Ⅱ型糖尿病の病態から看護のポイントまで徹底解説

Ⅱ型糖尿病は、生活習慣との関連が深く、患者数も多いことから、看護師として関わる機会が非常に多い疾患です。
この記事では、2型糖尿病の基礎知識から具体的な看護のポイントまでを分かりやすく解説します。
なぜ高血糖が続くのか
Ⅱ型糖尿病の病態を理解する鍵は、「インスリン抵抗性」と「インスリン分泌不全」という2つの要素です。
インスリン抵抗性
インスリンは、膵臓のβ細胞から分泌されるホルモンで、血液中のブドウ糖(血糖)を細胞に取り込ませ、エネルギー源として利用させる働きがあります。しかし、肥満や運動不足などが原因で、肝臓や筋肉、脂肪細胞といった標的臓器がインスリンに対して鈍感になり、その作用が効きにくくなってしまいます。これが「インスリン抵抗性」です。
インスリン抵抗性が生じると、血糖を細胞内にうまく取り込めなくなるため、血液中にブドウ糖が溢れ、高血糖状態になります。
インスリン分泌不全
病態の初期段階では、インスリン抵抗性を代償しようと、膵臓はより多くのインスリンを分泌します(高インスリン血症)。しかし、この状態が長期間続くと、膵臓のβ細胞は疲弊してしまい、最終的には十分な量のインスリンを分泌できなくなってしまいます。これを「相対的インスリン分泌不全」と呼びます。
Ⅱ型糖尿病は「インスリンの効きが悪くなる(抵抗性)」ことと、「インスリンの分泌量が不足する(分泌不全)」という2つのメカニズムが複合的に作用することで発症し、慢性的な高血糖状態が引き起こされます。
何がリスクを高めるのか
Ⅱ型糖尿病の発症には、遺伝的要因と環境要因が複雑に関与しています。
- 遺伝的要因
- 特定の遺伝子が直接の原因となるわけではありませんが、家族に糖尿病患者がいる場合、体質的にインスリン分泌が弱かったり、インスリン抵抗性が生じやすかったりする傾向があるとされています。
- 環境要因(生活習慣)
- 過食・高脂肪食: 特に内臓脂肪の蓄積は、インスリン抵抗性を引き起こす最大の要因です。
- 運動不足: 筋肉でのブドウ糖利用が減少し、インスリン抵抗性を助長します。
- 肥満: 特に内臓脂肪型肥満は強く関連します。
- ストレス: ストレスホルモン(コルチゾールなど)は血糖値を上昇させる作用があります。
- 加齢: 年齢とともにインスリン分泌能が低下し、抵抗性も増大する傾向にあります。
- 喫煙: 喫煙はインスリン抵抗性を高めることが知られています。
サイレントキラーのサインを見逃さない
Ⅱ型糖尿病は、初期段階では自覚症状がほとんどないことが多く、「サイレントキラー」とも呼ばれます。しかし、高血糖状態が進行すると、以下のような症状が現れます。
- 口渇・多飲
- 血糖値が高くなると、浸透圧利尿により尿量が増加します。その結果、体内の水分が失われ、強い喉の渇きを感じ、多くの水分を摂取するようになります。
- 多尿・頻尿
- 血液中の過剰なブドウ糖を尿として排出しようとするため、尿の量と回数が増えます。
- 体重減少
- インスリン作用不足により、摂取したエネルギーをうまく利用できず、筋肉や脂肪を分解してエネルギー源とするため、食事を摂っていても体重が減少することがあります。
- 易疲労感・倦怠感
- エネルギー利用効率が悪化するため、疲れやすさやだるさを感じます。
- その他の症状
- 視力障害(かすみ目など): 高血糖による水晶体の浸透圧変化や、網膜症の初期症状として現れることがあります。
- 易感染性: 免疫機能が低下し、皮膚の化膿や歯周病、尿路感染症などを起こしやすくなります。
- 手足のしびれ・感覚鈍麻: 糖尿病神経障害の症状として現れます。
治療・対症療法
Ⅱ型糖尿病治療の基本は、血糖値を良好な状態にコントロールし、合併症の発症・進展を防ぐことです。
治療は「食事療法」「運動療法」「薬物療法」の3つを柱とします。
食事療法
治療の基本であり、最も重要です。
- 適正なエネルギー摂取: 患者の年齢、性別、身体活動量に応じた適切なエネルギー量を守ります。
- 栄養バランス: 炭水化物、タンパク質、脂質のバランスを整え、ビタミンやミネラル、食物繊維も十分に摂取します。
- 規則正しい食事: 1日3食を基本とし、欠食やまとめ食いを避けます。
運動療法
インスリン抵抗性の改善、血糖コントロールの安定、体重減少などに効果があります。
- 運動の種類: ウォーキング、ジョギング、水泳などの有酸素運動が推奨されます。筋力トレーニングも併用するとより効果的です。
- 運動の強度と時間: ややきついと感じる程度(中等度)の運動を、週に150分以上行うことが目標です。
- 注意点: 低血糖、心血管疾患の合併、足病変の有無などを評価した上で、安全に実施する必要があります。
薬物療法
食事療法・運動療法で十分な血糖コントロールが得られない場合に開始します。経口血糖降下薬と注射薬(GLP-1受容体作動薬、インスリン製剤)があります。
- 経口血糖降下薬
- ビグアナイド薬: 肝臓での糖新生を抑制し、インスリン抵抗性を改善します。
- DPP-4阻害薬: 血糖値に応じてインスリン分泌を促進します。
- SGLT2阻害薬: 腎臓でのブドウ糖再吸収を抑制し、尿中への排泄を促します。
- その他、スルホニル尿素(SU)薬、チアゾリジン薬など多数の種類があり、患者の病態に合わせて選択されます。
- 注射薬
- インスリン製剤: 不足したインスリンを直接補充します。作用時間によって超速効型、速効型、中間型、持効型溶解などに分類されます。
- GLP-1受容体作動薬: 血糖依存的にインスリン分泌を促進し、グルカゴン分泌を抑制します。食欲抑制作用もあります。
看護のポイント
アセスメント
- 身体的側面: バイタルサイン、血糖値、HbA1c、体重、食事内容、運動習慣、合併症(神経・網膜・腎症、足病変)の有無などを評価します。
- 心理・社会的側面: 疾患の受け止め方(受容段階)、治療への思い、家族のサポート体制、経済状況、仕事との両立などをアセスメントします。
- 知識・理解度の評価: 疾患、食事、運動、薬物療法、低血糖・シックデイ対応について、患者がどの程度理解しているかを確認します。
セルフモニタリング支援
- 血糖自己測定(SMBG): 測定手技の確認と指導、測定値の解釈と対応方法について一緒に考え、血糖パターンから生活習慣の問題点を引き出します。
- フットケア: 毎日自分の足を観察する習慣がつくよう指導します。足浴や爪切りの方法、靴選びのポイントなども具体的に伝えます。
生活習慣修正へのエンパワーメント
- 個別性のある目標設定: 患者の価値観やライフスタイルを尊重し、「できそうなこと」からスモールステップで目標を設定します。一方的な指導ではなく、患者自身が目標を決定できるよう促します。
- 成功体験の積み重ね: 小さな目標達成を承認し、自己効力感を高める関わりを心がけます。
- 家族への支援: 家族も重要なサポート資源です。必要に応じて家族にも説明を行い、協力体制を築きます。
合併症予防と早期発見
- 定期受診の重要性: 合併症は自覚症状なく進行するため、定期的な検査(眼科、腎機能、神経学的検査など)の重要性を繰り返し説明します。
- シックデイ対応の指導: 発熱や下痢、嘔吐などで食事ができない日(シックデイ)の対応(血糖測定、水分補給、食事の工夫、服薬やインスリンの調整、医療機関への連絡基準)を事前に具体的に指導しておきます。
- 低血糖対応: 低血糖の症状、原因、対処法(ブドウ糖や糖分を含む飲料の摂取)、予防策について、患者と家族が確実に行えるように指導します。