PCA(自己調節鎮痛法)の基本と看護のポイント

術後の患者さんが、ベッドサイドで小さなボタンのついた機械を持っているのを見たことはありませんか?それはもしかしたら「PCA(自己調節鎮痛法)」かもしれません。
今回は、術後管理で非常に重要な役割を果たすPCAについて、知っておくべき基本から看護のポイントまで、分かりやすく解説します。
PCA(自己調節鎮痛法)ってどんなもの?
PCAは “Patient-Controlled Analgesia” の略で、日本語では「自己調節鎮痛法」と呼ばれ、これは、「患者自身が、痛みに合わせて鎮痛薬を投与できるシステム」 のことです。
あらかじめ鎮痛薬(主に医療用麻薬のオピオイド)がセットされた専用のポンプに、患者が操作するボタンが繋がっています。患者は「痛いな」と感じたときにボタンを押すと、決められた量の鎮痛薬が静脈ラインなどから体内に投与される仕組みです。
主体は患者
痛みの感じ方には個人差があるため、患者自身の感覚で鎮痛を図れるのが最大の特徴です。
安全な仕組み
薬剤の過剰投与を防ぐため、一度ボタンを押すと一定時間は追加投与できない「ロックアウトタイム(安全時間)」が医師によって設定されています。
主に使われる疾患(手術)は?
PCAは、術後の強い痛みが予想されるさまざまな手術で用いられます。特に以下のような手術後によく使われます。
開胸手術: 肺がん、食道がん、心臓手術など
開腹手術: 胃がん、大腸がん、肝臓がんなどの消化器外科手術、婦人科の開腹手術など
整形外科手術: 人工関節置換術(股関節、膝関節)、脊椎の手術など
これらの手術は、術後の痛みが大きいと呼吸が浅くなったり、体を動かせなくなったりして、肺炎や深部静脈血栓症といった合併症のリスクが高まります。PCAでしっかり痛みをコントロールすることは、早期離床を促し、合併症を予防する上で非常に重要となります。
副作用にはどんなものがある?
PCAで使用される鎮痛薬(主にオピオイド)には、特有の副作用があります。観察すべき主な副作用は以下の通りです。
- 悪心・嘔吐: 最も頻度の高い副作用の一つです。
- 眠気・傾眠: 鎮静作用によるものです。ウトウトする程度なら問題ありませんが、呼びかけへの反応が鈍い場合は注意が必要です。
- 呼吸抑制: 最も注意すべき重篤な副作用です。呼吸回数が少なくなる、SpO2が低下するなどの兆候が見られます。
- そう痒感: 全身または局所的にかゆみが出ることがあります。
- 便秘: 消化管の動きが抑制されるために起こります。
- 排尿障害: 尿意を感じにくくなったり、尿が出にくくなったりします。
看護のポイント
看護のポイント | 観察項目 |
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1. 患者へのオリエンテーション | 【最重要】 PCAは患者の協力が不可欠です。 「痛みを我慢せず、早めにボタンを押すこと」「ボタンは本人のみが押すこと(家族等が押さない)」を丁寧に説明し、理解度を確認します。 |
2. 疼痛の評価 | PCAを使用していても、痛みが十分にコントロールできているか定期的に評価します。VASなどを用いて、痛みの程度を確認しましょう。「ボタンを押しても痛みが和らがない」という訴えは、医師に報告が必要です。 |
3. 副作用のモニタリング | 副作用(特に悪心・嘔吐と眠気、呼吸抑制)の兆候がないか、バイタルサインと合わせて継続的に観察します。呼吸回数やSpO2の定時測定は必須です。 |
4. PCAポンプの管理 | ポンプ本体の残量、積算投与量、患者がボタンを押した回数(デマンド回数)を定期的に確認・記録します。押した回数に対して投与回数が著しく少ない場合、痛みが強いのにロックアウトタイムで投与できていない可能性があります。 |
5. 安全管理 | PCAのルートが確実に接続され、閉塞や屈曲、薬液漏れがないか確認します。また、患者が過度に眠りがちで、誤ってボタンを押し続けてしまうようなことがないか、ベッド周囲の環境も観察します。 |