頚椎症性脊髄症/頚椎症性神経根症について

頚椎症性脊髄症・神経根症の病態から看護のポイントまで徹底解説

あずかん

頚椎症性脊髄症と頚椎症性神経根症は、高齢化社会において遭遇する機会の多い疾患です。特に、患者さんの日常生活動作(ADL)に大きな影響を与えるため、看護師として病態を正しく理解し、適切な看護を提供することが求められます。
この記事では、頚椎症性脊髄症と神経根症の基本から、具体的な看護のポイントまでを分かりやすく解説します。


目次

頚椎症性脊髄症/頚椎症性神経根症とは

頚椎は7つの骨で構成されており、その間にはクッションの役割を果たす椎間板が存在します。加齢に伴い、この椎間板が変性して膨らんだり、骨が変形して骨棘が形成されたりします。これを「頚椎症」と呼びます。

この頚椎症が原因で、神経の通り道である脊柱管や椎間孔が狭くなり、中枢神経である「脊髄」や、そこから枝分かれする「神経根」が圧迫されることで、様々な症状が出現します。

頚椎症性脊髄症
脊柱管が狭くなり、脊髄が圧迫される状態です。脊髄は脳からの命令を手足に伝えたり、手足からの感覚を脳に伝えたりする重要な役割を担っているため、広範囲に症状が現れる特徴があります。

頚椎症性神経根症
椎間孔が狭くなり、神経根が圧迫される状態です。圧迫された神経根が支配する特定の領域(主に片側の首から肩、腕、指)に限局した症状が現れます。


頚椎症性脊髄症/頚椎症性神経根症の原因

最も一般的な原因は加齢による頚椎の変性です。年齢を重ねることで、以下のような変化が起こります。

  • 椎間板の変性: 椎間板の水分が失われ、弾力性が低下し、潰れたり、後方に突出したりします。
  • 骨棘の形成: 椎間板の変性により不安定になった椎体を支えようと、骨の縁にトゲのような骨棘が形成されます。
  • 靭帯の肥厚・骨化: 脊柱管の後ろにある後縦靭帯や黄色靭帯が厚くなったり、骨化したりして脊柱管を狭めます。

これらの変化に加えて、日常生活での不良姿勢(長時間のデスクワークやスマートフォンの使用など)や、スポーツ・事故による頚部への外傷が発症の誘因となることもあります。


頚椎症性脊髄症/頚椎症性神経根症の症状

頚椎症性脊髄症の主な症状

脊髄の圧迫により、両側性で広範囲な症状が見られます。

  • 巧緻運動障害
    手指の細かい動きがぎこちなくなり、「箸が使いにくくなった」「ボタンがかけづらい」「字が書きにくくなった」といった症状で気づかれることが多いです。これは脊髄症に特徴的な初期症状です。
  • 歩行障害
    脚がもつれる、階段の上り下りが怖い、つまずきやすいといった症状が現れます。進行すると、痙性歩行(脚が突っ張ったような歩き方)が見られます。
  • 四肢のしびれ・感覚障害
    手足が広範囲にしびれたり、感覚が鈍くなったりします。
  • 膀胱直腸障害
    頻尿、残尿感、失禁など、排尿や排便のコントロールが困難になります。これは重症なサインです。

頚椎症性神経根症の主な症状

通常、片側の特定の神経根が支配する領域に症状が現れます。

  • 疼痛
    首から肩、腕、指にかけての激しい痛みや放散痛が特徴です。痛みは、首を後ろに反らしたり、咳やくしゃみをしたりすると増強することがあります。
  • しびれ・感覚障害
    痛みと同じ領域にしびれや感覚の低下が生じます。
  • 筋力低下
    腕や指の力が入りにくくなります(例:上腕二頭筋、上腕三頭筋など)。

治療・対症療法

治療は、症状の重症度や進行度に応じて、保存療法と手術療法に分けられます。

保存療法

症状が比較的軽度な場合や、神経根症の多くは保存療法が第一選択となります。

  • 薬物療法
    • 非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs): 痛みや炎症を和らげます。
    • 筋弛緩薬: 首周りの筋肉の緊張をほぐします。
    • ビタミンB12製剤: 末梢神経の働きを助けます。
    • 神経障害性疼痛治療薬(プレガバリンなど): 神経の過敏性を抑え、痛みを和らげます。
  • 装具療法
    • 頚椎カラーを装着し、首の動きを制限して安静を保ち、神経への刺激を減らします。
  • 理学療法
    • 頚椎の牽引療法や、温熱療法、ストレッチなどを行い、症状の緩和を図ります。

手術療法

保存療法で改善が見られない場合や、症状が進行性で日常生活に大きな支障が出ている場合、特に脊髄症で歩行障害や膀胱直腸障害が見られる場合には手術が検討されます。

  • 前方除圧固定術
    • 首の前方から切開し、原因となっている椎間板や骨棘を切除し、自家骨や人工骨を移植して固定します。
  • 椎弓形成術
    • 首の後方から切開し、脊柱管を狭めている椎弓の一部を切り開いて脊柱管を拡大し、脊髄への圧迫を取り除きます。

看護のポイント

疼痛の管理

  • 疼痛のアセスメント
    • 痛みの部位、強さ(ペインスケールなどを使用)、性質、増悪・寛解因子を詳細に聴取します。
  • 安楽な体位の工夫
    • 頚部への負担が少ない枕の選択や、体位の調整を支援します。
  • 薬剤の効果と副作用の観察
    • 鎮痛薬が適切に使用され、効果が得られているか、また便秘や眠気、ふらつきなどの副作用がないか観察します。
  • 温罨法・冷罨法
    • 医師の指示のもと、急性期には冷罨法、慢性期には温罨法を用いることで症状が緩和される場合があります。

ADLの維持・向上と安全確保

  • 巧緻運動障害への援助
    • 食事の際には、箸からスプーンやフォークへの変更、滑り止めの付いた食器の利用を提案します。更衣では、ボタンのない服やマジックテープ式の服を勧めるなど、患者が自立して行えるよう工夫します。
  • 転倒・転落防止
    • 歩行障害やしびれがある患者は転倒リスクが非常に高いです。
    • ベッド周囲の環境整備(障害物の除去、ナースコールの手の届く範囲への設置)
    • 履き慣れた滑りにくい靴の使用を促す
    • 歩行器や杖などの福祉用具の活用を検討し、理学療法士と連携する
    • 必要に応じて移動時には付き添う

感覚障害へのケア

  • しびれや感覚鈍麻があるため、褥瘡や外傷、火傷のリスクが高まります。
  • 定期的な皮膚の観察を行い、発赤などがないか確認します。
  • 湯たんぽや電気毛布の使用時は、温度設定に注意し、直接皮膚に当たらないよう指導します。

排泄障害への対応

  • 膀胱直腸障害は、患者の尊厳に関わるデリケートな問題です。プライバシーに配慮しながら、排尿・排便パターンをアセスメントします。
  • 必要に応じて、トイレ誘導やポータブルトイレの使用、おむつやパッドの適切な選択を支援します。
  • 尿意を感じにくい場合は、時間を決めてトイレに行く「時間尿」を促します。

精神的支援と退院支援

  • 慢性的な痛みや身体機能の低下は、患者に大きなストレスと不安を与え、抑うつ状態になることもあります。患者の言葉に耳を傾け、気持ちを表出できるような関わりが重要です。
  • 退院後の生活を見据え、家屋の改修(手すりの設置など)や、利用できる社会資源(介護保険、身体障害者手帳など)について、早期から医療ソーシャルワーカーや地域のケアマネージャーと連携して情報提供を行います。
参考資料
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