院内肺炎(HAP)について

院内肺炎(HAP)について:看護師が知っておくべき病態生理から看護のポイントまで徹底解説

あずかん

院内肺炎(HAP)は、入院中の患者さんにとって生命を脅かす重大な合併症の一つです。看護師として、HAPの予防、早期発見、そして適切なケアを行うことは非常に重要となってきます。
この記事では、院内肺炎の基礎知識から看護のポイントまで、詳しく解説します。

目次

なぜ院内肺炎は起こるのか

院内肺炎(HAP)とは、入院時には潜伏しておらず、入院後48時間以降に新たに発症した肺炎のことを指します。

その発生メカニズムの多くは、以下のプロセスをたどります。

1.口腔・咽頭の汚染
重症患者や高齢者は、口腔内の自浄作用が低下し、グラム陰性桿菌などの病原菌が定着しやすくなります。
2.誤嚥(マイクロアスピレーション)
睡眠中や意識レベル低下時に、汚染された唾液や胃内容物を気道へ微量誤嚥します。
3.防御機能の破綻
気管挿管や鎮静薬の使用、基礎疾患による免疫力の低下により、気道の線毛運動や咳嗽反射が弱まります。
4.肺胞での炎症
細菌が肺胞に到達し増殖することで、炎症反応(肺炎)が引き起こされます。

特に人工呼吸器装着患者に発生する 人工呼吸器関連肺炎(VAP) はHAPの一種であり、気管チューブのカフ上部に貯留した汚染分泌物が気管内に垂れ込むことが主な原因となります。

2. 原因:主な起炎菌とリスク因子

市中肺炎(CAP)と異なり、院内肺炎は耐性菌が原因となる頻度が高いのが特徴です。

主な起炎菌

患者の入院期間や基礎疾患、抗菌薬の使用歴によって原因菌は異なります。

  • 早発型(入院4日以内の発症)
    • 肺炎球菌 (Streptococcus pneumoniae)
    • インフルエンザ桿菌 (Haemophilus influenzae)
    • メチシリン感性黄色ブドウ球菌 (MSSA)
      • これらは市中肺炎の原因菌と類似しています。
  • 遅発型(入院5日以降の発症)または多剤耐性菌リスクがある場合
    • 緑膿菌 (Pseudomonas aeruginosa)
    • メチシリン耐性黄色ブドウ球菌 (MRSA)
    • アシネトバクター属 (Acinetobacter spp.)
    • クレブシエラ属 (Klebsiella spp.) などの腸内細菌科細菌

リスク因子

  • 高齢(65歳以上)
  • 意識障害、嚥下障害
  • 人工呼吸器管理
  • 経鼻胃管の留置
  • 制酸剤の使用(胃内pH上昇による細菌増殖)
  • 長期臥床
  • 広域抗菌薬の先行投与

見逃してはいけないサイン

高齢者や重症患者では、典型的な呼吸器症状が現れにくいことがあり、観察力が問われます。

典型的症状

  • 発熱: 37.5℃以上、あるいは平熱より明らかに高い熱。
  • 呼吸器症状: 咳嗽の増加、膿性痰の出現、呼吸困難、SpO2の低下。
  • 胸痛: 深呼吸時や咳嗽時の胸膜痛。

非典型的症状(特に高齢者や免疫不全者)

  • 意識レベルの変化: ぼんやりする、活動性の低下(せん妄など)。
  • 食欲不振: 急に食事が進まなくなる。
  • 低体温: 重篤な敗血症の場合、発熱ではなく低体温になることも。
  • 全身倦怠感

治療・対症療法

治療の基本は「適切な抗菌薬投与」と「呼吸・全身管理」です。

薬物療法(抗菌薬)

  • エンピリック治療(初期治療)
    原因菌が特定される前は、患者の重症度や耐性菌リスクを評価し、広域抗菌薬を開始します。
    (例:抗緑膿菌作用のあるペニシリン系やセフェム系など)
  • デエスカレーション
    培養検査の結果判明後(数日後)、原因菌に感受性のある、より狭いスペクトルの抗菌薬へ変更します。これは耐性菌の出現を防ぐために重要です。

呼吸管理・対症療法

  • 酸素療法: 低酸素血症に対し、カニューラやマスク、高流量鼻カニュラ(HFNC)などを使用。
  • 気道クリアランス: 排痰補助(体位ドレナージ、スクイージング)、吸引、去痰薬の使用。
  • 栄養管理: 早期からの経腸栄養開始が免疫機能維持に重要ですが、誤嚥リスクの評価も同時に行います。

看護のポイント

HAP対策において、看護師の役割は「菌を入れない」「誤嚥させない」「免疫を落とさない」ことです。

徹底した口腔ケア

HAP予防のエビデンスレベルが最も高いケアの一つです。

  • 質の高いケア: 単なる洗浄だけでなく、歯垢(プラーク)の物理的除去、舌苔の清掃を行います。
  • 保湿: 口腔内乾燥は細菌繁殖の温床となるため、保湿ジェル等を活用します。

誤嚥予防のポジショニング

  • ギャッジアップ: 食事中や経管栄養注入中は、少なくとも30〜45度の挙上を維持します。
  • 食後の体位: 注入後も30分〜1時間は座位または半座位を保ち、胃食道逆流を防ぎます。

感染対策(標準予防策の徹底)

  • 手指衛生: 患者に触れる前後、処置の前後には必ず手指消毒を行います。医療従事者の手を介した交差感染を防ぐことが最重要です。
  • 器具の管理: 吸引チューブやネブライザーなどの呼吸器関連器具の適切な管理・消毒を行います。

早期離床と呼吸理学療法

  • 長期臥床は肺の換気不全(無気肺)を招きます。可能な限り早期から座位保持や離床を促します。
  • 深呼吸や咳嗽を促し、排痰をサポートします。

観察とアセスメント

  • 痰の性状(色、量、粘稠度)の変化をいち早く察知します。
  • 「いつもより元気がない」「SpO2が安定しない」といった微細な変化を医師へ報告することが早期治療につながります。
参考資料
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