全身性エリテマトーデスについて

全身性エリテマトーデス(SLE)の病態から看護のポイントまで徹底解説

あずかん

全身性エリテマトーデス(SLE)は、自己免疫疾患の一つであり、全身の様々な臓器に炎症や障害を引き起こす可能性がある複雑な疾患です。特に若い女性に好発し、症状が多様であるため、看護師には幅広い知識と個別的なケアが求められます。
この記事では、知っておくべきSLEの基本知識から、具体的な看護のポイントまでを分かりやすく解説します。


目次

全身性エリテマトーデス(SLE)のについて

SLEの根本的な病態は、自己免疫の異常にあります。通常、免疫系は体外から侵入するウイルスや細菌などの異物を攻撃し、体を守る働きをします。しかし、SLE患者の体内では、免疫系が自身の細胞や組織(特に細胞の核成分)を「敵」と誤認し、自己抗体(特に抗核抗体)を産生してしまいます。

この自己抗体と自己抗原(自身の細胞成分)が結合すると、免疫複合体が形成されます。この免疫複合体が血液に乗って全身を循環し、皮膚、関節、腎臓、神経系などの様々な臓器の血管壁に沈着します。その結果、補体が活性化され、炎症反応が引き起こされ、各臓器に障害をもたらします。

これが、SLEが「全身性」と呼ばれる所以であり、多彩な症状が出現する理由です。


全身性エリテマトーデスの原因

SLEの明確な原因はまだ完全には解明されていませんが、一つの原因ではなく、複数の要因が複雑に絡み合って発症すると考えられています。

遺伝的要因
特定の遺伝子(HLAなど)が発症のリスクに関与していることが知られています。血縁者にSLE患者がいる場合、発症リスクがやや高まることが報告されています。

環境要因
紫外線: 日光に含まれる紫外線は、皮膚細胞にダメージを与え、免疫系の異常を誘発する最も重要な増悪因子の一つです。
ウイルス感染: EBウイルスなどの特定のウイルス感染が、免疫系の異常を引き起こすきっかけになる可能性が指摘されています。

薬剤
一部の薬剤(ヒドララジン、プロカインアミドなど)が、SLE様の症状(薬剤誘発性ループス)を引き起こすことがあります。

女性ホルモン
10代後半から40代の妊娠可能な年齢の女性に圧倒的に多く発症することから、女性ホルモン(特にエストロゲン)が免疫系の調節に何らかの影響を与え、発症に関与していると考えられています。


全身性エリテマトーデスの主な症状

SLEの症状は非常に多様で、個人差が大きいのが特徴です。また、症状が良くなったり(寛解)、悪くなったり(再燃)を繰り返します。

  • 全身症状
    • 発熱(特に微熱が続くことが多い)
    • 全身倦怠感
    • 食欲不振、体重減少
  • 皮膚・粘膜症状
    • 蝶形紅斑: 最も特徴的な症状の一つ。鼻から両頬にかけて蝶が羽を広げたような形の赤い発疹。
    • ディスコイド疹: 円盤状の盛り上がった赤い発疹で、治った後に瘢痕や色素沈着を残すことがある。
    • 光線過敏症: 日光を浴びた後に皮膚に発疹が出たり、水ぶくれができたりする。
    • 口腔内潰瘍: 痛みを感じないことが多い口の中のびらん。
    • 脱毛: 全体的に髪が抜けやすくなる。
  • 関節症状
    • 多発性関節炎がよく見られ、特に手指、手首、肘、膝などの関節に痛みや腫れを生じる。朝のこわばりを伴うこともあるが、リウマチと異なり骨の破壊は稀。
  • 臓器障害
    • 腎臓(ループス腎炎): 非常に重要な臓器病変。免疫複合体が腎臓の糸球体に沈着し、炎症を引き起こす。初期は自覚症状がないことが多いが、進行すると蛋白尿、血尿、浮腫、高血圧などが現れ、腎不全に至ることもある。
    • 中枢神経系(中枢神経ループス): 頭痛、けいれん、抑うつ、不安、精神病症状など、多彩な精神神経症状が出現する可能性がある。
    • 心血管系: 心膜炎、心筋炎。レイノー現象(寒冷刺激で指先が白や紫色に変化する)もよく見られる。
    • : 胸膜炎(深呼吸や咳で胸が痛む)、間質性肺炎。
    • 血液: 白血球減少、リンパ球減少、血小板減少、貧血(溶血性貧血)など。

治療・対症療法

SLEの治療目標は、疾患活動性をコントロールし、臓器障害の進行を防ぎ、QOLを維持することです。治療は、症状や重症度に応じて個別に行われます。

  • 薬物療法
    • ステロイド(副腎皮質ホルモン): 炎症と免疫を強力に抑制する中心的な治療薬。中等症から重症例で使用される。副作用(易感染、高血圧、糖尿病、骨粗鬆症など)に注意が必要。
    • 免疫抑制薬: ステロイドの効果が不十分な場合や、ステロイドの減量を目的として併用される(アザチオプリン、ミコフェノール酸モフェチル、シクロホスファミド、タクロリムスなど)。特にループス腎炎や中枢神経ループスなどの重篤な臓器病変に用いられる。
    • ヒドロキシクロロキン: 皮膚症状や関節症状に有効で、再燃予防効果も期待される。副作用として網膜症があるため、定期的な眼科検診が必要。
    • 非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs): 発熱や関節痛などの軽い症状に対して対症的に用いられる。
    • 生物学的製剤(ベリムマブなど): B細胞の働きを抑える新しいタイプの薬剤。従来の治療で効果不十分な場合に選択肢となる。

看護のポイント

SLE患者の看護は、急性期の症状緩和から、寛解期の自己管理支援まで、長期的な視点が不可欠です。

症状のモニタリングとアセスメント

・バイタルサイン、検査データ(特に腎機能、血球数、補体価、抗ds-DNA抗体価)、尿検査(蛋白尿・血尿の有無)を注意深く観察し、疾患活動性や臓器障害の兆候を早期に発見する。

・発熱、倦怠感、皮疹、関節痛などの自覚症状の変化を傾聴し、再燃のサインを見逃さない。

感染予防

・ステロイドや免疫抑制薬の使用により、患者は易感染状態にある。手指衛生の徹底、予防接種の推奨(生ワクチンは禁忌)、人混みを避けるなどの感染対策を指導する。

・発熱や咳などの感染兆候が見られた場合は、速やかに医療機関に連絡するよう伝える。

セルフケア支援

紫外線対策の徹底: 日光過敏症はSLEの増悪因子であるため、日中の外出を避ける、長袖・長ズボンを着用する、帽子や日傘を使用する、サンスクリーン剤を塗布するなどの具体的な方法を指導する。

服薬管理: ステロイドの自己中断が再燃の大きな原因となることを説明し、確実な服薬を支援する。副作用への不安を傾聴し、必要に応じて医師・薬剤師と連携する。

休息と活動のバランス: 過労は再燃の誘因となる。倦怠感が強い時は無理せず休息をとるよう指導する。

精神的・社会的サポート

・SLEは寛解と再燃を繰り返し、生涯にわたる付き合いが必要な疾患である。将来への不安、治療による外見の変化(ムーンフェイス、皮疹)、社会的役割の制限など、患者が抱える心理的ストレスは大きいため、患者や家族の思いを傾聴し、共感的な態度で関わる。

・同じ病気を持つ患者会や、医療ソーシャルワーカー、心理士などの専門職との連携も視野に入れ、社会的・心理的サポート体制を整える。

妊娠・出産に関する支援

・妊娠可能な年齢の女性が多いため、妊娠・出産に関する正しい情報提供が重要。疾患活動性が落ち着いている(寛解)状態での計画妊娠が望ましいことを伝える。

・妊娠中は特定の薬剤が使用できない場合や、再燃のリスクがあるため、産科とリウマチ科が連携して厳重に管理する必要があることを説明する。

参考資料
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