イレウスについて

イレウスの病態生理から看護のポイントまで徹底解説!

あずかん

イレウスは、様々な原因によって腸管内容物の通過が妨げられる状態であり、病態の理解から観察項目、ケアの実践まで、学ぶべきことが多い疾患と言えるでしょう。
この記事では、イレウスの基礎知識から実践的な看護のポイントまでを分かりやすく解説します。


目次

イレウスとは

イレウスとは、何らかの原因で腸の内容物(食物、消化液、ガスなど)が肛門側へ正常に輸送されなくなった状態を指します。この輸送障害により、腸管内に内容物が蓄積し、様々な症状を引き起こします。

イレウスは、その原因によって大きく「機械的イレウス」と「機能的イレウス」の2つに分類されます。

  • 機械的イレウス: 腸管が物理的に閉塞することで内容物の通過が妨げられる状態です。さらに、血行障害の有無によって「単純性(閉塞性)イレウス」と「複雑性(絞扼性)イレウス」に分けられます。
    • 単純性(閉塞性)イレウス: 腸管の血流は保たれていますが、癒着や腫瘍などによって内腔が狭くなることで発症します。
    • 複雑性(絞扼性)イレウス: 腸重積やヘルニア嵌頓、軸捻転などにより腸管が締め付けられ、血行障害を伴う状態です。血流が途絶えることで腸管が壊死に陥る可能性があり、緊急性の高い危険な状態です。
  • 機能的イレウス: 腸管の物理的な閉塞はないものの、腸管の運動機能に問題が生じることで内容物の輸送が停滞する状態です。こちらも2つに分類されます。
    • 麻痺性イレウス: 腹部手術後や腹膜炎、電解質異常などによって腸管の蠕動運動が麻痺することで発症します。
    • 痙攣性イレウス: 非常に稀ですが、腸管壁の筋肉が痙攣し続けることで内容物の輸送が妨げられる状態です。

イレウスの原因

分類原因
機械的イレウス術後癒着(最も多い原因)
腫瘍(大腸がん、腹腔内腫瘍など)
ヘルニア嵌頓(鼠径ヘルニア、腹壁瘢痕ヘルニアなど)
腸重積
腸軸捻転
その他(胆石、異物など)
機能的イレウス腹部手術後
腹膜炎
薬剤(オピオイド、抗コリン薬など)
電解質異常(特に低カリウム血症)
全身疾患(糖尿病、甲状腺機能低下症など)

イレウスの症状

イレウスでは、腸管内容物の蓄積と腸管の拡張により、特徴的な症状が現れます。

  • 腹部膨満感
    • 腸管内にガスや液体が溜まることで、お腹が張る症状です。
  • 腹痛
    • 機械的イレウス: 蠕動運動が閉塞部位を通過しようとする際に生じる、間欠的な激しい痛み(疝痛発作)が特徴です。
    • 複雑性イレウス: 持続的で激しい痛みに変化します。
    • 麻痺性イレウス: 痛みは比較的軽度か、腹部全体の鈍い痛みであることが多いです。
  • 嘔気・嘔吐
    • 腸管内容物が逆流することで生じます。嘔吐物は、初期は胃液ですが、進行すると胆汁様、最終的には便臭を伴う(糞便様)ことがあります。
  • 排便・排ガスの停止
    • 腸管の通過障害により、便やガスが出なくなります。

複雑性イレウスを疑う特に重要なサイン(絞扼徴候)には、持続的な激しい腹痛圧痛・筋性防御発熱頻脈などがあります。これらの徴候を見逃さず、迅速な報告と対応が求められます。


治療・対症療法

イレウスの治療は、その原因と重症度に応じて決定されます。

保存的治療

主に単純性イレウスや麻痺性イレウスで行われます。

  • 絶飲食: 腸管を安静に保ち、さらなるガスの発生や内容物の蓄積を防ぎます。
  • 輸液管理: 絶食や嘔吐による脱水と電解質異常を補正するために、点滴による水分・電解質の補給が行われます。
  • イレウス管(経鼻胃管)による減圧: 鼻から胃や腸まで長いチューブを挿入し、溜まった消化液やガスを体外へ排出します。これにより、腸管内圧が下がり、腹部膨満や嘔吐が軽減され、腸管の安静が保たれます。
  • 薬物療法: 腸管運動機能改善薬や漢方薬(大建中湯など)が使用されることもあります。

手術療法

以下のような場合に選択されます。

  • 複雑性(絞扼性)イレウス: 腸管の血流障害があり、壊死の危険があるため、緊急手術の絶対的適応となります。
  • 保存的治療で改善しない場合: 単純性イレウスであっても、保存的治療を続けても症状が改善しない場合は、手術が検討されます。
  • 腫瘍やヘルニアなどが原因の場合: 原因疾患そのものを取り除くための手術が行われます。

看護のポイント

バイタルサインと全身状態の観察

  • バイタルサイン
    特に複雑性イレウスでは、ショックや敗血症に移行するリスクがあるため、血圧低下、頻脈、発熱、意識レベルの変化に注意します。
  • 腹部症状
    腹痛の性状(間欠的か持続的か、痛みは増強しているか)、腹部膨満の程度、圧痛や筋性防御の有無を継続的に観察します。聴診による腸蠕動音の変化(金属音の有無、消失など)も重要な情報です。
  • 嘔吐
    嘔吐の有無、回数、性状(胃液→胆汁様→糞便様)を観察・記録します。
  • 排便・排ガス
    排便・排ガスの有無は、腸管運動が再開したかどうかの重要な指標です。

輸液・栄養管理

  • IN/OUTバランスの管理
    絶飲食となり、嘔吐やイレウス管からの排液があるため、脱水になりやすい状態です。点滴の正確な管理と、尿量や排液量を厳密に測定し、IN/OUTバランスを評価します。
  • 電解質バランス
    検査データを確認し、電解質異常の兆候(特に低カリウム血症による筋力低下や麻痺など)に注意します。

イレウス管(経鼻胃管)の管理

  • 固定と挿入長の確認
    チューブが適切な位置に保たれているか、挿入の深さが変わっていないか定期的に確認します。自己抜去のリスクにも注意が必要です。
  • 排液の管理
    排液の性状、量、色、臭いを観察・記録します。ドレナージが有効に機能しているか(チューブの屈曲や閉塞がないか)を確認します。
  • 口腔ケア・鼻腔ケア
    チューブの挿入は患者にとって大きな苦痛です。口腔内の乾燥を防ぎ、感染を予防するための口腔ケアや、鼻腔粘膜への圧迫を軽減するためのケアが重要です。

安楽への配慮と精神的ケア

  • 安楽な体位
    腹部膨満による苦痛を和らげるため、患者が最も楽だと感じる体位(セミファーラー位など)を工夫します。
  • 精神的サポート
    絶飲食や腹痛、嘔吐、イレウス管の挿入など、患者は身体的・精神的に大きなストレスを抱えています。不安や苦痛を傾聴し、治療の見通しを丁寧に説明することで、患者の不安を軽減するよう努めます。
参考資料
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