腎性貧血について

腎性貧血の病態から看護のポイントまで徹底解説

あずかん

腎臓内科や透析室に配属されると、まず学ぶべき重要な疾患の一つに「腎性貧血」があります。腎性貧血は、腎機能の低下に伴って現れる合併症であり、患者さんのQOLに大きく影響します。
この記事では、腎性貧血について病態生理から具体的な看護のポイントまで、分かりやすく解説します。


目次

腎性貧血とは

腎性貧血を理解する上で最も重要なのが、エリスロポエチン(EPO)というホルモンの働きです。

通常、体内の酸素が不足すると、腎臓にある尿細管周囲の間質細胞がそれを感知し、エリスロポエチンを分泌します。エリスロポエチンは、骨髄にある赤芽球前駆細胞に作用し、赤血球への分化・増殖を促進します。これにより赤血球が増え、全身に十分な酸素が供給される仕組みです。

しかし、腎不全になると、このエリスロポエチンを産生する細胞が障害され、産生量が低下します。その結果、骨髄での赤血球産生がうまく行われず、貧血状態に陥ります。これが腎性貧血の基本的な病態です。

さらに、腎不全の患者は尿毒症性物質(ウレミックトキシン)が体内に蓄積しており、これが赤血球の寿命を短くしたり、エリスロポエチンの働きを阻害したりすることも、貧血を助長する一因となります。


腎性貧血の主な原因

腎性貧血の直接的な原因は、前述の通りエリスロポエチンの産生低下ですが、その他にも以下のような複合的な要因が関わっています。

鉄欠乏
赤血球の材料である鉄が不足している状態。食事からの摂取不足や、消化管からの出血、透析回路内での残血などが原因となります。エリスロポエチン製剤(ESA)で赤血球産生が促進されると、鉄の需要が増大し、鉄欠乏に陥りやすくなります。
赤血球寿命の短縮
尿毒症性物質の影響で赤血球が壊れやすくなり、寿命が短くなります(通常約120日が、60〜90日に短縮)。
葉酸・ビタミンB12の欠乏
赤血球の正常な成熟に必要なビタミン類が、食事制限や透析によって失われることで不足し、貧血の原因となることがあります。
出血
透析治療におけるバスキュラーアクセス穿刺時の出血や、消化管出血などが貧血を悪化させる要因となります。


腎性貧血の主な症状

貧血の症状は、体内の酸素不足によって引き起こされます。ゆっくりと進行することが多いため、患者自身が症状に気づきにくいこともあります。

全身症状:全身倦怠感、易疲労感、めまい、立ちくらみ、動悸、息切れ、頭痛、耳鳴り
身体所見:顔色不良、眼瞼結膜蒼白
精神症状:集中力の低下、意欲減退
その他:食欲不振、耐寒性の低下(寒がりになる)、狭心症の増悪

これらの症状は、患者のADLやQOLを著しく低下させるため、早期発見と適切な介入が重要です。


治療・対症療法

腎性貧血の治療目標は、貧血症状を改善し、QOLを向上させることです。主に以下の2つの治療法が中心となります。

赤血球造血刺激因子製剤(ESA)療法

不足しているエリスロポエチンを補充する治療法です。注射薬(皮下注または静注)が長年標準治療として用いられてきましたが、近年では経口で投与可能なHIF-PH阻害薬も登場しています。HIF-PH阻害薬は、体内の低酸素応答メカニズムを活性化させることで、内因性のエリスロポエチン産生を促す新しいタイプの薬剤です。

鉄剤補充療法

ESA製剤の効果を最大限に引き出すためには、赤血球の材料となる鉄が十分に満たされている必要があります。貯蔵鉄の指標であるフェリチン値や、鉄飽和度(TSAT)を確認し、不足している場合は鉄剤(経口薬または注射薬)を補充します。

これらの治療により、ヘモグロビン濃度を適切な範囲(日本透析医学会のガイドラインでは、透析患者で10.0〜12.0g/dLが目標とされることが多い)にコントロールします。


看護のポイント

バイタルサインと自覚症状の観察

  • 症状のモニタリング
    動悸、息切れ、倦怠感などの貧血症状の有無や程度を定期的に確認します。特に、労作時の症状の変化に注意しましょう。「いつもより疲れやすい」「少し動いただけでも息が切れる」といった患者の訴えは重要な情報です。
  • バイタルサインの確認
    頻脈や労作時のSpO2低下がないか観察します。

治療の管理と副作用の観察

  • 確実な薬剤投与
    ESA製剤や鉄剤が、指示通りに投与されているかを確認します。
  • 副作用の観察
    ESA製剤では血圧上昇やシャント閉塞、鉄剤では消化器症状(嘔気、便秘など)や過敏症のリスクがあります。副作用の早期発見に努め、異常があれば速やかに医師に報告します。特にHIF-PH阻害薬は新しい薬剤であり、血栓塞栓症などのリスクについて注意深い観察が必要です。

安楽な日常生活への援助

  • 休息と活動のバランス
    患者の疲労感に合わせて、休息を促したり、活動計画を一緒に考えたりします。一度に多くの活動を詰め込まず、適度な休憩を挟むよう助言します。
  • 転倒・転落の防止
    めまいやふらつきがある患者には、療養環境を整え、転倒リスクをアセスメントし、必要な予防策(履物の選択、移動時の付き添いなど)を講じます。
  • 保温
    貧血により寒さを感じやすくなるため、室温の調整や衣類・寝具の工夫で保温に努めます。

食事・栄養指導

  • 鉄分を多く含む食品の摂取
    管理栄養士と連携し、腎臓病の食事制限(タンパク質、カリウム、リンなど)の範囲内で、鉄分を多く含む食品(レバー、赤身肉、ほうれん草など)を効率よく摂取できるよう助言します。
  • 調理法の工夫
    鉄分の吸収を助けるビタミンCを一緒に摂取するなどの工夫を伝えます。

患者教育と精神的サポート

  • 疾患と治療の理解促進
    なぜこの治療が必要なのか、薬がどのような効果をもたらすのかを、患者の理解度に合わせて分かりやすく説明し、治療へのアドヒアランス(遵守)を高めます。
  • 精神的サポート
    倦怠感や意欲低下は、精神的な落ち込みにつながりやすいです。患者の思いを傾聴し、共感的な態度で関わることが大切です。症状が改善することで、活動範囲が広がるなどの具体的な目標を共有し、治療へのモチベーションを支えます。
参考資料
よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
目次