ループス腎炎とは 病態生理から看護のポイントまで徹底解説
あずかん全身性エリテマトーデス(SLE)は、自身の体を攻撃してしまう自己免疫疾患の一つですが、その中でも腎臓に炎症が起きてしまう合併症が「ループス腎炎」であり、SLE患者さんの約半数に発症すると言われ、早期発見と適切な治療が予後を大きく左右する重要な疾患です。
今回は、ループス腎炎の基本から、日々の看護で役立つポイントまで、順を追って詳しく解説していきます。
なぜ腎臓が攻撃されるのか
ループス腎炎の病態を理解する鍵は「免疫複合体」です。
通常、私たちの体は細菌やウイルスなどの異物(抗原)が侵入すると、それに対抗するための武器(抗体)を作ります。抗原と抗体が結合したものが「免疫複合体」で、これは通常、マクロファージなどの免疫細胞によって処理・除去されます。
しかし、SLEでは、自分の細胞の核成分(DNAなど)を異物と誤認し、それに対する抗体(抗核抗体)が大量に作られてしまいます。この結果、「自己抗原(核成分)+自己抗体(抗核抗体)=免疫複合体」が過剰に形成されます。
この免疫複合体が血流に乗って全身を巡り、特に腎臓の糸球体に沈着します。糸球体は血液をろ過して尿を作るフィルターの役割を担っていますが、免疫複合体が沈着すると、それを除去しようと免疫システムが過剰に反応し、炎症を引き起こします。
この炎症によって糸球体がダメージを受け、フィルター機能が低下することで、タンパク尿や血尿、さらには腎機能障害へと進行していくのです。
何がループス腎炎を引き起こすのか
ループス腎炎はSLEの合併症なので、その原因はSLE自体の原因と関連しています。SLEのはっきりとした原因はまだ完全には解明されていませんが、以下の要因が複雑に絡み合って発症すると考えられています。
遺伝的要因
特定の遺伝子を持つ人が発症しやすいことが知られており、血縁者に膠原病の方がいる場合はリスクが上がるとされています。
環境要因
紫外線:紫外線を浴びることで皮膚の細胞が壊れ、核成分が放出されることが免疫反応の引き金になると考えられています。
ウイルス感染:特定のウイルス感染が免疫系の異常を誘発する可能性が指摘されています。
薬剤
一部の薬剤がSLE様の症状を引き起こすことがあります(薬剤誘発性ループス)。
性ホルモン
SLEは妊娠可能な年齢の女性に圧倒的に多く(男女比1:9)、女性ホルモン(エストロゲン)が免疫系の働きに影響を与えている可能性が考えられています。
これらの要因が組み合わさり、免疫のバランスが崩れることでSLEが発症し、その結果としてループス腎炎が引き起こされます。
見逃してはいけないサイン
ループス腎炎の症状は、初期には自覚しにくいことが多いのが特徴です。そのため、定期的な検査が非常に重要になります。
初期症状・検査所見
- タンパク尿:尿中にタンパク質が漏れ出る状態。尿の泡立ちがなかなか消えないことで気づかれることがあります。
- 血尿:尿に赤血球が混じる状態。見た目では分からない顕微鏡的血尿がほとんどです。
- 浮腫:特に足のすねや顔(眼瞼)に現れます。これは、尿中に大量のタンパク質(特にアルブミン)が失われることで、血液の浸透圧が低下し、血管内の水分が外に漏れ出すために起こります(ネフローゼ症候群)。
- 高血圧:腎機能の低下や体内の水分・塩分バランスの乱れにより、血圧が上昇します。
進行した場合の症状
- 体重増加:むくみによる体液貯留が原因です。
- 全身倦怠感、食欲不振:腎機能が悪化し、尿毒症の症状が現れ始めます。
- 尿量減少:腎不全が進行すると、尿を作れなくなります。
これらの症状は、SLE自体の症状(発熱、関節痛、皮疹など)と同時に現れることもあれば、腎臓の症状だけが目立つこともあります。
④ 治療・対症療法
ループス腎炎の治療目標は、腎臓の炎症を抑えて寛解状態に導き、腎機能を長期的に維持することです。治療は病気の活動性や腎生検の組織型(クラス分類)によって決定されます。
薬物療法
- ステロイド(副腎皮質ホルモン)
- 強力な抗炎症作用と免疫抑制作用があり、治療の中心となります。
- 初期には大量投与(ステロイドパルス療法など)を行い、病状が落ち着いたら徐々に減量していきます。
- 免疫抑制薬
- ステロイドだけでは効果が不十分な場合や、ステロイドの減量を目的として併用されます。
- シクロホスファミド(エンドキサン®︎)、ミコフェノール酸モフェチル(セルセプト®︎)、アザチオプリン(イムラン®︎)、タクロリムス(プログラフ®︎)などが用いられます。
- 生物学的製剤
- 特定の免疫細胞の働きをピンポイントで抑える新しいタイプの薬です。
- ベリムマブ(ベンリスタ®︎)やリツキシマブ(リツキサン®︎)などが、難治性のループス腎炎に使用されることがあります。
対症療法
- 降圧剤
- 腎保護作用のあるACE阻害薬やARBが第一選択となります。
- 利尿薬
- むくみや高血圧のコントロールのために使用します。
- 食事療法
- 腎機能や症状に応じて、塩分制限(高血圧・むくみ対策)、タンパク質制限(腎機能低下時)などが行われます。
- 血液浄化療法
- 薬物療法で効果が得られない重症例や、急速に腎機能が悪化する場合に血漿交換療法が行われることがあります。末期腎不全に至った場合は、血液透析や腹膜透析が必要となります。
看護のポイント
正確なバイタルサインと全身状態の観察
- 血圧、脈拍、体温:高血圧や発熱(感染や疾患の再燃)の早期発見。
- 体重、尿量、IN/OUTバランス:浮腫の程度や腎機能の指標です。体重の急激な増加は体液貯留を示唆します。
- 浮腫の観察:眼瞼、顔面、下腿(圧痕性の有無)などを毎日観察し、記録します。
- 全身倦怠感、食欲、皮膚症状(皮疹、レイノー現象など):SLE自体の活動性の変化に注意します。
治療薬の副作用モニタリングとケア
ループス腎炎の治療薬は強力な分、副作用も多く、その管理が重要です。
- ステロイド:易感染、高血圧、高血糖、精神症状、消化性潰瘍、骨粗鬆症、満月様顔貌(ムーンフェイス)など。
- ケア:感染予防策(手洗い、マスク、面会制限)、血糖測定、精神状態の観察、消化器症状の有無確認。
- 免疫抑制薬:骨髄抑制(白血球・血小板減少)、感染症、消化器症状、脱毛など。
- ケア:定期的な血液検査データの確認、感染兆候(発熱、咽頭痛など)や出血傾向(歯肉出血、皮下出血など)の早期発見。
感染予防への徹底した援助
ステロイドや免疫抑制薬の使用により、患者は非常に感染しやすい状態(易感染状態)にあります。
- 環境整備:病室の清潔を保ちます。
- 手指衛生:患者自身と医療者、面会者への指導を徹底します。
- 情報提供:人混みを避ける、外出後のうがい・手洗い、生ものの摂取を控えるなど、退院後の生活指導も重要です。
- 予防接種:生ワクチンの接種は禁忌であることを伝え、不活化ワクチンについては主治医と相談するよう促します。
精神的サポートとセルフケア支援
SLEという診断や、見た目の変化(ムーンフェイス、脱毛)、長期にわたる治療への不安など、患者は大きな精神的ストレスを抱えています。
- 傾聴:患者さんの不安や悩みを傾聴し、共感的な態度で関わります。
- 情報提供:疾患や治療、副作用について分かりやすく説明し、患者さんが自分の状態を理解して治療に主体的に参加できるよう支援します(アドヒアランスの向上)。
- セルフケア指導:確実な服薬、食事・水分管理、血圧測定、紫外線対策などの自己管理が重要であることを伝え、その方法を一緒に考えます。
- 社会的支援:医療費助成制度(指定難病)の案内や、必要に応じてMSW(医療ソーシャルワーカー)との連携を図ります。