水頭症について

水頭症の病態から看護のポイントまで徹底解説

あずかん

水頭症は、脳室内に脳脊髄液(CSF)が過剰に貯留し、脳室が拡大することで様々な神経症状を引き起こす疾患です。小児から高齢者まで、あらゆる年齢層で発症する可能性があります。この記事では、水頭症の病態生理から分類、治療方法まで詳しく説明していきます。

目次

水頭症について

脳脊髄液の循環障害により、脳室内に髄液が過剰にたまり、正常脳を圧迫した状態のこと。ヒトの脳には、脳室という空洞の部屋があり、その中を脳脊髄液という水が循環している。脳脊髄液は脳室の中にある脈絡叢という組織でつくられる。この水が側脳室→第三脳室→第四脳室→脳表の順に流れ、最後に脳表のクモ膜顆粒というところで静脈に吸収される。脳脊髄液は、1日に3回入れ替わるくらいの量が産生される。この脳脊髄液の循環が障害されると、水頭症になる。
(※水頭症とは、ある特定の疾患を示す用語ではなく、髄液循環の障害に基づく一連の病態を総称したものである。)

先天性水頭症と後天性水頭症

・水頭症の原因が出生前に発症したものを先天性水頭症といい、出生後に発症したものを後天性水頭症という。
・先天性水頭症は、出生前に症状が現れる場合(胎児性水頭症)と、出生後に症状が現れる場合がある。

先天性水頭症

<原発性>先天奇形、遺伝性疾患(X連鎖性水頭症)
<続発性>胎内感染(トキソプラズマなど)、脳室内出血

後天性水頭症

腫瘍、出血、髄膜炎、外傷 など

発症時期と症状

・水頭症の発生時期は全年齢(胎児、新生児~成人、老年期)におよび時期によって、症状が異なる。
・特に、頭蓋骨縫合が癒合する前後で、出現する症状は大きく変化する。
・急性水頭症では、頭痛や嘔吐などの頭蓋内圧亢進症状が現れる。

時期新生児・乳児期(0~2歳頃)幼児・学童期(2歳頃~)成人期
主な症状・頭囲の拡大
・大泉門の膨隆
・精神、運動発達の
遅延など
・歩行障害
・精神活動の低下(認知症など)
・尿失禁

新生児・乳児水頭症の症状

・0~2歳頃の新生児・乳児期に水頭症が発症した場合、頭蓋骨縫合が完全に癒合していないため、脳室の拡大に伴って頭蓋が拡張し、頭囲の拡大や大泉門の膨隆が起こる。
・さらに脳室拡大が高度になると、頭皮静脈の怒張や落陽現象などが出現する。

<頭部>頭囲拡大大泉門膨隆、頭皮静脈怒張、頭皮の伸展・光沢、破壺音(Macewen徴候)、透光試験陽性
<眼>眼球上転運動障害(落陽現象)、視神経萎縮、外転神経障害
<下肢>下肢痙直(筋緊張・腱反射に亢進、伸展位をとる)
<その他>患児の機嫌が悪くなり、ミルクの摂取が不良になる

水頭症の分類

非交通性水頭症

脳室やその出口に閉塞があり、髄液がクモ膜下腔へ流出できず脳室が拡大する
脳室内出血では急性水頭症になることがある。脳腫瘍ではゆっくりと水頭症が悪化することが多い。

交通性水頭症

クモ膜下腔に閉塞があり、髄液が静脈洞へ排出されずに脳室・クモ膜下腔が拡大する
クモ膜下出血後に発症することがある。治療可能な認知症に、正常圧水頭症(NPH)がある。

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水頭症の治療方法

タップテスト

脳脊髄液を背中から30mlほど抜くことにより、症状が改善するかどうかを観察する検査。

手術適応決定の際の補助となる。

脳室ドレナージ術

脳室内穿破において脳室拡大が強い場合は、血腫の排出や頭蓋内圧の低下を目的として、脳室ドレナージを行う。

第三脳室底開窓術

○:第三脳室底に孔(4~5mm)を開け、第三脳室からクモ膜下腔へと髄液を短絡する。異物であるシャントを用いずに、低侵襲な治療ができる。
×:第三脳室底にあけた穴が閉塞し、水頭症が再発する可能性がある。交通性水頭症には効果がない。

腰椎-腹腔短絡術(LPシャント術)

○:脳を損傷せずに手術が可能。圧可変式バルブにより頭蓋内圧のコントロールが容易。
×:非交通性水頭症には効果がない。脊柱管が狭い人や腰背部に病変がある人は治療できない。

脳室-心房短絡術(VAシャント術)

○:腹膜炎の既往や腹部の手術の影響で腹腔内が癒着していることが想定される場合に行われる。
×:最近行われる件数が少ない。心内膜炎といった重篤な状態を引き起こす可能性がある。

脳室-腹腔短絡術(VPシャント術)

○:交通性水頭症にも非交通性水頭症にも効果がある。圧可変式バルブにより、頭蓋内圧のコントロールが容易。
×:体内に異物が入るため、感染症のリスクがある。小児の場合、成長とともに再手術が必要。シャントが閉塞してしまうことがある。

看護のポイント

術前の看護

  • 頭蓋内圧亢進症状の観察
    • バイタルサイン、意識レベル(JCS/GCS)、瞳孔所見、頭痛や嘔吐の有無などを注意深く観察する。
  • 乳幼児の場合
    • 頭囲の測定、大泉門の膨隆・緊張度、哺乳状態、機嫌などを観察する。
  • 安全・安楽の確保
    • 意識障害やけいれんのリスクがあるため、ベッド周囲の環境整備や転倒・転落防止に努める。

術後の看護

  • シャント機能の評価
    • 頭蓋内圧亢進症状の改善度を観察する。
    • シャントバルブのリザーバーを軽く圧迫し、圧迫感と反発を確認することで、閉塞の有無を簡易的に評価する(※医師の指示なく行わない)。
  • 感染の徴候の観察
    • シャントシステムは異物であるため、感染のリスクが高い。
    • 発熱、創部の発赤・腫脹・疼痛、髄膜刺激症状(項部硬直など)の有無を観察する。
  • 合併症の観察
    • シャント機能不全:CSFの排出が過剰(低髄圧症状:頭痛、めまい)または不足(頭蓋内圧亢進症状の再燃)していないか観察する。
    • 腹部症状:V-Pシャントの場合、腹膜炎や腹水貯留による腹部膨満、腹痛、便秘などがないか観察する。
  • ドレーンの管理
    • 術後に脳室ドレナージが留置される場合は、刺入部の清潔保持、排液の性状・量の確認、固定の確認を徹底する。

退院指導・継続看護

  • 生活上の注意点
    • シャントバルブが植え込まれている頭皮を強く圧迫したり、叩いたりしないよう指導する。
    • 磁気への注意: 圧可変式バルブの場合、強い磁気を発するもの(MRI、一部の磁気治療器など)を頭部に近づけると、圧設定が狂う可能性があるため注意を促す。
    • 日常生活(スマートフォン、IH調理器など)で発生する磁気は基本的に問題ないとされていますが、不安な場合は主治医に確認するよう説明する。
  • シャント機能不全・感染症状の教育
    • 患者・家族が自宅で観察すべき症状(頭痛、嘔吐、発熱など)を具体的に説明し、それらの症状が出現した際は速やかに医療機関に連絡するよう指導する。
  • 定期受診の重要性
    • 長期的なフォローアップが必要であることを伝え、定期受診を継続するよう促す。
参考資料
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