言語障害について|概要から看護のポイントまで徹底解説
あずかん患者さんに「お変わりないですか?」と声をかけた時「あー、うー」としか返ってこない、あるいは、流暢に喋っているけれど全く辻褄が合わない。
こうした「いつもと違う発語」は、脳梗塞や脳出血といった脳血管障害の超急性期サインである可能性が極めて高いです。もしこれを「寝ぼけているだけかな」「認知症が進んだのかな」と見逃してしまえば、t-PA静注療法や血栓回収療法のゴールデンタイムを逃し、患者さんに重大な後遺症を残すことになります。
今回は、脳血管障害のアセスメントにおいて絶対に避けて通れない「失語症(ブローカ、ウェルニッケ、全失語、健忘失語)」の見極め方と、ドクターコールをする前にナースが確認すべきポイントを紹介します。
【保存版】言語障害アセスメント&根拠(失語症の鑑別)
失語症は「構音障害(口や舌の麻痺でろれつが回らない状態)」とは異なり、脳の高次脳機能障害です。大脳のどの血管領域がダメージを受けているかを予測しながらアセスメントすることが、当直医への的確なSBAR報告に繋がります。
| 失語のタイプ | 観察ポイント | 根拠・予測 |
|---|---|---|
| 発話の流暢性 (ブローカ失語 / 運動性失語) | 自発語が極端に減っていないか確認する。「パ・タ・カ」と発声させ、ろれつ難(構音障害)との違いを見る。言いたいことは分かっているのに言葉が出ず、患者自身がもどかしそうにしているか(病識の有無)を観察する。 | 【前頭葉(下前頭回)の障害・MCA領域領域】 運動性言語中枢(ブローカ中枢)の虚血・出血を示唆します。他人の言うことは理解できる(聴覚的理解は保たれる)ため、「右手で左耳を触ってください」などの指示には従えます。右片麻痺を伴うことが多く、麻痺の進行にも注意が必要です。 |
| 言語の理解力 (ウェルニッケ失語 / 感覚性失語) | 「目を閉じてください」という簡単な指示(閉眼命令)に従えるか確認する。発話は流暢だが、時計を「とけ、とぺ」と言う(音韻性錯語)や、全く無意味な言葉の羅列(ジャルゴン)がないか聴取する。 | 【側頭葉(上側頭回後部)の障害】 感覚性言語中枢(ウェルニッケ中枢)の障害です。自分が間違った言葉を発していることに気づいていない(病識欠如)ことが多く、指示が通らないため不穏やせん妄と誤認されやすいのが罠です。会話のキャッチボールが成立するかで鑑別します。 |
| 呼称能力 (健忘失語) | ペンや時計などの実物を目の前で見せ、「これは何ですか?」と名前を答えさせる。「字を書くもの」「時間をみるもの」と用途は言えるが、ズバリ名前が出てこない(迂言)状態かを確認する。 | 【側頭葉〜頭頂葉の広範・軽微な障害】 特定の言語中枢の完全破壊ではなく、ネットワークの軽微な障害や、アルツハイマー型認知症の初期にも見られます。失語症の回復期に見られることもあり、脳の浮腫が引いてきたサインとして捉えることもできます。 |
| 全般的な言語機能 (全失語) | 呼びかけに対する反応を見る。発話も理解も全くできず、無言か「あー」などの無意味な発声のみかを確認する。JCSやGCSを評価し、意識障害そのものによる無反応と切り分ける。 | 【中大脳動脈(MCA)主幹部の広範な閉塞】 ブローカ領域とウェルニッケ領域の両方を含む、左半球の広範なダメージを示唆します。非常に重症度が高く、脳浮腫による脳ヘルニアや頭蓋内圧亢進(クッシング現象など)へ急速に移行するリスクがあるため、即座のドクターコールと画像検査の準備が必要です。 |
現場で役立つ+αの看護ポイント
急変時のSBAR報告は「何を言わせ、どう反応したか」を具体的に
夜勤帯で急変を疑いドクターコールをする際、「なんか言葉がおかしいです」という曖昧な報告では、医師も緊急度を判断できません。
「先ほど巡視した際、『目を閉じて』という指示には従えましたが、名前を聞いても『あー、あー』としか言えず、右側の上肢にバレー徴候が出ています。ブローカ失語と右片麻痺の新規出現を疑います」と伝えることで、医師は即座にMRI室の確保に動くことができます。
ウェルニッケ失語患者の「怒り」の理由を知る
ウェルニッケ失語の患者さんは、自分では普通に話しているつもりなのに、看護師がチンプンカンプンな顔をしているため、「なぜ自分の言うことが伝わらないんだ!」と激怒することがあります。ここで「そうじゃなくて」と訂正するのは逆効果です。否定せずに相槌を打ち、ジェスチャーや実物を用いた非言語的コミュニケーション(お茶を見せて飲む仕草をする等)に切り替えることが、現場を落ち着かせるコツです。