ネフローゼ症候群の病態から看護のポイントまで徹底解説
あずかんネフローゼ症候群は、腎臓の糸球体に障害が起こり、大量のタンパク質が尿中に漏れ出てしまう病態です。患者さんのQOLに大きく影響するため、看護師として病態を正しく理解し、適切なケアを提供することが非常に重要です。
この記事では、ネフローゼ症候群の基本的な知識から、具体的な看護のポイントまでを分かりやすく解説します。
ネフローゼ症候群とは
ネフローゼ症候群を理解する上で最も重要なのが、腎臓の糸球体の働きです。糸球体は、血液をろ過して尿を作るフィルターの役割を担っています。健康な状態では、分子量の大きいタンパク質(特にアルブミン)はフィルターを通過できず、血液中に留まります。
しかし、ネフローゼ症候群では、この糸球体のろ過機能に障害が生じます。具体的には、フィルターの網の目が粗くなり、本来であれば通過できないはずの大量のタンパク質が尿中へ漏れ出てしまいます(高度タンパク尿)。
その結果、血液中のタンパク質濃度、特にアルブミン濃度が低下します(低アルブミン血症)。アルブミンは、血管内に水分を保持する「膠質浸透圧」を維持する重要な役割を担っているため、これが低下すると血管内の水分が外に漏れ出し、浮腫を引き起こします。
さらに、体は失われたタンパク質を補おうと、肝臓でのタンパク質合成を活発化させますが、この過程で脂質の合成も亢進してしまい、血液中のコレステロールや中性脂肪が増加する脂質異常症(高脂血症)を招きます。
まとめると、ネフローゼ症候群の病態生理は以下の4つの徴候が連鎖的に起こることで特徴づけられます。
高度タンパク尿:1日3.5g以上のタンパク質が尿に排出される。
低アルブミン血症:血清アルブミン値が3.0g/dL以下に低下する。
浮腫:全身性、特に顔面や下肢に顕著に現れる。
脂質異常症:血清総コレステロール値が上昇する。
ネフローゼ症候群の原因
ネフローゼ症候群は、腎臓そのものに原因がある一次性(特発性)ネフローゼ症候群と、他の疾患が原因で引き起こされる二次性ネフローゼ症候群に大別されます。
一次性(特発性)ネフローゼ症候群
明らかな原因疾患がなく、腎生検による組織型によって分類されます。小児に最も多いのは微小変化型で、ステロイド治療によく反応します。成人では、膜性腎症や巣状分節性糸球体硬化症が多く見られます。
- 微小変化型ネフローゼ症候群:光学顕微鏡では糸球体にほとんど変化が見られないが、電子顕微鏡で足細胞の癒合が観察される。
- 膜性腎症:糸球体基底膜に免疫複合体が沈着し、膜が厚くなる。
- 巣状分節性糸球体硬化症:一部の糸球体が硬化する。
二次性ネフローゼ症候群
何らかの全身性疾患や薬剤、感染症などが原因で発症します。
- 全身性疾患:糖尿病性腎症、ループス腎炎(全身性エリテマトーデス)、アミロイドーシスなど。
- 薬剤:非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)の一部、金製剤など。
- 感染症:B型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルス、HIV、梅毒など。
- 悪性腫瘍:がん(特に固形がんや血液がん)に伴って発症することもある。
ネフローゼ症候群の症状
ネフローゼ症候群の主な症状は、病態生理と深く関連しています。
- 浮腫
- 最も特徴的な症状です。初期にはまぶた(眼瞼浮腫)や足(下腿浮腫)に現れやすく、進行すると全身に広がります(全身性浮腫)。体重が数kg〜10kg以上増加することもあります。胸水や腹水が溜まることもあります。
- 尿の変化
- 尿の泡立ちがなかなか消えない(タンパク尿による)。尿量が減少することもあります。
- 倦怠感
- 低アルブミン血症や全身の循環血液量の変化により、だるさや疲れやすさを感じます。
- 食欲不振
- 腹水が溜まることによる腹部膨満感などが原因で起こります。
- 合併症による症状
- 感染症:免疫グロブリンも尿中に失われるため、免疫力が低下し、感染しやすくなります。
- 血栓症・塞栓症:血液凝固因子のバランスが崩れ、血液が固まりやすくなります。特に深部静脈血栓症や肺塞栓症に注意が必要です。
- 急性腎障害:循環血液量の減少により、腎血流が低下して急性腎障害を合併することがあります。
治療・対症療法
治療の目標は、寛解(タンパク尿が消失または著明に減少した状態)導入と、合併症の予防・管理です。原因疾患によって治療法は異なります。
根本治療
- ステロイド療法
- 一次性ネフローゼ症候群(特に微小変化型)の第一選択薬です。プレドニゾロンなどが用いられます。
- 免疫抑制薬
- ステロイド抵抗性や再発を繰り返す場合、副作用でステロイドが使えない場合などに、シクロスポリンやタクロリムス、シクロホスファミド、リツキシマブなどが使用されます。
- 原疾患の治療
- 二次性ネフローゼ症候群の場合は、原因となっている糖尿病やループス腎炎などの治療が最優先されます。
対症療法
- 食事療法
- 塩分制限:浮腫や高血圧を管理するため、1日6g未満が目安となります。
- タンパク質制限:腎機能が低下している場合(慢性腎臓病ステージによる)は、腎臓への負担を軽減するためにタンパク質の摂取量を制限することがあります。ただし、過度な制限は低栄養を助長するため、医師や管理栄養士の指示に基づき慎重に行います。
- エネルギーの確保:制限がある中でも、適切なエネルギー量を摂取し、低栄養を防ぐことが重要です。
- 薬物療法
- 利尿薬:浮腫を軽減するためにフロセミドなどのループ利尿薬が用いられます。
- ACE阻害薬・ARB:尿タンパクを減少させ、腎臓を保護する目的で使用されます。
- 抗凝固薬:血栓症のリスクが高い場合に、予防的にヘパリンやワルファリンなどが投与されます。
- 脂質異常症治療薬:スタチン系の薬剤などが用いられます。
- アルブミン製剤:重度の低アルブミン血症や、利尿薬の効果が乏しい場合に投与されることがあります。
看護のポイント
浮腫の管理と安楽
- 体重・水分出納のモニタリング
- 体重は浮腫の最も客観的な指標です。毎日同じ条件下(起床後、排尿後、朝食前)で測定します。IN/OUTバランスを正確に把握し、治療効果を評価します。
- 皮膚の観察とスキンケア
- 浮腫のある皮膚は伸展し、菲薄化して傷つきやすくなっています。褥瘡の好発部位だけでなく、全身の皮膚状態を観察し、保湿剤の使用や優しい体位変換で皮膚トラブルを防ぎます。
- 安楽な体位
- 呼吸困難感がある場合は、ファウラー位やセミファウラー位で呼吸を楽にします。下肢の浮腫が強い場合は、下肢を挙上して静脈還流を促します。


感染の予防
- 環境整備と衛生指導
- 免疫力が低下しているため、感染予防が極めて重要です。病室の清潔を保ち、面会者にも手洗いやマスク着用を徹底してもらいましょう。患者さん自身にも、うがい・手洗い・口腔ケアの重要性を説明し、実践を促します。
- バイタルサインと感染兆候の観察
- 発熱、倦怠感、咽頭痛、創部の発赤・腫脹など、わずかな感染兆候も見逃さないように注意深く観察します。
血栓症の予防と観察
- 下肢の観察
- 下肢の疼痛、腫脹、発赤、熱感、ホーマンズ徴候の有無など、深部静脈血栓症(DVT)の兆候を毎日観察します。
- 呼吸状態の観察
- 突然の胸痛や呼吸困難は肺塞栓症(PTE)を疑う危険なサインです。バイタルサインやSpO2の変動に注意します。
- 早期離床と運動
- 医師の許可のもと、ベッド上での足関節の運動や、早期離床を促し、血流の停滞を防ぎます。弾性ストッキングの着用も有効です。


食事療法と服薬の支援
- 食事摂取状況の確認
- 塩分制限やタンパク質制限により、食事が進まないことがあります。食欲不振の原因(腹水による膨満感など)をアセスメントし、食事形態の工夫や管理栄養士との連携を図ります。
- 確実な服薬管理
- ステロイドや免疫抑制薬、利尿薬など、多くの薬剤が処方されます。副作用(ステロイドによる易感染、高血糖、精神症状など)の説明と観察を行い、患者さんが治療を継続できるよう支援します。
精神的サポートとセルフケア支援
- 不安の傾聴
- 外見の変化(浮腫による顔貌の変化)、食事制限、長期にわたる治療など、患者は大きなストレスを抱えています。不安や悩みを傾聴し、共感的な態度で関わることが大切です。
- 疾患教育と退院指導
- 再発予防のため、退院後も食事療法や服薬、自己管理が重要になります。患者とその家族が、疾患を正しく理解し、体重測定や感染予防策などを日常生活で実践できるよう、分かりやすく指導します。