呼吸性アシドーシスと呼吸性アルカローシスについて

呼吸性アシドーシスと呼吸性アルカローシスについて|症状の概要から看護のポイントまで徹底解説

あずかん

夜勤の巡視で、酸素投与中のCOPD患者さんが「静かに眠っている」。SpO₂は96%、モニターも落ち着いている。でも朝まで放置したら、日勤の看護師が呼びかけても開眼しない——このパターンは、臨床で何度も語り継がれてきた典型例です。
呼吸性アシドーシスと呼吸性アルカローシスは、どちらも換気(PaCO₂)の異常が一次性変化として起こる病態です。ここで厄介なのは、酸素化(PaO₂・SpO₂)と換気(PaCO₂)は別のプロセスだということ。SpO₂が保たれていても、換気不全は進行します。「不安だから過換気」と決めつけて肺塞栓を見逃す。「眠いだけ」と判断してCO₂ナルコーシスを見逃す。どちらも、観察の視点が一つ欠けただけで起こります。

呼吸性アシドーシス
肺胞低換気によるCO₂貯留。見逃すとCO₂ナルコーシス、意識障害、呼吸停止、不整脈へ進む

呼吸性アルカローシス
過換気によるCO₂排出過多。背景に疼痛・不安だけでなく、低酸素、敗血症、肺塞栓、代謝性アシドーシスの代償が隠れていることがある

【重要事項】
※本記事は一般的な観察の視点・根拠の解説です。酸素投与量の設定、人工呼吸器の適応、報告基準は、必ず医師の指示および所属施設のプロトコルを優先してください。

目次

【簡単な対比】呼吸性と代謝性の違い

比較項目呼吸性(本記事)代謝性(別記事)
一次性変化PaCO₂の変化HCO₃⁻の変化
主に関わる臓器肺・呼吸中枢・呼吸筋腎臓・消化管・組織代謝
代償する側腎臓(HCO₃⁻の再吸収・排泄)肺(換気量の調整)
代償のスピード遅い(急性:数分で緩衝、腎性代償は数日)速い(数分〜数時間で呼吸が反応)
鑑別の手がかり呼吸数・意識・酸素投与歴AG・乳酸・IN-OUT・血糖

「呼吸性は代償が遅いので、急性ではpHが大きく振れる」という点が、臨床での緊急度の高さにつながります。


【保存版】プロの観察項目&根拠

観察項目観察ポイント根拠・予測
呼吸数・呼吸の深さ・パターン1分間、自分の目で呼吸数を数える。胸郭と腹部の動き、呼吸の深さ(1回換気量の大小)、リズムを確認する。浅く遅い呼吸か、深く速い呼吸かを区別して記録する分時換気量=呼吸数×1回換気量。
呼吸数が保たれていても、1回換気量が小さければ肺胞換気は不足する(死腔換気が増えるため)。浅く遅い呼吸は低換気(呼吸性アシドーシス)、深く速い呼吸は過換気(呼吸性アルカローシス)を示唆する。呼吸数が急に減少してきた場合は、呼吸筋疲労や呼吸中枢抑制による代償破綻の前兆として扱う
意識レベル(JCS/GCS)と傾眠・頭痛・羽ばたき振戦前回評価との差を見る。呼びかけへの反応の遅れ、会話のつじつま、日中の傾眠、起床時の頭痛、手のはばたき振戦を確認する。夜間の傾眠は「寝ている」と判断せず、刺激への反応を必ず確認するPaCO₂上昇は脳血管を拡張させ、頭痛や脳圧上昇を招く。さらにCO₂そのものの麻酔作用で、傾眠→昏睡へ進む(CO₂ナルコーシス)。一方、急性の低CO₂血症では脳血管が収縮して脳血流が低下し、めまい・ふらつき・意識変容が出る。意識レベルの変化は血ガスより先に見える異常のことがある
酸素投与量とSpO₂のセット評価酸素流量(またはFiO₂)と、そのときのSpO₂を必ずセットで記録する。目標SpO₂が医師から指示されているか確認し、範囲を超えて高い場合は報告する。流量を上げた後のSpO₂上昇+傾眠の組み合わせに注意するCOPDなど慢性高CO₂血症の患者さんでは、過剰な酸素投与がCO₂貯留を悪化させることがある(V/Qミスマッチの悪化、ホールデン効果などが関与)。「SpO₂が低いから酸素を増やす」は、換気不全のある患者さんでは危険な判断になりうる。目標SpO₂(例:88〜92%)の設定は医師と共有する
努力呼吸の所見(呼吸補助筋・陥没呼吸・奇異呼吸)肩の上下動、胸鎖乳突筋の収縮、鎖骨上窩・肋間の陥没、吸気時に腹部が凹む奇異呼吸の有無を、患者さんの衣服をめくって目視する。会話の途切れ(一息で何語話せるか)も確認する呼吸筋疲労が進むと呼吸補助筋の動員が増え、やがて奇異呼吸(シーソー呼吸)が出現する。これは呼吸筋が限界に近い兆候で、この後に呼吸数が急に減れば、換気不全の進行→呼吸停止に至る可能性がある。努力呼吸が目立たなくなったのに意識が下がっている場合は、改善ではなく疲弊の可能性を疑う
呼吸音・胸郭の動き(左右差・減弱)聴診で左右差、呼吸音の減弱、喘鳴、副雑音を確認する。胸郭の挙上の左右差、気管の偏位も見る。喀痰の貯留音がないか確認する呼吸音の著明な減弱は、気道閉塞、重症喘息での「silent chest」、気胸、無気肺、胸水などによる換気低下を示唆する。喘鳴が消えたのに呼吸状態が改善していない場合は、空気の通り自体が悪くなっている可能性がある。原因が気道・肺実質・胸郭のどこにあるかを絞る手がかりになる
薬剤歴(オピオイド・ベンゾジアゼピン・鎮静薬・筋弛緩薬)直近の投与薬剤、投与量、投与時間を確認する。術後・夜間に追加された鎮痛薬・眠剤・抗不安薬がないかカルテで確認する。RASS、鎮静スコア、呼吸数を定期的に評価するオピオイド・鎮静薬は呼吸中枢の反応性を低下させ、低換気(呼吸性アシドーシス)を来す。特に高齢者、腎機能低下、睡眠時無呼吸症候群、COPDでは少量でも影響が出やすい。「痛み止めを使った後の傾眠」が、単なる眠気かCO₂貯留かを区別するために、呼吸数と意識レベルを併せて確認する
疼痛・不安・しびれ(口周囲・四肢)疼痛スケール(NRS/VAS)を確認し、口周囲や指先のしびれ、手足のこわばり、めまいを問診する。痛みや不安への対応後に呼吸数が落ち着くかも確認する過換気によるPaCO₂低下は、血液のアルカリ化により、アルブミンと結合するCa²⁺を増やしてイオン化Ca²⁺が低下する。その結果、しびれ、テタニー、痙攣が起こりうる。疼痛や不安が原因なら、鎮痛・環境調整で呼吸数が落ち着くはずで、落ち着かない場合は器質的な原因を疑う
過換気の背景因子(低酸素・敗血症・肺塞栓・発熱)SpO₂、体温、脈拍、血圧、qSOFAに該当する項目を確認する。下肢の腫脹・疼痛、安静解除後の突然の呼吸困難、胸痛があれば、肺塞栓症の可能性として報告する過換気は、低酸素、肺塞栓、敗血症、肺炎、心不全、代謝性アシドーシスの代償などで起こる。「不安による過換気」は除外診断として考える。頻呼吸は、敗血症のスクリーニング(qSOFA)にも含まれる重要な所見
血液ガス(pH、PaCO₂、HCO₃⁻)pH→PaCO₂→HCO₃⁻の順で読む。PaCO₂の変化とHCO₃⁻の変化が同じ方向なら代償、逆方向なら混合性障害を疑う。急性か慢性かは、HCO₃⁻の変化量や既往歴、経過から判断する急性呼吸性アシドーシスでは、PaCO₂が10mmHg上昇するごとにHCO₃⁻は約1mEq/L上昇、慢性では約3.5〜4mEq/L上昇するとされる(腎性代償)。代償の程度が予測値と合わない場合は、代謝性の異常が合併している。慢性高CO₂血症の患者さんはベースラインのPaCO₂が高いため、pHが保たれていれば直ちに危険とは限らない点も押さえる
心電図・血清K、Caモニター波形(不整脈、QT延長、T波の変化)を確認し、血清K、イオン化Caの値をチェックする。しびれ・テタニーがある場合は、特にCaを確認するアシデミアでは細胞外K⁺が上昇しやすく、アルカレミアでは低K血症に傾く。重度のアルカレミアではイオン化Ca低下によるQT延長・不整脈・痙攣のリスクがある。急激な換気の変化は、電解質の変動を介して不整脈につながるため、血ガスと電解質を併せて見る
人工呼吸器・NPPV装着中の設定と患者の同調設定(換気量、呼吸数、圧)、実測の1回換気量、患者さんの呼吸との同調性を確認する。NPPVのマスクリーク、皮膚トラブル、患者さんの不快感もチェックする。人工呼吸器の警報が鳴ったら、まず患者さんを確認し、次に機器を確認する設定が過大なら過換気(呼吸性アルカローシス)、過小なら低換気(呼吸性アシドーシス)になる。非同調(ファイティング)は、換気効率を低下させ、低酸素・高CO₂・循環動態の悪化を招く。NPPVの失敗サイン(意識低下、CO₂貯留の増悪、マスク不耐)を早めに拾い、挿管・人工呼吸管理への移行を医師が判断できるよう情報を整理しておく

現場で役立つ+αの看護ポイント

症例ベースの血ガス読み解き

読み方は共通して、①pH → ②PaCO₂・HCO₃⁻ → ③一次性変化の判定 → ④代償の評価 → ⑤原因の推定の順です。

症例①:COPD増悪、酸素増量後に傾眠が強くなった患者さん

70代男性。COPD、在宅酸素療法中。肺炎で入院。酸素3L/分で投与中。SpO₂ 90%に低下したため、夜勤帯で酸素を5L/分に増量。1時間後、呼びかけに対する反応が鈍くなった。

項目値
pH7.25
PaCO₂78 mmHg
HCO₃⁻32 mEq/L
PaO₂110 mmHg

読み解き
・pH 7.25 → アシデミア
・PaCO₂ 78(基準値約40)→ 上昇。一次性変化は呼吸性
・HCO₃⁻ 32(基準値24前後)→ 上昇。腎性代償が働いている(慢性高CO₂血症の背景と合致)
・結論:慢性呼吸性アシドーシスの急性増悪(acute on chronic)。PaO₂ 110は酸素過剰を示唆

この症例での看護の動き

・傾眠と酸素増量のタイミングの関連を、時系列で整理して報告する
・「酸素を5L/分に増量後、1時間でJCS I-1から II-10に低下。呼吸数は14回/分と減少傾向。血ガスでPaCO₂ 78、pH 7.25です」と、介入と変化の関係を伝える
・自己判断で酸素を減量せず、医師の指示のもとで目標SpO₂を再設定し、NPPVの準備を行う

症例②:術後の疼痛で過換気になっていると思われた患者さん

40代女性。腹腔鏡下手術の術後2日目。「息が苦しい」「手がしびれる」と訴え、呼吸数32回/分。看護師は当初、疼痛と不安による過換気と考えたが、SpO₂ 92%(室内気)、脈拍118回/分。下肢に軽度の浮腫と左ふくらはぎの圧痛がある。

項目値
pH7.52
PaCO₂28 mmHg
HCO₃⁻23 mEq/L
PaO₂68 mmHg

読み解き
・pH 7.52 → アルカレミア
・PaCO₂ 28 → 低下。一次性変化は呼吸性
・HCO₃⁻ 23 → ほぼ正常(急性のため腎性代償はまだ働いていない)
・結論:急性呼吸性アルカローシス。ただしPaO₂ 68と低下しており、低酸素を伴う過換気

この症例での看護の動き
・「不安による過換気」と決めつけず、低酸素・頻脈・下肢症状から肺塞栓症の可能性を考え、医師へ報告する
・「術後2日目、呼吸数32、SpO₂ 92%、脈拍118、左下腿の圧痛あり。血ガスでpH 7.52、PaCO₂ 28、PaO₂ 68です。肺塞栓症の可能性はありませんか」と、懸念をそのまま言葉にする
・過換気を静めるためのペーパーバッグ法は、低酸素が背景にある場合は禁忌であり、実施しない

症例から学べるポイント

視点症例①症例②
見落としやすい点SpO₂が改善した=良い状態ではない過換気=不安、ではない
手がかり酸素増量後の傾眠、HCO₃⁻の上昇(慢性化の根拠)PaO₂低下、頻脈、下肢症状
報告のポイント介入と変化の時系列鑑別したい疾患名を言葉にする

「ドクターコールの前」に整理しておく4点セット

  1. バイタルのトレンド(呼吸数・SpO₂・意識レベルの経時変化)
  2. 酸素・薬剤の投与歴(酸素流量の変更、オピオイド・鎮静薬の追加)
  3. 血ガスの数値(pH、PaCO₂、HCO₃⁻、PaO₂)
  4. 自覚症状と身体所見(傾眠、頭痛、しびれ、努力呼吸、呼吸音)

「なんとなく変」を拾うコツ

  • 酸素流量を変更したら、30分〜1時間後に呼吸数と意識レベルを再確認する習慣をつける
  • 鎮痛薬・眠剤の投与後は、呼吸数を一度数える
  • 傾眠の患者さんには、声かけだけでなく、肩を軽く叩いて反応を見る

ペーパーバッグ法は「原因を確認してから」

過換気症候群に対するペーパーバッグ法は、低酸素血症を悪化させる危険性があるため、現在は推奨されていません。まずSpO₂や原因疾患を評価し、器質的疾患を除外したうえで、ゆっくりした呼吸を促し、安心できる声かけで対応するのが基本です。

NPPV導入時は「患者さんの怖さ」にも目を向ける

NPPVのマスクは、閉塞感や圧迫感から恐怖心を抱く患者さんが少なくありません。装着前に「息が楽になる機械です。苦しいときはすぐ外せます」と伝え、最初は看護師がマスクを手で顔に当てて圧に慣れてもらうと、受け入れがよくなります。


参考資料

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