感覚障害の病態生理
感覚は、外部からの刺激を受け取り、脳で処理することで認識されます。感覚障害は、①末梢神経障害 ②脊髄障害 ③脳の障害(脳幹の障害、視床や大脳の障害)によって生じ、それぞれ感覚障害の分布が異なってきます。
感覚は主観的なものであるため、客観的に正確な診断を行うことが難しいです。患者によっては、「力が入らない」(=筋力低下)といった症状も「しびれ」と表現することがあるため注意が必要です。
症状
異常感覚:ぴりぴり、じんじん、正座後のようなしびれ
感覚低下、感覚鈍麻:触った感触や温度の感覚が鈍い
感覚過敏:風が当たるだけでも痛みを感じる
神経痛:三叉神経痛(顔面領域の痛み)、脊椎ヘルニアによる末梢神経の障害(坐骨神経痛、四肢の痛み)、視床痛(視床出血後、しばらくたって耐え難い痛みを生じることがある)
感覚障害の原因
主原因
末梢神経障害
代謝性(糖尿病、ビタミンB12欠乏症、アルコール性、脚気 など)
薬剤性
自己免疫疾患(ギランバレー症候群、CIDP、血管炎に伴う末梢神経障害、サルコイドーシス など)
遺伝性、家族性アミロイドニューロパチー
腫瘍(リンパ腫、白血病、乳がんの末梢神経浸潤 など)
感染症(帯状疱疹、帯状疱疹後神経痛)
機械的、絞扼性(脊椎ヘルニアによる神経根症、橈骨神経麻痺)
脊髄障害
血管障害(脊髄梗塞、脊髄動静脈奇形)
腫瘍(原発性、転移性脊髄腫瘍)
感染症(ウイルス性脊髄炎 など)
自己免疫疾患(多発硬化症による脊髄障害、SLEやシェーグレン症候群による自己免疫性脊髄炎 など)
機械的(椎間板ヘルニアによる脊髄圧迫)
脳の障害
血管障害(脳梗塞、脳出血)
その他(脳腫瘍、脳炎、多発性硬化症など)
随伴症状
運動障害(筋力低下、麻痺)
脊髄障害、末梢神経障害で随伴することが多い
脊髄障害が胸椎レベルで生じると対麻痺(両下肢麻痺)、上位頚椎レベルで生じると四肢麻痺を呈する
膀胱直腸障害
脊髄障害に随伴することが多い
糖尿病性末梢神経障害は自律神経障害を合併し、排尿障害を随伴することがある
脳神経障害
脳幹が障害されたときに随伴する
交差性温痛覚障害と下位神経麻痺障害の合併は延髄の障害を示唆している(ワレンベルグ症候群)
自律神経障害(皮膚、骨の障害)
四肢に激しい疼痛を生じる場合、皮膚の色調変化、運動障害や関節拘縮などの変化を伴うことがある
交感神経系の過剰興奮が関与している
治療法・対症療法
末梢神経障害
糖尿病などの原因疾患をコントロールし、症状の増悪を防ぎます。また、アルコールの過剰摂取は末梢神経障害を増悪させるため節酒・禁酒を勧めます。
代謝性末梢神経障害の進行を防ぐためビタミン製剤補充を行ったり、神経痛や感覚過敏が強い場合は、神経障害性疼痛緩和薬や抗てんかん薬を使用します。
脊髄障害、脳の障害
脊髄障害や視床の障害では、痛みやしびれが強く出ることが多く、三環系抗うつ薬や抗てんかん薬などを用いて対症療法を行います。
神経障害性疼痛
帯状疱疹後神経痛、糖尿病性末梢神経障害など末梢神経障害による痛み、脊髄損傷後の疼痛など中枢神経障害による痛みの双方を指し、神経障害性疼痛緩和薬を投与します。
看護のポイント
アセスメント
感覚障害の種類(触覚、痛覚、温度覚、振動覚、位置覚など)、範囲、程度
感覚障害の出現時期、経過、増悪・軽減因子
日常生活への影響(転倒しやすい、細かい作業がしにくいなど)
痛みやしびれの有無、性状、程度
安全対策
感覚が鈍くなっている部位は、熱傷や凍傷、外傷のリスクが高まります。
温度の確認(入浴前のお湯の温度など)、尖ったものや熱いものを近づけないなどの注意喚起と環境整備が必要です。足元の感覚が不安定な場合は、転倒予防のために手すりの設置、滑りにくい履物の使用、段差の解消などを検討します。ベッドからの転落予防のために、ベッド柵の使用や離床センサーの検討も必要です。
セルフケア支援
感覚障害により、着替えや食事、排泄などのセルフケアが困難になることがあります。患者の状態に合わせて、介助方法の工夫や自助具の提案を行います。皮膚の感覚が鈍くなっている場合は、皮膚の損傷に気づきにくいため、日々の皮膚の観察と保湿ケアが重要です。
苦痛の緩和
痛みやしびれを伴う感覚障害は、患者の大きな苦痛となります。痛みの程度や性状をアセスメントし、医師と連携して適切な疼痛管理を行います。痛みの緩和方法(温罨法、冷罨法、マッサージなど)を患者とともに検討します。
精神的なサポート
感覚障害は、日常生活に大きな影響を与えるため、患者は不安や抑うつを感じやすいです。患者の感情に寄り添い、傾聴することで精神的なサポートを行います。感覚障害に対する正しい情報提供も不安軽減に繋がります。
リハビリテーションの促進
感覚の再学習や機能回復のためのリハビリテーションへの積極的な参加を促します。リハビリテーションの内容を理解し、患者が安全かつ効果的に取り組めるように支援します。