や将来への不安に対し、傾聴し、心理的なサポートを行う。
- 社会資源(介護保険サービス、地域包括支援センターなど)の情報提供と連携を図っていく。
定期的な検査の促しと情報提供
- 骨密度検査: 定期的な検査の重要性を説明し、受診を促す。
- 血液検査、尿検査: 骨代謝マーカーの測定や、薬剤による副作用のモニタリングの必要性を伝える。
- 病識の向上: 骨粗鬆症が自覚症状なく進行すること、骨折がいかに生活に影響するかを分かりやすく説明し、治療への理解と積極的な参加を促していく。

