肺高血圧症について

肺高血圧症の病態から看護のポイントまで徹底解説

あずかん

肺高血圧症(Pulmonary Hypertension: PH)は、心臓から肺へ血液を送る血管(肺動脈)の血圧が異常に高くなる疾患です。進行すると心臓に大きな負担がかかり、心不全に至る可能性もあるため、早期発見と適切な治療が非常に重要になります。
この記事では、肺高血圧症の病態生理から具体的な看護のポイントまでを分かりやすく解説します。


目次

肺高血圧症とは

肺高血圧症を理解するためには、まず正常な血液循環を理解することが大切です。

正常な循環
全身を巡った血液は右心房→右心室へと戻り、右心室のポンプ機能によって肺動脈を通って肺に送られます。肺で酸素を受け取った血液は、左心房→左心室を経て、再び全身へと送り出されます。

肺高血圧症の状態
何らかの原因で肺動脈が狭くなったり(血管収縮)、硬くなったり(血管壁の肥厚)、血栓が詰まったりすると、血液が流れにくくなります。その結果、肺動脈の血圧が上昇し、これを「肺高血圧症」と呼びます。

平均肺動脈圧が安静時に25mmHg以上(正常は20mmHg未満)に上昇した状態と定義されます。

この状態が続くと、右心室は常に高い圧力に逆らって血液を送り出さなければならず、次第に疲弊し、心機能が低下(右心不全)していきます。


肺高血圧症の原因と分類

肺高血圧症は、原因によって大きく5つの群に分類されます。原因によって治療法が異なるため、どの群に分類されるかを把握することは非常に重要です。

名称主な原因
第1群肺動脈性肺高血圧症(PAH)肺動脈自体に問題があるタイプ
原因不明の特発性、遺伝性、膠原病、先天性心疾患、HIV感染症などに伴うものがあります。
第2群左心性心疾患に伴う肺高血圧症僧帽弁疾患や心筋症など、左心系の疾患が原因で肺の血液がうっ滞し、肺動脈圧が上昇します。
第3群肺疾患および/または低酸素血症に伴う肺高血圧症COPDや間質性肺炎などの肺疾患、または睡眠時無呼吸症候群による慢性的な低酸素状態が原因となります。
第4群慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH)急性肺血栓塞栓症(エコノミークラス症候群)の後、血栓が溶けずに器質化し、肺動脈を狭窄・閉塞させることが原因です。
第5群詳細不明な多因子性のメカニズムに伴う肺高血圧症サルコイドーシス、血液疾患、代謝性疾患など、複数の要因が関与する稀なケースです。

肺高血圧症の主な症状

肺高血圧症の初期症状は、他の疾患でも見られる非特異的なものが多く、診断が遅れる原因にもなります。

  • 初期症状
    • 労作時呼吸困難(体を動かした時の息切れ)
    • 易疲労感(疲れやすさ)
    • 動悸
    • 胸痛、胸部圧迫感
  • 進行した場合の症状(右心不全の兆候)
    • 安静時呼吸困難
    • 失神、めまい
    • 下腿浮腫(足のむくみ)
    • 腹部膨満感、腹水
    • 頸静脈怒張

患者の「最近、階段を上るのがつらくなった」「少し歩くだけで息が切れる」といった訴えを見逃さないことが重要です。


治療・対症療法

原因疾患の治療

  • 第2群:左心不全の治療(利尿薬、血管拡張薬など)
  • 第3群:在宅酸素療法(HOT)、原疾患(COPDなど)の治療
  • 第4群:外科的治療(肺動脈内膜摘除術)、カテーテル治療(バルーン肺動脈形成術)、抗凝固療法

肺血管拡張療法(主に第1群と第4群の一部で用いられる)

肺動脈を拡張させ、血圧を下げることを目的とした専門的な治療です。作用機序の異なる複数の薬剤を組み合わせて使うことが多く、経口薬、吸入薬、皮下注射、持続静脈注射など様々な投与経路があります。

  • プロスタサイクリン(PGI2)製剤:強力な血管拡張作用と血小板凝集抑制作用を持つ。
  • エンドセリン受容体拮抗薬(ERA):血管を収縮させるエンドセリンの働きをブロックする。
  • ホスホジエステラーゼ5(PDE5)阻害薬 / 可溶性グアニル酸シクラーゼ(sGC)刺激薬:血管拡張作用のある一酸化窒素(NO)の働きを高める。

対症療法(全般)

  • 在宅酸素療法(HOT):低酸素血症を改善し、肺血管の収縮を防ぐ。
  • 抗凝固療法:血栓の形成を予防する。
  • 利尿薬:心臓の負担を軽減し、浮腫を改善する。
  • 強心薬:心臓のポンプ機能を助ける。

看護のポイント

状態の観察とアセスメント

  • バイタルサインのモニタリング:SpO2の変動に特に注意。労作時や夜間の低下がないか確認します。
  • 右心不全症状の観察:体重の増減、下腿浮腫、頸静脈怒張、尿量などを注意深く観察し、早期発見に努めます。
  • 呼吸状態の評価:安静時・労作時の呼吸困難の程度、呼吸数、呼吸パターンを観察します。
  • 薬剤の副作用の確認:頭痛、ほてり、下痢、注射部位の痛みなど、各薬剤に特有の副作用が出現していないか確認し、患者の苦痛を緩和します。

安楽な日常生活への援助

  • 安静の保持と活動制限の調整:過度な労作は心臓に負担をかけるため、ADLの介助や環境整備を行い、患者のエネルギー消費を最小限に抑えます。活動制限の必要性を丁寧に説明し、理解を得ることが大切です。
  • 感染予防:呼吸器感染は病状を急激に悪化させるリスクがあります。手洗いやうがい、ワクチン接種の重要性を説明し、感染予防行動を促します。
  • 食事・水分管理:塩分制限や水分制限が必要な場合が多いです。管理栄養士と連携し、食事指導を行います。

安全な治療の継続支援

  • 在宅酸素療法(HOT)の管理:適切な流量が守られているか、チューブの管理は安全に行えているかなどを確認し、指導します。火気の取り扱いなど、安全指導は徹底して行います。
  • 特殊な薬剤の管理指導:特に持続皮下・静脈注射を行っている患者に対しては、ポンプの操作方法、カテーテル刺入部のケア、トラブルシューティングについて、患者さんや家族が確実に実施できるよう、繰り返し指導・支援します。緊急時の対応についても一緒に確認しておきましょう。

精神的・社会的サポート

  • 不安の傾聴と共感:難病であることへの不安、将来への不安、経済的な問題など、患者が抱える様々なストレスや不安を傾聴し、気持ちに寄り添う姿勢が大切です。
  • 意思決定支援:治療の選択や療養場所の決定など、患者と家族が納得して意思決定できるよう、必要な情報を提供し、サポートします。
  • 社会資源の活用支援:医療費助成制度(難病医療費助成制度など)や介護保険、身体障害者手帳などの社会資源について情報提供し、必要に応じてソーシャルワーカーと連携します。
参考資料
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