【過信厳禁】気を付けすぎるぐらいが丁度いい

【看護師の叫び】転倒・転落は予測不能!それでも私たちがすべきこと

「大丈夫、一人でトイレに行けるから」 そう言って、にこやかに手を振ってくれた患者さんが、数分後に床に座り込んでいるのを発見する。幸い怪我はなかったものの、背筋が凍るような瞬間。看護師なら誰しも一度は経験する「ヒヤリハット」ではないでしょうか。

昨今、患者さんの転倒・転落事故がきっかけで病院が訴えられるというニュースを目にするたび、私たちの胸は締め付けられます。特に夜勤中など、限られた人員で多くの患者さんを見守らなければならない状況での事故は、「どうすれば防げたのか」という答えの出ない問いを、現場に重く突きつけます。

今回は、看護師にとって永遠のテーマである「転倒・転落」について、日々の業務で感じるもどかしさや、私自身の反省も交えながら、私たちが取り組むべきこと、そして患者さんやご家族にも知ってほしい現実をお伝えします。


なぜ?「まさか」の瞬間はこうして生まれる

転倒・転落と聞くと、足腰の弱った高齢者の姿を思い浮かべるかもしれません。しかし、現実はもっと複雑です。私たち看護師が日々遭遇するのは、本当に予測不能な「まさか」の連続です。

車いすからのずり落ち
ほんの少しお尻を座り直そうとして、ブレーキのかけ忘れ、フットレストの上げ忘れは、本当に頻繁に起こります。
ベッドからの転落
床頭台にあるティッシュやテレビのリモコンに、ぐっと身を乗り出して手を伸ばした瞬間など患者さんにとっては「これくらい」の動作が、バランスを崩すきっかけになります。
突然のダッシュ
認知機能の低下がある患者さんが、突然何かを思い出したようにベッドから飛び降り、走り出してしまうことがあります。目的は「家に帰る」「仕事に行く」など様々ですが、その行動は突発的で、予測は極めて困難です。
トイレでの転倒
ズボンを上げ下げする一瞬のふらつき、ポータブルトイレに座ろうとして、トイレに間に合わなかった時など。排泄行為は、想像以上にバランスを要する動作なのです。

これらの行動の多くは、患者さん自身の「自分はまだ大丈夫」「これくらい一人でできる」という思いから生じます。決して悪気があるわけではありません。むしろ、自立したい、人に迷惑をかけたくない、という前向きな気持ちの表れであることさえあります。

だからこそ、私たちの対応は非常に難しいのです。


私の反省「あの時、もっと…」

私も、忘れられない経験があります。 夜勤中、ある患者さんが「少し眠れないんだ」とナースステーションに来られました。お話を聞き、温かいお茶をお出しして、少し落ち着かれたので「お部屋に戻りましょうか」と付き添ってベッドサイドへ。安心してナースステーションに戻った矢先、別の部屋からのコール対応に追われました。

その数分後、先ほどの患者さんが廊下で転倒しているのを別のスタッフが発見。どうやら、もう一度ナースステーションに来ようとして、ふらついてしまったようでした。幸い骨折などはありませんでしたが、額には痛々しい皮下出血が。

私の心に残ったのは、「あの時、ベッドサイドにもう少し長く居ればよかった」「離れる前に、センサーマットをONに設定しているか再確認すればよかった」という後悔でした。

「さっきまで穏やかに話していたから大丈夫だろう」という、私の無意識の思い込みが招いた事故でした。患者さんの状態は、数分、数秒で変化する。その当たり前の事実を、改めて突きつけられた痛い経験です。この「大丈夫だろう」が、一番の敵なのだと痛感しました。


私たちにできること、そして限界

では、予測不能な転倒・転落を前に、私たちは無力なのでしょうか。そんなことはありません。答えは出ていないかもしれない、けれど、私たちは今日もリスクを1%でも減らすために考え、行動し続けます。

1. 環境整備の徹底 ―「だろう」をなくす作業

  • ベッド周りの標準化
    • ナースコール、ティッシュ、テレビのリモコンなど、患者さんが手を伸ばすものは、必ず手の届く範囲に配置する。これを全スタッフで徹底します。
  • 離床センサーの活用
    • 患者さんの状態に合わせて、センサーマットやクリップ式のセンサーを適切に設定し、作動確認を怠らない。過信は禁物ですが、重要なツールです。
  • 履物の確認
    • 脱げやすいスリッパではなく、かかとのある靴(リハビリシューズなど)を推奨する。これも大切なアセスメントの一部です。

2. コミュニケーション ― 信頼関係が最大の予防策

  • 「なぜ危ないか」を伝える
    • 「ダメ」と禁止するのではなく、「ズボンを上げる時にふらっとしやすいので、ナースコールを押してくださいね」「ベッドから乗り出すと、ベッドから落ちてしまうことがあるんですよ」と、具体的なリスクを丁寧に説明します。
  • 小さな変化の共有
    • 「今日は少し足元がふらついている」「昨日、トイレでヒヤッとした場面があった」といった些細な情報を、スタッフ間で確実に申し送ります。
  • 患者さんの「できる」を尊重する
    • 安全を確保した上で、患者さんが自分でできることは尊重し、自立に向けた関わりを持つ。過剰な制限は、かえって患者さんの意欲を削ぎ、隠れて動く原因にもなります。

3. ご家族への協力依頼 ― チーム医療の一員として

入院時に、転倒・転落のリスクについてご家族にもしっかりと説明し、理解を得ておくことが不可欠です。履きやすい靴を持ってきてもらう、面会時に危険な行動を見かけたらスタッフに知らせてもらうなど、ご家族もチームの一員として協力をお願いする姿勢が大切です。


転倒・転落の完全な予防は、不可能に近いかもしれません。しかし、「予測不能だから仕方ない」と諦めるのではなく、一つひとつの基本的なケアを徹底し、患者さんの尊厳を守りながら、いかにリスクを低減できるか。そのためのアセスメントと実践を繰り返していくことこそが、私たち看護師に課せられた使命だと感じています。

この記事が、現場で奮闘するすべての看護師、そして患者さんとそのご家族にとって、転倒・転落について改めて考えるきっかけになれば幸いです。

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