疼痛について|概要から看護のポイントまで徹底解説
あずかんバイタルサインの測定時、「痛みはどうですか?」と尋ねるのは基本ですが、返ってきた答えを「NRS 5/10ね、じゃあ痛み止め使いましょう」と機械的に処理していませんか?
実はその痛み、患部の炎症だけでなく、神経の混線による「関連痛」かもしれませんし、鎮痛薬だけでは解決できない「全人的苦痛(Total Pain)」が隠れているかもしれません。
今回は、痛みの解像度を高め、医師からも「鋭いアセスメントだね」と信頼されるための視点を共有します。
サクッと復習!疼痛の概要
- 侵害受容性疼痛(Nociceptive Pain)
- 病態: 組織の実質的な損傷や炎症により、侵害受容体が刺激されて生じる痛み。
- 特徴: 局在が明確。「ズキズキ(拍動性)」「鋭い」痛み。NSAIDsやオピオイドが奏功しやすい。
- 神経障害性疼痛(Neuropathic Pain)
- 病態: 末梢神経や中枢神経の損傷・機能異常による痛み。
- 特徴: 帯状疱疹後神経痛や坐骨神経痛など。「ビリビリ」「焼けるような(灼熱痛)」感覚や、触れるだけで痛いアロディニア(異痛症)が見られます。
- 関連痛(Referred Pain)
- 病態: 内臓からの痛覚求心性神経と、皮膚からの求心性神経が脊髄の同じ高さ(分節)に入力されるため、脳が「内臓の痛みを皮膚の痛み」と誤認する現象(収束投射説)。
- 例: 狭心症や心筋梗塞での左肩〜左上肢痛、胆石症での右肩甲骨下部の痛み、膵炎での背部痛など。
観察ポイント&根拠
| 観察項目 | 観察のポイント | 根拠・予測 |
|---|---|---|
| OPQRST情報の収集 特にOnset(発症様式)とRegion(部位・放散) | 「いつから」「急に痛くなったか、徐々に痛くなったか」「痛みがどこかへ移動するか(放散痛)」を具体的に聴取する。 | 「突然発症の激痛」は解離性大動脈瘤や心筋梗塞などの致死的疾患を示唆します。また、放散痛の有無は関連痛の鑑別に必須です。「胃が痛い」と言いつつ「左肩に抜ける」なら心疾患を疑うトリガーになります。 |
| 体動による痛みの変化 (体動時痛 vs 安静時痛) | 痛む部位を実際に動かしてもらい、痛みが再現・増強されるかを確認する。 例:「痛い左肩を回してみてください」 | 患部を動かして痛むなら整形外科的疾患の可能性が高いですが、「動かしても痛みが変わらない(可動域制限がない)のに肩が痛い」場合は、内臓由来の関連痛である可能性が極めて高くなります。これを見抜くのがプロです。 |
| 自律神経症状の有無 | 疼痛の訴えと同時に、冷汗、頻脈、血圧上昇、悪心、顔面蒼白が出ていないか、フィジカルアセスメントを行う。 | 急性疼痛は交感神経系を強く刺激します。患者さんが「痛い」と訴えていても、上記サインがなければ慢性疼痛の増悪や心因性の要素を考慮します。逆に、冷汗を伴う痛みはショックの前兆であり、緊急度MAXのサインです。 |
| 鎮痛薬の効果判定 | 薬剤投与後、効果発現時間に合わせて再訪し、NRSの変化だけでなく「呼吸抑制」や「過鎮静」がないかを確認する。 | オピオイド使用時は特に重要です。痛みが消失すると急激に眠り込み、呼吸数が低下する(CO2ナルコーシスなど)リスクがあるため、Rass(鎮静スケール)と呼吸状態のセット観察は必須です。 |
もし患者さんが「肩こりがひどくて…」と言ったら?
循環器病棟や一般内科で、安静にしている患者さんがふと「なんだか今日は左の肩がすごく凝るのよね。湿布もらえる?」と言ったとします。
ここで「整形外科的な肩こり」と決めつけて湿布を貼るだけでは、重大な見落としにつながる可能性があります。
対応アクションと会話例
- まずは関連痛を疑いスクリーニングする
- 「左肩が凝るんですね。少し触らせてもらいますね。(肩を触診しつつ)ここを押すと痛いですか?腕を回すと痛みが強くなりますか?」
- (動かしても痛みが変わらない場合)「筋肉の凝りだけではないかもしれませんね。少し胸の音を聞かせてもらってもいいですか?(SpO2と血圧測定、冷汗の有無を確認)」
- 医師への報告(SBAR)
- 「湿布希望」として報告するのではなく、「左肩の不快感を訴えていますが、体動による増悪がなく、既往に狭心症があるため12誘導心電図の必要性を確認したく報告しました」と伝えます。
- 患者さんへの声かけ
- 「念のため、心臓に負担がかかっていないか調べさせてくださいね。安心するために検査しましょう」と不安を煽りすぎずに伝えます。
現場で差がつく看護のコツ・ポイント
| 工夫・コツ・アイデア | 具体的な手技・環境調整 | 期待される効果・メリット |
|---|---|---|
| 鎮痛薬の「先回り投与」 | 創部処置、リハビリ、清拭など、痛みが予想されるケアの30〜60分前にレスキュー(速放性鎮痛薬)を使用するよう調整する。 | 薬の血中濃度がピークに達した状態でケア介入できるため、患者さんの苦痛が最小限になり、ケアへの拒否感も減ります。「痛くなってから使う」より少量で効くことも多いです。 |
| ゲートコントロール説の応用 (患部以外の刺激入力) | 痛む部位の近く(炎症がない場合)をさする、温罨法を行う、あるいは足浴などでリラックスを促す。 | 触覚や温覚などの太い神経線維(Aβ線維)を刺激することで、脊髄レベルで痛みの伝達を抑制(ゲートを閉じる)できます。「さすると痛みが和らぐ」のには医学的根拠があります。 |
| ポジショニングの微調整 | 腹部手術後の患者さんに対し、膝下に枕を入れて膝を屈曲させる(ファーラー位)。 側臥位時は背中にクッションを当てて広範囲で支持する。 | 腹直筋の緊張が緩和され、創部痛(特に咳嗽時や体動時)が軽減します。筋肉の緊張を解くポジショニングは、鎮痛薬1錠分に匹敵する効果があることもあります。 |
新人さんが陥りやすいミスへの対策
新人の頃、「痛み止めを使うと、診断がつかなくなるから我慢させたほうがいいのではないか?」と勘違いすることがあるかもしれません。
例えば,消化管穿孔疑いの患者さんが激痛を訴えていたのに、「先生が来るまで待って」と声をかけ続け、結果的に患者さんをパニック状態にさせてしまうなど・・・。
現代の医療において、「痛みを我慢させるメリット」はほぼありません。
激しい痛みは交感神経を興奮させ、血圧上昇や心拍数増加を招き、心負荷をかけます。また、深呼吸ができずに無気肺になったり、離床が遅れてDVT(深部静脈血栓症)のリスクを高めたりと、全身状態を悪化させます。
「痛みを取ること」は、単なる安楽のためだけでなく、「全身管理(合併症予防)」そのものです。
もし鎮痛薬の使用に迷ったら、「痛みが強くてバイタルが変動しています。鎮痛薬を使用してもよいでしょうか?」とすぐに医師に相談してください。痛みがコントロールされている患者さんは、表情が穏やかになり、看護師の話もよく聞いてくれるようになりますよ。