パーキンソン病について

パーキンソン病について|病態生理から看護のポイントまで徹底解説

あずかん

高齢化社会において、パーキンソン病の患者さんと接する機会は病棟・外来・訪問看護を問わず増えています。神経変性疾患の中でもアルツハイマー型認知症に次いで頻度が高く、進行性の経過をたどるため、長期的な看護介入が重要となってきます。
この記事では、パーキンソン病の病態生理から最新の治療、そして具体的な看護のポイントまでを網羅的に解説します。

目次

ドパミンの減少が鍵

パーキンソン病の本質は、中脳の黒質緻密部にあるドパミン神経細胞が変性・脱落することにあります。

なぜ運動症状が出るのか?

私たちの脳内には、運動をスムーズに行うための神経回路(大脳基底核回路)があります。黒質で作られる神経伝達物質「ドパミン」は、線条体へ送られ、この回路を調整する潤滑油のような役割を果たしています。

1.黒質ドパミン神経の脱落
神経細胞が減少し、線条体へのドパミン供給が枯渇します(発症時にはすでに約50〜60%の細胞が失われていると言われます)。
2.大脳基底核の機能不全
ドパミン不足により、運動の「開始」や「調節」がうまくいかなくなります。
3.アセチルコリンとのバランス崩壊
ドパミン(抑制系として働く側面もある)が減ることで、相対的にアセチルコリン(興奮系)の働きが過剰になり、振戦などの症状を引き起こします。

レビー小体の出現

病理学的な特徴として、変性した神経細胞内に「レビー小体(Lewy body)」と呼ばれる異常なタンパク質の蓄積(主成分はα-シヌクレイン)が認められます。これが中脳だけでなく、大脳皮質や自律神経系にも広がることで、運動症状以外の多様な症状が出現します。

原因はまだ完全には解明されていない

パーキンソン病の正確な発症原因は、現時点では完全には解明されていません。しかし、以下の要因が複雑に関与していると考えられています。

加齢
最も大きなリスク因子です。加齢に伴いドパミン神経は自然減少しますが、パーキンソン病ではそのスピードが異常に速くなります。
遺伝的要因
患者の約5〜10%には家族歴があり、原因遺伝子(PARK遺伝子など)が特定されています(家族性パーキンソン病)。しかし、約90%は遺伝性のない孤発性です。
環境因子
農薬への曝露、井戸水の摂取などがリスクとして指摘される一方、喫煙やカフェイン摂取が発症リスクを下げるという疫学データもあります。

4大運動症状と非運動症状

パーキンソン病の症状は、目に見える「運動症状と、見過ごされがちな「非運動症状に分けられます。

4大運動症状(TRAP)

診断の核となる特徴的な症状です。

  1. 振戦(Tremor)
    • 安静時に手足が震える(安静時振戦)。丸薬を丸めるような動き(ピル・ローリング・トレマ)が特徴。動作を始めると止まることが多いです。
  2. 筋固縮(Rigidity)
    • 筋肉がこわばり、関節の可動域が狭くなる。他動的に動かすとカクカクとした抵抗(歯車様固縮)や、鉛管のような抵抗(鉛管様固縮)を感じます。
  3. 無動・寡動(Akinesia / Bradykinesia)
    • 動作が遅くなる、動きが小さくなる。仮面様顔貌(瞬きが減り表情が乏しい)、小字症、すくみ足などが含まれます。
  4. 姿勢反射障害(Postural instability)
    • 重心が崩れた時に体勢を立て直せず、転倒しやすくなる。進行期(ヤール重症度分類III度以上)に出現します。

非運動症状

運動症状より先行して現れることもあり、QOLに大きく影響します。

  1. 自律神経症状
    • 便秘(非常に高頻度)、起立性低血圧、排尿障害(頻尿・切迫感)、発汗異常、脂漏性顔貌。
  2. 精神・認知機能症状
    • うつ、アパシー(無気力)、認知機能低下、幻覚・妄想(薬剤性のこともある)。
  3. 睡眠障害
    • レム睡眠行動障害(寝言や夢に合わせて暴れる)、不眠、日中の過眠。
  4. 感覚障害
    • 嗅覚低下、疼痛、しびれ。

ホーン・ヤールの重症度分類と生活機能障害度

重症度 身体症状の特徴生活機能障害度 看護ポイント
I 度体の片側のみに症状がある。
(片方の手足の震えやこわばりなど)
障害は軽微。
日常生活や仕事への影響はほとんどない。
・病気の受容支援
・服薬コンプライアンスの確認
II 度体の両側に症状がある。
姿勢の異常(前傾姿勢など)がみられる。
姿勢反射障害(バランス障害)はない
日常生活や仕事は多少不便になるが、介助なしで自立している。・活動性の維持
・自主トレーニングの指導
III 度両側の症状に加え、姿勢反射障害(バランス障害)が現れる
方向転換時によろけることがある。
職務や家事の一部に制限が出るが、日常生活動作(ADL)は自立している。
(※特定疾患医療費助成の対象となる目安)
転倒リスクの急上昇(環境整備)
・すくみ足への対策
・リハビリの強化
IV 度症状が進行し重篤。
起立や歩行は辛うじて自力で可能だが困難。
日常生活動作(食事、排泄、着替えなど)に一部介助が必要となる。・ADL介助と残存機能の活用
・嚥下機能の評価
・便秘、排尿障害へのケア
V 度介助がない限り、車椅子または寝たきりの状態。日常生活の全面的介助が必要。
意思伝達が困難になることもある。
・褥瘡予防、拘縮予防
・誤嚥性肺炎の予防
・家族への介護指導、レスパイト

看護師が知っておくべき補足事項

  • ステージIIIが大きな分かれ目
    • 身体面: 「姿勢反射障害(バランスが崩れた時に立て直せない)」が出現するため、転倒リスクが跳ね上がります。ステージIIまでは転ばなかった人が、IIIに入ると頻繁に転倒するようになるため、環境整備や歩行介助の見直しが必須です。
    • 制度面: 日本の指定難病制度(医療費助成)において、原則として重症度III度以上、または「I度・II度であっても生活機能障害度が2度以上(日常生活動作に部分的な介助が必要なレベル)」の患者が助成対象となります。

治療・対症療法

根治治療はまだありませんが、薬物療法により症状をコントロールし、ADLを維持することが可能です。

薬物療法

ドパミンを補うか、その働きを助ける薬剤が中心です。

  • L-ドパ(レボドパ)製剤
    • 最も効果が高い基本薬。脳内でドパミンに変換されます。長期服用によりウェアリング・オフ現象(薬効時間の短縮)やジスキネジア(不随意運動)が出現するリスクがあります。
  • ドパミンアゴニスト
    • ドパミン受容体を直接刺激します。初期治療やL-ドパの合併症軽減に使われます。突発的睡眠などの副作用に注意。
  • MAO-B阻害薬 / COMT阻害薬
    • ドパミンの分解を防ぎ、脳内濃度を高めます。
  • アデノシンA2A受容体拮抗薬
    • 非ドパミン系に作用し、ウェアリング・オフ改善に使われます。

デバイス補助療法(DAT)

進行期で内服調整が困難な場合に検討されます。

  • 脳深部刺激療法(DBS): 脳に電極を植え込み電気刺激を与える外科手術。
  • レボドパ持続経腸療法(LCIG): 胃ろうを造設し、ポンプでL-ドパを持続注入する。

リハビリテーション

薬物療法と並んで重要です。
廃用症候群を防ぎ、現在の身体機能を維持するために、早期から継続的に行います。

看護のポイント

服薬管理の徹底(On-Off現象の予防)

パーキンソン病の薬は時間厳守が鉄則です。

・食前・食後・空腹時など、指示通りのタイミングで確実に服用させる必要があります。
・数十分のズレが、極端に動けなくなる「オフ」の状態を招くことがあります。

薬が効いている時間(On)と切れている時間(Off)の日内変動、ジスキネジアの有無、幻覚などの副作用を記録し、医師へフィードバックします。

転倒予防と環境整備

姿勢反射障害やすくみ足により、転倒リスクが非常に高いです。

すくみ足対策
「イチ、ニ」とリズムをとる声かけ、床に目印(テープ)を貼る、レーザーポインター付きの杖の使用などを提案します。
環境
動線上の障害物を除く、手すりの設置、履物の調整などを行います。

便秘への介入

頑固な便秘は、L-ドパの吸収を妨げ、病状悪化につながります

・水分摂取の励行(嚥下機能に注意)、食物繊維の摂取、腹部マッサージ、緩下剤の適切な使用管理を行います。

嚥下・栄養管理

進行すると嚥下障害(特に咽頭期)が現れ、誤嚥性肺炎のリスクが高まります。

・食事形態の調整(刻み食やとろみ)、食事姿勢の確認(顎を引く)、一口量の調整を行います。
・体重減少がないか定期的にモニタリングします。

精神的サポートと家族支援

進行性の難病であるため、患者の不安や喪失感に寄り添うことが大切です。

「表情が乏しい=感情がない」わけではありません(仮面様顔貌)。言葉やタッチングでのコミュニケーションを大切にします。
・介護負担が増える家族(キーパーソン)へのレスパイトケアの提案や、社会資源(難病医療費助成制度、介護保険)の活用をソーシャルワーカーと連携して進めます。

参考資料
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