機能的イレウスを徹底解説!

イレウスは、看護師として臨床現場で頻繁に遭遇する病態の一つです。その中でも、腸管に物理的な閉塞がないにもかかわらず、腸の動きが麻痺してしまう「機能的イレウス」は、術後やさまざまな疾患で起こりうるため、正しい知識を持つことが不可欠です。
この記事では、機能的イレウスの基本である「病態生理」「原因」「症状」について、分かりやすく徹底的に解説します。
機能的イレウスの病態生理
機能的イレウスは、腸管そのものに狭窄や閉塞といった物理的な原因がないにもかかわらず、腸管の蠕動運動が障害されることで、内容物の輸送が停滞してしまう状態です。
正常な状態では、腸管は自律神経(交感神経と副交感神経)によってコントロールされ、リズミカルな蠕動運動を行っています。これにより、食べ物や消化液が肛門側へと運ばれていきます。しかし、機能的イレウスでは、この自律神経のバランスが崩れることが主な引き金となります。
交感神経の過緊張
交感神経は腸管の動きを抑制する働きがあります。手術の侵襲や腹膜炎などの強いストレスが加わると、交感神経が過剰に興奮し、腸管の動きが著しく低下(麻痺)します。これが麻痺性イレウスの主な病態です。
副交感神経の異常
非常にまれですが、副交感神経が異常に興奮し、腸管が痙攣を起こして内容物の輸送が妨げられることがあります。これを痙攣性イレウスと呼びます。
腸管の動きが止まると、腸管内にガスや消化液が溜まり、腸管内圧が上昇します。これにより、腹部膨満や腹痛、嘔吐などの症状が出現するのです。
機能的イレウスの主な原因
機能的イレウスは、さまざまな要因によって引き起こされます。臨床で遭遇する頻度が高いのは「麻痺性イレウス」であり、その原因は多岐にわたります。
麻痺性イレウスの原因
- 開腹手術後
最も頻度の高い原因です。手術侵襲そのものによるストレスや、麻酔薬の影響、術中に腸管を直接操作することによる刺激などが、交感神経を過剰に興奮させ、一時的に腸管が麻痺します。通常は術後数日で回復しますが、遷延することもあります。 - 腹膜炎
腹腔内の炎症(例:急性虫垂炎、消化管穿孔など)は、腸管への直接的な刺激となり、強い蠕動運動の抑制を引き起こします。 - 電解質異常
特に低カリウム血症は、腸管の平滑筋の収縮力を低下させ、麻痺を引き起こす重要な原因です。利尿薬の使用時や、下痢・嘔吐が続く場合に注意が必要です。 - 薬剤の副作用
医療用麻薬(オピオイド): 鎮痛作用を持つ一方で、腸管の蠕動運動を強力に抑制する副作用があります。
抗コリン薬: 副交感神経の働きを抑えるため、腸管の動きが低下します。
向精神薬の一部 - 全身性の重篤な疾患
敗血症、肺炎、腎不全、心筋梗塞など、全身に強い炎症やストレスがかかる状態。 - 脊髄損傷
腸管の動きをコントロールする神経が損傷されることで、麻痺が起こります。
痙攣性イレウスの原因
痙攣性イレウスは比較的まれですが、以下のような原因が挙げられます。
- 神経系の疾患
ヒステリーや脳腫瘍など。 - 中毒
鉛中毒など。 - 局所的な炎症
胆石発作や尿管結石発作など、強い痛みを伴う炎症が関連することがあります。
3機能的イレウスの症状
機能的イレウスの症状は、腸管の動きが停滞し、内容物がうっ滞することによって現れます。
- 腹部膨満感
- 腸管内にガスや消化液が溜まることで、お腹全体が張ってきます。打診すると、鼓音(ポンポンと響く音)が聴取されるのが特徴です。
- 腹痛
- 麻痺性イレウスでは、持続的で全体的な鈍い痛みであることが多いです。一方、痙攣性イレウスでは、間欠的で強い痛み(疝痛発作)を伴います。
- 悪心・嘔吐
- 腸管内容物が逆流し、吐き気を催したり、実際に嘔吐したりします。嘔吐物は、初期には胃液や胆汁ですが、進行すると便のような臭いを伴う(糞便様嘔吐)ことがあります。
- 排便・排ガスの停止
- 腸管の動きが止まるため、便やガスが出なくなります。
- 聴診所見
- 麻痺性イレウス: 腸蠕動音は減弱または消失します。「シーン」としてほとんど聞こえないのが特徴です。
- 痙攣性イレウス: 腸蠕動音は亢進し、金属音(キンキンと響くような音)が聴取されることがあります。
これらの症状が見られた場合は、バイタルサインの確認とともに、速やかな医師への報告が必要です。特に、発熱や頻脈、血圧低下などショックの兆候が見られる場合は、緊急の対応が求められます。