疼痛について

疼痛の基礎知識と看護ケアのポイント

あずかん

「痛み」は、患者さんが最も頻繁に訴える症状の一つであり、看護師にとって避けては通れない重要なケアの対象です。
この記事では、疼痛の基本的な知識から実践的な看護のポイントまでを、体系的に分かりやすく解説します。

目次

痛みの病態生理

痛みは、身体に生じた異常を知らせる重要な警告信号です。そのメカニズムは、大きく「侵害受容性疼痛」「神経障害性疼痛」「心因性疼痛」の3つに分類されます。

侵害受容性疼痛

侵害受容性疼痛は、組織の損傷によって侵害受容器(痛みを感じるセンサー)が刺激されることで生じる痛みです。切り傷や打撲、やけどなどがこれにあたります。

痛みの伝達経路は以下の通りです。

刺激の発生: 組織が損傷すると、プロスタグランジンやブラジキニンなどの発痛物質が放出されます。
侵害受容器の興奮: これらの発痛物質が末梢神経にある侵害受容器を刺激します。
情報伝達: 刺激は電気信号に変換され、脊髄を通って脳(大脳皮質)に伝達されます。
痛みの認知: 脳が信号を「痛み」として認識します。

神経障害性疼痛

神経障害性疼痛は、末梢神経や中枢神経そのものが損傷されたり、機能異常を起こしたりすることで生じる痛みです。原因となる組織損傷が治癒した後も痛みが続くことがあります。

代表的な例として、帯状疱疹後神経痛や糖尿病性神経障害、坐骨神経痛などが挙げられます。焼けるような、あるいは電気が走るようなと表現されることが多いのが特徴です。

1.3 心因性疼痛

身体的な原因が見当たらないにもかかわらず、心理的・社会的な要因によって生じる痛みを指します。ストレスや不安、うつ状態などが痛みを引き起こしたり、増強させたりします。ただし、痛みが心理的なものだと安易に判断するのではなく、まずは身体的な原因を慎重に探ることが重要です。


痛みの原因

痛みの原因は非常に多岐にわたりますが、主に以下のカテゴリーに分けられます。

  • 物理的刺激: 外傷(骨折、打撲)、やけど、手術による組織の切開など。
  • 化学的刺激: 炎症によって産生される発痛物質(プロスタグランジンなど)。
  • 温度刺激: 極端な高温または低温による刺激。
  • 疾患: 癌、関節リウマチ、椎間板ヘルニア、心筋梗塞など、さまざまな疾患が痛みを引き起こします。
  • 神経系の障害: 前述の神経障害性疼痛の原因となるもの。

痛みの分類

痛みは、持続期間や性質によって分類されます。適切なアセスメントのために、これらの分類を理解しておくことが重要です。

持続期間による分類

  • 急性疼痛: 原因が明確で、通常は組織の治癒とともに軽快する一過性の痛み。警告信号としての役割が大きいです。
  • 慢性疼痛: 治療に要すると期待される期間を超えて持続する痛み。一般的に3ヶ月以上続くと慢性とされます。急性疼痛とは異なり、QOLの低下や心理的な問題(うつ、不安など)を伴いやすいのが特徴です。

性質による分類

  • 体性痛: 皮膚や筋肉、関節などに由来する痛み。「ズキズキ」「ジンジン」といった鋭い痛みで、痛みの部位がはっきりしていることが多いです。
  • 内臓痛: 内臓に由来する痛み。「重苦しい」「鈍い」といった表現が多く、痛みの部位がはっきりしない(放散痛)ことがあります。

治療・対症療法

薬物療法

痛みの種類や強さに応じて、適切な薬剤が選択されます。

  • 非オピオイド鎮痛薬
    • アセトアミノフェン: 比較的安全性が高く、軽度から中等度の痛みに用いられます。
    • 非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs): ロキソプロフェンやイブプロフェンなど。炎症を伴う痛みに効果的ですが、消化管障害や腎機能障害などの副作用に注意が必要です。
  • オピオイド鎮痛薬
    • 弱オピオイド: コデイン、トラマドールなど。中等度の痛みに用いられます。
    • 強オピオイド: モルヒネ、オキシコドン、フェンタニルなど。主にがん性疼痛など、高度な痛みのコントロールに用いられます。便秘、悪心・嘔吐、眠気などの副作用管理が重要です。
  • 鎮痛補助薬
    • 抗うつ薬や抗けいれん薬など。主に神経障害性疼痛に対して用いられます。

非薬物療法

薬物療法と組み合わせることで、鎮痛効果を高めることができます。

  • 物理療法: 温罨法、冷罨法、マッサージなど。
  • 心理的アプローチ: リラクゼーション、気晴らし(音楽、趣味など)。
  • 神経ブロック: 局所麻酔薬などを用いて、痛みの伝達を神経レベルで遮断する方法。

看護のポイント

正確なアセスメント

痛みのケアは、正確なアセスメントから始まります。痛みは主観的なものであるため、患者さんの訴えを傾聴することが最も重要です。

PQRST

  • P (Provocation/Palliation): 増強・緩和因子(何で痛みが強くなるか/和らぐか)
  • Q (Quality): 痛みの性質(ズキズキ、ジンジン、焼けるような、など)
  • R (Region/Radiation): 部位・放散(どこが痛むか、どこかに響くか)
  • S (Severity): 痛みの強さ(スケールを用いて評価)
  • T (Time course): 時間的経過(いつから、持続時間、頻度)

VASスケール

「痛みが全くない」状態を左端、「想像できる最悪の痛み」を右端とした、通常100mmの水平な線(あるいは垂直な線)を患者に提示します。患者は、現在の痛みの強さがどの程度かを線上に印で示します。看護師は、左端からその印までの距離(mm)を測定し、点数化(例: 55mm → 55点)します。

特徴
長所: 患者さんの感覚を連続的なデータとして細かく捉えることができ、研究などでよく用いられます。
短所: 点数化に定規が必要で少し手間がかかり、また、視覚や運動機能に障害がある患者には使用が難しい場合があります。

NRS

「痛みが全くない状態」を0とし、「想像できる最悪の痛み」を10とした11段階の数字(0〜10)の中から、現在の痛みの強さに最も近いものを選んでもらいます。口頭で確認できるため、最も手軽で臨床現場で広く使われている方法です。

特徴
長所: 簡便でわかりやすく、電話でのモニタリングにも使用できます。痛みの変化を経時的に評価しやすいです。
短所: 数字の持つ意味合いの解釈に個人差が出ることがあります。

フェイススケール

痛みのレベルを6つの表情(笑顔から泣き顔まで)で表したイラストを患者に見せ、現在の痛みに最も近い表情を選んでもらいます。それぞれの表情には0から10までの偶数が対応しています(0, 2, 4, 6, 8, 10)。

特徴
長所: 小児や、高齢者、認知機能が低下している方、言語的なコミュニケーションが難しい方など、数字で表現することが困難な患者にも使用できます。直感的でわかりやすいのが最大の利点です。
短所: 表情の解釈に個人差が生じる可能性があり、評価が大まかになりやすいです。

痛みの評価には、NRS(Numerical Rating Scale)やフェイススケールなどを活用し、経時的に記録することで、治療効果を客観的に評価できます。

個別性のあるケアの実践

アセスメントに基づき、患者一人ひとりに合ったケアを計画・実践します。

  • 環境調整: 安楽な体位の工夫、静かで落ち着ける環境の提供。
  • 非薬物療法の活用: 温罨法や冷罨法の実施、マッサージ、患者が好きな音楽を聴くなどの気晴らし。
  • 薬物療法の管理:
    • 正確な投与: 指示された時間に正確に投与します。特に、痛みが強くなる前に定期的に投与する「定時投与(around the clock)」は、痛みのコントロールに非常に有効です。
    • 副作用のモニタリングとケア: 悪心・嘔吐、便秘、眠気などの副作用を早期に発見し、医師に報告・相談の上で適切なケア(制吐薬の使用、下剤の調整など)を行います。

患者教育と心理的サポート

  • 痛みの説明: 痛みについて我慢しないこと、痛みが治療可能であることを伝え、患者が安心して痛みを表現できるように支援します。
  • セルフケア支援: 鎮痛薬の効果や副作用、非薬物療法について説明し、患者自身が痛みをコントロールできるよう支援します。
  • 心理的サポート: 痛みが長引くと、患者は不安や孤独、絶望感を抱きやすくなります。共感的に話を聞き、気持ちに寄り添う姿勢が、患者の心の支えとなります。

参考資料
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