敗血症について|病態生理から看護のポイントまで徹底解説
あずかん敗血症は、感染症に対する制御不能な生体反応によって引き起こされる、生命を脅かす臓器障害です。 かつては「菌が血液中に入ること」というイメージでしたが、現在は「感染に対する生体の過剰反応による臓器不全」と定義されています。敗血症の死亡率は依然として高く、早期発見と早期治療(特に最初の1時間の対応)が患者の予後を劇的に左右します。
この記事では、敗血症の押さえておくべき病態から看護のポイントまでを詳しく解説します。
なぜ臓器障害が起こるのか
敗血症の本質は、ウイルスや細菌などの侵入に対する免疫反応の暴走(サイトカインストーム)です。
- 感染と免疫応答の開始
- 細菌などの病原体が侵入すると、マクロファージなどが反応し、炎症性サイトカイン(TNF-α, IL-1βなど)を放出します。
- 血管内皮細胞の障害
- 過剰なサイトカインは血管の内壁(内皮細胞)を傷つけます。これにより血管の透過性が亢進し、血液中の水分が血管外へ漏れ出します(血管外漏出)。これが「浮腫」や「循環血液量減少」の原因となります。
- 微小循環障害と凝固異常(DIC)
- 血管内皮が傷つくと、修復のために血小板が集まり、微小な血栓が全身に形成されます(播種性血管内凝固症候群:DIC)。
- これにより、重要な臓器への血流が遮断され、酸素や栄養が届かなくなります。
- 多臓器不全(MODS)
- 十分な酸素を受け取れない細胞は機能不全に陥り、腎不全、呼吸不全、肝不全などを引き起こします。最終的にはショック状態(セプティックショック)となり、死に至ります。
どこから感染するのか
敗血症はあらゆる感染症から進行する可能性がありますが、特に以下の臓器からの感染が高頻度です。
呼吸器感染症(肺炎):最も多い原因です。誤嚥性肺炎などは高齢者で重症化しやすいです。
腹腔内感染症:腹膜炎、胆管炎、消化管穿孔など。
尿路感染症:腎盂腎炎など。尿道カテーテル留置中の患者は特に注意が必要です。
その他:カテーテル血流感染(CRBSI)、皮膚軟部組織感染症(褥瘡感染など)。
【リスク因子】
高齢者、乳幼児、免疫抑制剤使用中、糖尿病、がん患者、ステロイド使用者などはハイリスクです。
見逃してはいけないサイン
初期症状は非特異的ですが、以下の兆候(qSOFAスコアなど)を見逃さないことが重要です。
qSOFA(quick SOFA)スコア
ベッドサイドですぐに評価できるqSOFAは、敗血症を疑うための重要なツールです。以下の3項目のうち、2項目以上に当てはまる場合、敗血症による予後不良のリスクが高いと判断し、医師への報告や詳細な全身検索(SOFAスコア評価など)へ進みます。
qSOFAスコアの評価項目(各1点)
| 評価項目 | 基準値 | 観察ポイント |
|---|---|---|
| ① 意識状態 (Altered Mentation) | GCS 15点未満 (JCS 1桁以上) | 「なんとなく様子がおかしい」「会話の辻褄が合わない」といったレベルでも陽性とみなします。 ※鎮静中の場合は評価対象外となることがあります。 |
| ② 収縮期血圧 (Systolic Blood Pressure) | 100mmHg 以下 | 普段高血圧の患者が100mmHg付近まで下がっている場合は特に要注意です。 ショックの初期兆候を見逃さないようにしましょう。 |
| ③ 呼吸数 (Respiratory Rate) | 22回/分 以上 | SpO2が保たれていても、呼吸数が増加している場合は「代謝性アシドーシス(乳酸蓄積)」の代償呼吸である可能性があります。 モニターだけでなく実測することが重要です。 |
SOFAスコア(臓器障害の評価)
敗血症の診断基準では、感染症が疑われ、かつSOFAスコアの合計がベースラインから2点以上増加した場合に敗血症と診断されます。 6つの臓器・システムごとの機能不全を、0〜4点の5段階(最高24点)で評価します。点数が高いほど重症で死亡率が高くなります。
| 評価領域 (臓器) | 評価に必要なデータ | 評価の基準(スコア上昇の要因) | 看護のポイント |
|---|---|---|---|
| ① 呼吸器 (肺) | PaO2/FiO2比 (P/F比) | 数値が低いほど重症 ・400未満で1点 ・100未満で4点 | ・動脈血液ガス分析(血ガス)の結果を確認します。 ・酸素投与量(FiO2)に対して、どれだけ酸素が取り込めているか(PaO2)を見ます。 |
| ② 凝固系 (血液) | 血小板数 (Platelets) | 数値が低いほど重症 ・15万未満で1点 ・2万未満で4点 | ・DIC(播種性血管内凝固症候群)の進行リスクを見ます。 ・採血データの推移だけでなく、刺入部の止血困難や皮下出血の有無も観察します。 |
| ③ 肝臓 | ビリルビン値 (Total Bilirubin) | 数値が高いほど重症 ・1.2mg/dL以上で1点 ・12.0mg/dL以上で4点 | ・黄疸(眼球結膜や皮膚)の出現に注意します。 ・肝機能低下は、薬物代謝や凝固因子の産生にも影響します。 |
| ④ 循環器 (心血管) | 平均血圧 (MAP) 昇圧剤の使用 | 血圧低下 または 昇圧剤の量で評価 ・MAP<70mmHgで1点 ・ドパミン、ノルアドレナリン等の使用量が増えるほど高得点 | ・平均血圧(収縮期血圧ではない点に注意)をモニターします。 ・MAP = (収縮期血圧 + 拡張期血圧×2) ÷ 3 で計算できます。 ・カテコラミン使用中は点数が跳ね上がります。 |
| ⑤ 中枢神経 (脳) | GCS (Glasgow Coma Scale) | 点数が低いほど重症 ・13-14点で1点 ・6点未満で4点 | ・意識レベルの低下は脳への血流不足や、敗血症性脳症を示唆します。 ・鎮静薬使用中の評価は難しいため、鎮静前の状態や鎮静の必要性を医師と共有します。 |
| ⑥ 腎臓 | クレアチニン (Cr) 尿量 | Crが高い または 尿量が少ない ・Cr 1.2mg/dL以上で1点 ・尿量 200mL/日未満などで4点 | ・「尿は正直」です。時間尿の低下はショックの早期サインです。 ・Cr上昇は少し遅れて現れるため、急性期は尿量の変動を最優先で見ます。 |
その他の重要な身体所見
- 発熱または低体温
- 悪寒戦慄(シバリング)を伴う急激な発熱、あるいは逆に36℃以下の低体温も重症のサインです。
- 皮膚所見
- 網状皮斑(mottling)、冷感(Cold shock)、または初期の紅潮(Warm shock)。
- 尿量減少
- 循環不全による腎血流低下のサイン(0.5mL/kg/時 以下は要注意)。
治療・対症療法:Hour-1 Bundle(1時間バンドル)
敗血症と診断、あるいは疑われた場合、「Hour-1 Bundle」と呼ばれる以下の処置を1時間以内に開始することが国際ガイドラインで推奨されています。
- 乳酸値(ラクタート)の測定
- 組織の低酸素状態(嫌気性代謝)を反映します。初期値と経時的な改善(クリアランス)が指標になります。
- 血液培養の採取
- 抗菌薬投与前に、必ず2セット(好気・嫌気ボトル×2箇所)採取します。
- 広域スペクトル抗菌薬の投与
- 原因菌が特定される前でも、ターゲットとなりうる菌をカバーする強力な抗菌薬を早期に投与します。
- 急速輸液(30mL/kg)
- 低血圧や乳酸値≧4mmol/Lの場合、細胞外液(リンゲル液など)を急速投与します。
- 血管収縮薬の使用
- 輸液を行っても平均血圧(MAP)≧65mmHgを維持できない場合、ノルアドレナリンを中心とした昇圧剤を使用します。
※その他、感染源のコントロール(ドレナージやデブリードマン)も可能な限り早期に行います。
看護のポイント
早期発見の観察力(Killer Symptomへの気づき)
- 「なんとなく元気がない」「辻褄の合わないことを言う(不穏)」は、血圧低下の前の重要なサインです。
- 呼吸数の増加(頻呼吸)は、代謝性アシドーシス(乳酸蓄積)に対する代償反応の可能性があります。SpO2だけでなく呼吸回数・呼吸様式を確認してください。
輸液・薬剤管理の徹底
- 初期輸液は大量かつ急速に行われます。心不全の既往がある患者などでは、肺水腫のリスクがあるため、呼吸状態(ラ音の聴取、SPO2低下)に注意しながら滴下を管理します。
- 抗菌薬は「時間厳守」です。オーダーが出たら最優先で投与を開始してください。
循環動態のモニタリング
- ショック離脱の目標として、平均血圧(MAP)65mmHg以上、尿量 0.5mL/kg/時以上が目安となります。
- 末梢冷感の有無や、毛細血管再充満時間(CRT)の延長(2秒以上)を確認し、末梢循環の状態を評価します。
全身管理と家族ケア
- 皮膚トラブル:循環不全により褥瘡ができやすいため、除圧を徹底します。
- 血糖コントロール:侵襲下では高血糖になりやすいため、インスリン管理が必要になることがあります。
- 家族ケア:急激な病状悪化は家族に大きなショックを与えます。医師の説明を補足し、現状を分かりやすく伝える支援が必要です。