発熱性好中球減少症について

発熱性好中球減少症(FN)について徹底解説

あずかん

がん化学療法などを受けている患者さんが発熱した場合に、特に注意が必要となる「発熱性好中球減少症(FN)」。これは、感染症の兆候であるにもかかわらず、典型的な炎症反応がみられない危険な状態です。発見が遅れると、重篤な敗血症に進行し、生命を脅かす可能性があります。
この記事では、知っておくべき発熱性好中球減少症の基本から、具体的な看護のポイントまでを分かりやすく解説します。


目次

発熱性好中球減少症がなぜ危険なのか

発熱性好中球減少症を理解するためには、まず「好中球」の役割を知ることが重要です。

好中球とは?
白血球の一種で、体内に侵入した細菌や真菌などの微生物を貪食・殺菌する役割を担っており、免疫システムの最前線で戦う重要な細胞です。

通常、体内に病原体が侵入すると、好中球が感染部位に集まり、炎症反応(発赤、腫脹、疼痛、熱感など)を引き起こします。しかし、がん化学療法などの影響で骨髄機能が抑制されると、好中球の数が著しく減少します(好中球減少症)。

好中球が500/μL未満に減少した状態で38℃以上の発熱がみられる場合、または、48時間以内に好中球数が500/μL未満に減少することが予測される場合に「発熱性好中球減少症」と定義されます 。

この状態では、感染に対する防御機能が極端に低下しているため、普段なら問題にならないような常在菌(皮膚、腸管内、口腔内などにいる菌)が体内に侵入するだけでも、容易に重症感染症を引き起こします。さらに、好中球が少ないため、明らかな炎症反応が見られず、「発熱」が唯一のサインであることも少なくありません 。
このため、FNは「oncologic emergency(腫瘍内科的緊急事態)」の一つとされ、迅速な対応が求められます


なぜ好中球は減少するのか

発熱性好中球減少症の最も一般的な原因は、がん薬物療法(化学療法)です。

抗がん剤は、分裂が活発な細胞を攻撃する性質があります。がん細胞だけでなく、正常な細胞の中でも新陳代謝が活発な骨髄の造血幹細胞もダメージを受けやすく、結果として好中球の産生が抑制されてしまいます。

その他、以下のような原因も考えられます。

放射線治療:広範囲にわたる放射線治療は骨髄抑制を引き起こすことがあります。
造血器腫瘍:白血病や骨髄異形成症候群など、血液のがんそのものが正常な造血を阻害します。
再生不良性貧血:骨髄の機能が低下し、血球全体が作られなくなる疾患です。


見逃してはいけないサイン

前述の通り、FNでは典型的な感染の兆候が見えにくいのが特徴です。そのため、以下の症状に注意深く観察する必要があります。

発熱:最も重要かつ唯一の初期症状であることが多いです(定義:腋窩温38.0℃以上)。
悪寒・戦慄:急激な体温上昇に伴い見られます。
倦怠感:非特異的ですが、感染症のサインとして重要です。
血圧低下、頻脈:敗血症ショックへ移行する兆候であり、極めて危険なサインです。

また、感染巣(感染の原因となっている場所)を特定するために、以下のような局所の症状にも注意が必要です。

口腔・咽頭痛、粘膜の発赤:口腔内の常在菌による感染
腹痛、下痢:腸管粘膜障害による腸内細菌の体内侵入(菌血症)
肛門周囲の痛みや腫れ
皮膚の発疹、カテーテル刺入部の発赤や痛み
頻尿、排尿時痛:尿路感染症


治療・対症療法

発熱性好中球減少症は、迅速な治療開始が予後を大きく左右します。

  1. 経験的抗菌薬投与(エンピリック治療)
    診断後、直ちに広域スペクトラムの抗菌薬の点滴静注を開始します。原因菌が特定される前でも、重症化を防ぐために治療を始めることが鉄則です。
  2. 原因菌の特定
    抗菌薬投与と並行して、血液培養を2セット以上採取し、原因となっている微生物を特定します。その他、尿、喀痰、便、カテーテル刺入部など、感染が疑われる部位からも培養検体を採取します。
  3. G-CSF(顆粒球コロニー刺激因子)製剤の投与
    好中球の産生を促進し、好中球減少の期間を短縮させる目的で使用されることがあります。FNの発症予防として用いられることもあります。
  4. 解熱鎮痛薬の使用
    発熱による苦痛を和らげるために使用しますが、感染の唯一の兆候である発熱を隠してしまう可能性があるため、使用には慎重な判断が必要です。

看護のポイント

感染予防策の徹底

  • 標準予防策(スタンダードプリコーション)
    すべての患者のケアにおいて基本となる感染対策です。特に、ケア前後の手指衛生は最も重要です。
  • 環境整備
    病室を清潔に保ち、必要に応じて保護的環境(無菌室など)の使用を検討します。生花の持ち込み制限もその一環です。
  • 侵襲的処置の管理
    静脈ラインや膀胱留置カテーテルなどの刺入部は、感染の入り口になりやすいため、厳重な管理と観察が必要です。

早期発見のための継続的な観察

  • バイタルサインのモニタリング
    定期的な検温はもちろん、血圧、脈拍、呼吸状態の変化を注意深く観察します。特に、発熱は最も重要なサインです。
  • 全身状態の観察
    悪寒・戦慄の有無、倦怠感の程度、意識レベルの変化など、患者の訴えと全身の状態を総合的にアセスメントします。
  • 感染巣の検索
    頭のてっぺんから足の先まで、皮膚の状態、口腔粘膜、カテーテル刺入部、肛門周囲などを観察し、わずかな発赤や痛みも見逃さないようにします。

セルフケア支援と患者教育

  • 口腔ケア
    粘膜のバリア機能が低下しているため、刺激の少ない歯ブラシや保湿剤を使い、口腔内を清潔に保つよう指導・援助します。
  • 皮膚の清潔保持
    皮膚も感染の入り口です。毎日の清拭やシャワー浴で清潔を保ち、保湿剤で皮膚の乾燥を防ぎます。
  • 食事指導
    生もの(刺身、生卵など)は避け、十分に加熱した食事を摂るよう説明します。
  • 患者・家族への説明
    なぜ感染予防が重要なのか、どのような症状に注意すべきか(特に帰宅後のセルフチェック)を分かりやすく説明し、不安を軽減することも大切な役割です。手洗いやうがいの励行、人混みを避けるなどの具体的な行動を伝えます。
参考資料
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