PTAについて

PTA(経皮的血管形成術)の病態から看護のポイントまで徹底解説

あずかん

この記事では、PTA(Percutaneous Transluminal Angioplasty:経皮的血管形成術)について、基本から詳しく解説していきます。循環器領域でよく行われる治療ですが、初めて関わる際は戸惑うことも多いかもしれません。
この記事を通して、PTAの全体像を理解し、自信を持って看護に臨めるようになりましょう!

目次

PTAの対象となる疾患

PTAは、主に動脈硬化によって引き起こされる閉塞性動脈硬化症(ASO)の治療に用いられます。

動脈は、心臓から全身へ酸素や栄養素を運ぶ重要な役割を担っています。健康な動脈はしなやかで、内側は滑らかですが、加齢、高血圧、脂質異常症、糖尿病、喫煙などの危険因子が重なると、動脈の内壁にコレステロールなどがたまってプラーク(粥腫)が形成されます。これがアテローム動脈硬化です。

プラークが大きくなると、血管の内腔が狭くなる狭窄や、完全に詰まってしまう閉塞が起こります。これにより、その動脈が栄養する組織や臓器への血流が不足し、様々な機能障害を引き起こします。

PTAは、このように狭窄・閉塞した血管を、体の外からカテーテルという細い管を使って内側から広げる治療法です。特に、足の血管(腸骨動脈、大腿動脈、膝窩動脈など)の治療で多く行われます。

PTAが必要となる原因

PTAが必要となる主な原因疾患は、前述の通り閉塞性動脈硬化症(ASO)です。ASOを引き起こす危険因子は以下の通りです。

加齢: 年齢とともに動脈硬化は進行しやすくなります。
高血圧: 高い圧力が常に血管壁にかかることで、血管が傷つき、動脈硬化が促進されます。
脂質異常症: 血中の悪玉コレステロール(LDLコレステロール)が多いと、プラークが形成されやすくなります。
糖尿病: 高血糖状態は血管内皮細胞を障害し、動脈硬化を進行させます。また、末梢神経障害を合併することも多く、症状の発見が遅れることがあります。
喫煙: タバコに含まれるニコチンや一酸化炭素は、血管を収縮させ、血管内皮を傷つけることで、動脈硬化の強力な促進因子となります。
遺伝的素因: 家族に同様の疾患を持つ方がいる場合、発症リスクが高まることがあります。
肥満・運動不足: 内臓脂肪の蓄積や運動不足は、高血圧や脂質異常症、糖尿病のリスクを高め、間接的に動脈硬化を促進します。

これらの危険因子が複数重なることで、ASOの発症リスクは著しく高まります。

ASOによる症状

ASOの症状は、血流障害の程度や部位によって異なりますが、主に下肢に現れます。症状の進行度合いはFontaine(フォンテイン)分類で評価されることが一般的です。

  • Fontaine I度(無症状期)
    • 自覚症状はほとんどありません。冷感やしびれを感じる程度です。
  • Fontaine II度(間歇性跛行期)
    • 最も特徴的な症状です。一定の距離を歩くと、ふくらはぎやお尻、太ももなどに痛み、だるさ、こわばりが生じ、少し休むと症状が改善してまた歩けるようになります。これは、運動によって筋肉が必要とする酸素供給が、狭窄した血管からの血流では追いつかなくなるために起こります。
  • Fontaine III度(安静時疼痛期)
    • じっとしていても足や指に持続的な痛みが生じます。特に夜間、就寝中に痛みが強くなる傾向があります。足を下げると血流が改善し、痛みが和らぐことがあります。
  • Fontaine IV度(潰瘍・壊死期)
    • 血流不足がさらに深刻化し、足の指などに治りにくい潰瘍ができたり、組織が死んでしまう壊死に至ったりします。感染を伴うことも多く、最悪の場合、下肢の切断が必要になることもあります。

治療・対症療法

PTAは、カテーテルを用いて狭窄・閉塞した血管を物理的に広げる治療法です。局所麻酔下で行われ、患者さんの身体的負担が少ない低侵襲治療です。

治療の流れ

  1. 穿刺: 主に足の付け根(鼠径部)や肘、手首の動脈から、シースと呼ばれる管を挿入します。
  2. カテーテルの挿入: シースからガイディングカテーテルやガイドワイヤーを挿入し、レントゲン透視下で目的の血管まで進めます。
  3. バルーンによる拡張: ガイドワイヤーに沿わせて、先端に風船(バルーン)のついたカテーテルを狭窄部まで運び、バルーンを膨らませて血管を内側から押し広げます。
  4. ステント留置(必要な場合): バルーンで拡張しただけでは、血管が再び狭くなってしまう(再狭窄)リスクが高い場合や、血管壁が裂けてしまった(解離)場合に、ステントと呼ばれる金属製のメッシュ状の筒を留置して、血管を内側から支えます。近年では、再狭窄を予防する薬剤が塗布された薬剤溶出ステント(DES)も使用されます。
  5. 終了・止血: カテーテル類を抜去し、穿刺部を圧迫止血または専用の止血デバイスで閉じます。

対症療法・その他の治療

  • 薬物療法: 抗血小板薬や血管拡張薬、脂質異常症治療薬などが用いられます。PTA後も再狭窄予防のために継続が必要です。
  • 運動療法: 間歇性跛行の改善に効果的です。専門家の指導のもと、無理のない範囲で歩行訓練を行います。
  • 外科的治療(バイパス手術): カテーテル治療が困難な、広範囲にわたる閉塞や石灰化が強い病変に対して行われます。自身の静脈や人工血管を用いて、詰まった部分を迂回する新しい血の通り道(バイパス)を作成します。

看護のポイント

治療前の看護

  • 情報収集とアセスメント
    • アレルギー歴(特に造影剤)、腎機能、内服薬(特に抗凝固薬・抗血小板薬)の確認は必須です。
    • 下肢の皮膚状態、動脈の触知(足背動脈、後脛骨動脈)、冷感、色調、チアノーゼの有無を観察し、左右差を比較して記録しておきます。これは治療後の評価のベースラインとなります。
    • 間歇性跛行の距離や安静時痛の有無・程度など、自覚症状を詳しく聴取します。
  • 不安の軽減とオリエンテーション
    • 患者は検査や治療に対して強い不安を抱えています。治療の流れ、所要時間、術中の体動制限、術後の安静度などについて分かりやすく説明し、疑問に答えることで不安の軽減に努めます。
    • 「痛いですか?」「時間はどのくらいかかりますか?」といった質問には、具体的に(例:「麻酔の時にチクッとします」「2時間くらいで終わる予定です」)答えることが信頼関係の構築に繋がります。

治療中(カテ室)の看護

  • バイタルサインのモニタリング
    • 心電図、血圧、SpO2を継続的に監視し、変動に注意します。
  • 患者の状態観察
    • 胸痛、背部痛、腹痛、下肢痛などの苦痛の訴えはないか確認します。これらは合併症(血管解離、塞栓など)のサインである可能性があります。
    • 造影剤アレルギーの初期症状(気分不快、嘔気、皮膚の発赤、かゆみなど)に注意します。
  • 声かけ
    • 意識のある患者に対して、進行状況を伝えたり、体調を気遣う声かけをしたりすることで、安心感を与え、協力を得られやすくします。

治療後の看護

  • 穿刺部の管理と止血確認
    • 最も重要な観察項目です。穿刺部からの出血、血腫形成の有無を頻回に観察します。血腫が大きくなると神経を圧迫し、麻痺をきたすことがあります。
    • 圧迫止血の場合は、砂のう(サンドバッグ)で圧迫し、安静度(穿刺した方の下肢の屈曲禁止など)を厳守するよう説明・介助します。
    • 止血デバイスを使用した場合も、出血のリスクはゼロではありません。同様に注意深い観察が必要です。
  • 末梢循環の観察
    • 治療前と比較し、足背動脈や後脛骨動脈の触知が改善しているか、左右差はどうかを確認します。
    • 下肢の色調、温感、チアノーゼの有無、しびれや痛みの変化を観察します。治療によりプラークが末梢へ飛んでしまい、新たな塞栓(末梢塞栓)を起こすリスクがあるためです。
  • バイタルサインと全身状態の観察
    • 造影剤の使用による腎機能障害(造影剤腎症)のリスクがあるため、尿量や性状の観察が重要です。医師の指示に従い、水分摂取を促します。
    • 帰室後の初回歩行時は、起立性低血圧による転倒のリスクがあるため、必ず付き添いましょう。
  • 退院指導
    • 再発予防の重要性を伝え、生活習慣の改善(禁煙、食事療法、適度な運動)と服薬の継続がいかに大切かを指導します。
    • 足のセルフケア(毎日足を観察し、傷や色の変化がないか確認する、足を清潔に保つ、適切な靴を履くなど)について具体的に指導します。
参考資料
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