変形性股関節症について

変形性股関節症について|疾患の概要から看護のポイントまで徹底解説

あずかん

変形性股関節症とは、単に「股関節が痛い」というだけでなく、靴下が履けない、爪が切れない、和式トイレが使えないといったADLの障害が顕著に出るため、患者さんの精神的なストレスも大きいのが特徴です。また、THA(人工股関節全置換術)などの周術期管理では、脱臼という重大な合併症を防ぐために、私たち看護師の観察と生活指導がカギを握ります。
今回は、教科書的な知識を一歩深めた、現場ですぐに役立つ「プロの視点」を共有します。明日からのケアに、少しでも自信を持って臨めるようにお手伝いできれば嬉しいです。

目次

サクッと復習!疾患の概要

  • 病態: 軟骨の摩耗・変性により、関節裂隙の狭小化、骨棘形成、骨嚢胞が生じる進行性の疾患です。
  • 原因: 日本人の場合、約80%が「寛骨臼形成不全(Acetabular dysplasia)」などに起因する二次性股関節症です。つまり、もともと股関節の屋根(臼蓋)が浅い骨格的な特徴がベースにあります。
  • 症状
    • 鼠径部痛・大転子部痛: 動作開始時や歩行時に増強。
    • 可動域制限: 特に内旋・外転制限が早期から出現しやすい。
    • 跛行: 疼痛逃避性跛行や、中殿筋筋力低下によるトレンデレンブルグ徴候に伴う墜下性跛行が見られます。
  • 治療
    • 保存療法:体重コントロール、外転筋力強化、杖の使用、NSAIDs内服。
    • 手術療法:寛骨臼回転骨切り術(RAO/CPO)、人工股関節全置換術(THA)。

観察ポイント&根拠

股関節OA、特に術後患者さんを看る際、ルーチンのバイタル測定に加えて必ず以下のポイントを深掘りしています。

観察項目観察ポイント根拠・予測
末梢神経麻痺の有無
(特に坐骨神経・腓骨神経)
足関節の背屈(つま先上げ)と底屈(つま先下げ)が可能か、左右差がないかを確認する。
足背および足底の知覚鈍麻の有無を触診で確認する。
THA術中や術後の肢位保持、あるいは脚長差の補正による神経の伸張によって、坐骨神経麻痺(下垂足)が出現するリスクがあります。麻痺を見逃すと永続的な歩行障害につながるため、麻酔覚醒直後からの継続的な観察が必須です。
DVT(深部静脈血栓症)の兆候腓腹部の把握痛だけでなく、足背動脈の触知、下肢の色調(チアノーゼや暗赤色変化)、表在静脈の怒張を確認する。
D-dimer値の推移をカルテで追う。
下肢手術の中でもTHAはDVTのハイリスク群です。血栓が遊離して肺血栓塞栓症(PTE)を起こすと致死的になります。「なんとなく足がむくんでいる」ではなく、「健側より患側の下腿周径が2cm太く、皮膚温が高い」といった具体的データで医師へ報告する準備をします。
疼痛の部位と放散痛
(関連痛の鑑別)
「どこが痛いですか?」と聞き、患者さんに指で痛む場所を指してもらう
膝の内側や腰部を指す場合は注意が必要。
股関節疾患の痛みは、閉鎖神経を介して膝内側へ放散(関連痛)することが多々あります。「膝が痛い」という訴えに対し、膝だけを観察しても原因は解決しません。股関節由来の痛みなのか、腰椎由来(脊柱管狭窄症の併発など)なのかを切り分けるために、痛みの局在を特定します。
脱臼肢位の理解度と実際の動作ベッド上での体位変換時や靴を履く動作時に、過度な屈曲・内転・内旋になっていないか、動作の瞬間を目視確認する。特に後方アプローチによるTHA後、「屈曲+内転+内旋」は脱臼の危険肢位です。口頭で「ダメですよ」と言うだけでなく、無意識に足を組んでいないか、落とした物を拾おうとしていないか、実際の動作の中でリスクを評価します。

もし患者さんが「爪が切れなくて情けない」と言ったら?

股関節の可動域制限が進んだ患者さんや、THA術後で脱臼予防が必要な患者さんから、ふとした瞬間にこう言われることがあります。
「足の爪も自分で切れなくなってしまって…本当に情けないわ」
この時、「私が切りますから大丈夫ですよ」とすぐに代行するのは、優しさのようでいて、患者さんの自尊心を傷つけている可能性があります。

言葉の裏にあるニード
この言葉には、身体的な不便さ以上に、「今まで当たり前にできていたことができなくなる喪失感」や「他人に下の世話を頼まなければならない羞恥心」が含まれています。

対応アクションと会話例

  1. 喪失感への共感(受容)
    • 「今までご自身でされていたことですものね。急にできなくなると、もどかしいお気持ちになりますよね。」
  2. 安全な方法での自立支援(解決策の提示)
    • 「股関節を深く曲げると脱臼のリスクがあるので、今は無理をしないのが正解です。でも、柄の長い爪切り(自助具)を使ったり、台の上に足を乗せて股関節を曲げずに切る工夫をすれば、またご自身でできるかもしれません。」
  3. リハビリスタッフとの連携
    • 「明日のリハビリの時間に、作業療法士(OT)さんに『安全な爪切りの姿勢』について相談してみましょうか?私も一緒に確認しますね。」
    • ※完全に不可能な場合はケア介入しますが、まずは「できる可能性」を探ることが、患者さんの希望になります。

現場で差がつく看護のコツ・ポイント

工夫・コツ・アイデア具体的な手技・環境調整期待される効果・メリット
脱臼予防枕(外転枕)の固定確認術直後、外転枕を使用する際、ベルトがきつすぎて腓骨神経(膝外側)を圧迫していないか、指一本分のゆとりを持って固定する。脱臼予防に集中するあまり、ベルトによる神経圧迫麻痺を起こしては本末転倒です。また、踵がマットに圧迫され続けないよう、踵の下にタオルを入れて除圧するのも褥瘡予防の鉄則です。
移乗時の「健側」活用ベッドから車椅子へ移乗する際、健側(手術していない側)に車椅子を配置し、健側を軸に回転してもらうよう誘導する。患側を軸にすると疼痛や脱臼リスクが高まります。健側軸であれば、安定して回ることができ、転倒リスクも下がります。これを徹底するだけで患者さんの恐怖心は激減します。
「靴下エイド」の導入提案術後の生活指導時、口頭だけでなく実際にソックスエイド(自助具)を用意し、デモンストレーションを行う。「道具を使えば自分でできる」という成功体験が、退院後の生活への自信につながります。百均のファイルなどで自作できる情報も提供すると、経済的な負担感も軽減できます。
便座の高さ調整(補高便座)トイレ誘導時、通常の洋式トイレでは座面が低く過屈曲になりやすいため、補高便座の使用や、手すりの位置を確認する。排泄動作は毎日数回必ず行うため、ここでの脱臼リスク管理が最重要です。膝が股関節より低い位置に保てる環境を整えます。

新人さんが陥りやすいミスへの対策

ある時、THA術後の患者さんが「腰が痛い」と訴えられました。
私は「手術でずっと同じ姿勢だったからかな」と思い、腰に湿布を貼って様子を見ていました。しかし翌日、先輩が詳しく話を聞くと、実はその痛みは腰ではなく「臀部から大腿後面」にあり、手術部位の血腫による圧迫痛だったことがわかりました。


患者さんの言う「腰」や「膝」という言葉を、解剖学的な位置とイコールで結びつけないでください。
高齢の患者さんは、お尻のことも「腰」と言ったり、太もものことも「膝の方」と言ったりします。

必ず、「痛いところを指で触ってみてください」と確認し、痛みの範囲を正確に捉えること。
そして、股関節疾患だからといって股関節だけを見るのではなく、「脊柱(腰椎)の状態」や「対側の脚(健側)への負担」にも目を向けてください。変形性股関節症の患者さんは、長年かばった歩き方をしているため、全身のバランスが崩れていることが多いのです。

参考資料
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