経管栄養とは 基礎知識から合併症、看護のポイントまで徹底解説
あずかん経管栄養は、患者さんの生命と栄養を支える非常に重要なケアの一つですが、同時に多くの知識と観察力が求められるため、不安を感じることも多いのではないでしょうか。
この記事を読めば、経管栄養の全体像が理解でき、自信を持って日々のケアに臨めるようになります。ぜひ、明日からの看護に役立ててください。
経管栄養とは
経管栄養とは、口から食事を摂ることが困難、または不十分な場合に、消化管の機能は維持されている患者に対して、鼻や腹壁に造設したカテーテル(チューブ)を通して直接胃や腸に栄養剤を投与する方法です。
私たちの体は、食事を口から摂り(①摂取)、胃や腸で消化・吸収し(②消化・吸収)、エネルギーに変えたり体を作ったりしています。このプロセスのうち、①の「摂取」に問題がある状態が、経管栄養の適応となります。
重要なのは、「消化管は使える」という点です。腸管を使わない状態が続くと、腸管粘膜が萎縮し、栄養の吸収能力が低下するだけでなく、腸のバリア機能が破綻して細菌が体内に入り込みやすくなる「バクテリアルトランスロケーション」のリスクが高まります。
経管栄養は、この腸管の生理的な機能を維持しながら栄養を補給できる、非常に理にかなった方法なのです。これを「腸を使う栄養(Enteral Nutrition: EN)」と呼びます。一方、消化管が使えない場合に血管(静脈)から栄養を投与する方法を「静脈栄養(Parenteral Nutrition: PN)」と呼びます。
なぜ経管栄養が必要になるのか?
経管栄養が必要となる原因は多岐にわたります。代表的なものをいくつか見ていきましょう。
意識障害
脳卒中後、頭部外傷、重度の意識障害などで、自分で食事を摂ることができない。
嚥下障害
加齢、神経筋疾患(パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症など)、脳血管障害の後遺症などにより、食べ物や飲み物を安全に飲み込めない(誤嚥のリスクが高い)。
消化管の通過障害(上部消化管)
口腔、咽頭、食道などの手術後や腫瘍によって、物理的に食物が通過しない。
極度の食欲不振・摂取量低下
精神疾患、がん化学療法による副作用、重度の認知症などにより、必要な栄養量を経口摂取できない。
短期間の絶食が必要な場合
大手術の前後など、一時的に経口摂取ができないが、腸管機能は維持したい場合。
このように、様々な疾患や状態が経管栄養の導入につながります。担当する患者が「なぜ経管栄養を行っているのか」という背景を理解することが、適切な看護を提供する第一歩です。
経管栄養が心身に与える影響
身体的影響
- 消化器症状
- 下痢、便秘、腹部膨満、嘔吐などが起こりやすい。投与速度や栄養剤の種類、温度などが原因となります。
- 誤嚥性肺炎
- 胃から食道への栄養剤の逆流による誤嚥。
- カテーテル関連の合併症
- 経鼻胃管: 鼻腔や咽頭の違和感・痛み、自己抜去、チューブの閉塞・劣化。
- 胃ろう(PEG)/腸ろう(PEJ): 瘻孔周囲の皮膚トラブル(発赤、びらん、肉芽形成)、カテーテルの閉塞・破損、自己抜去。
- 代謝性の合併症
- 脱水、電解質異常、高血糖など。
精神的・社会的影響
- 「食べる楽しみ」の喪失
- 食事は栄養補給だけでなく、QOLを支える大きな楽しみの一つです。その機会が失われることによる喪失感や抑うつ。
- ボディイメージの変化
- 鼻や腹部にカテーテルが留置されていることへの不快感や羞恥心。
- 社会的孤立
- 家族や友人と食卓を囲めないことによる孤独感。
- 介護者の負担
- 在宅で経管栄養を行う場合、家族の介護負担が増大する。
治療・対症療法
消化器症状への対応
- 下痢
- 投与速度を遅くする。
- 栄養剤の種類を変更する(食物繊維含有、浸透圧が低いものなど)。
- 栄養剤の温度を人肌に温める。
- それでも改善しない場合は、止痢剤の使用を検討する。
- 便秘
- 水分投与量を増やす。
- 食物繊維を多く含む栄養剤に変更する。
- 腹部マッサージや体位変換、離床を促す。
- 緩下剤の使用を検討する。
- 嘔吐・逆流
- 投与速度を遅くし、1回の投与量を減らして回数を増やす(分割投与)。
- 投与中・投与後1〜2時間はセミファーラー位(上半身を30〜60度挙上)を保持する。
- 消化管運動機能改善薬の使用を検討する。
カテーテル関連の合併症への対応
- チューブの閉塞予防
- 栄養剤投与の前後、薬剤投与の前後と薬剤の間に、必ず白湯(約20〜30mL)によるフラッシュを行う。
- 瘻孔周囲の皮膚トラブル
- 毎日、石鹸と微温湯で優しく洗浄し、十分に乾燥させる。
- 固定具やYガーゼを適切に使用し、皮膚への圧迫や摩擦を避ける。
- 発赤や浸出液がある場合は、医師に報告し、軟膏塗布などを検討する。
- 自己抜去
- 鎮静が必要な場合を除き、可能な限り身体拘束は避けます。ミトン型の手袋を使用したり、腹帯でカテーテルを保護したりする工夫をします。なぜ抜いてしまうのか(不快感、せん妄など)原因をアセスメントすることが重要です。
看護のポイント
投与前の確認は絶対!
- 指示の確認
- 医師の指示通りか?(栄養剤の種類、量、速度、投与方法)
- 患者の確認
- 体位は適切か?(セミファーラー位が基本)意識レベル、バイタルサインは安定しているか?
- チューブの確認
- 経鼻胃管: チューブの固定長は変わっていないか?(胃内に正しく挿入されているか)
- 胃ろう/腸ろう: カテーテルの種類(ボタン型/チューブ型)、固定水の量は適切か?皮膚の状態は?
- 胃残渣の確認
- 胃内容物の量、性状を確認する。プロトコルがあればそれに従う(例:◯mL以上なら投与を中止し医師に報告)。逆流のリスクをアセスメントする重要な指標です。
投与中の観察を怠らない!
- 患者の状態
- 腹部膨満、腹痛、嘔気・嘔吐、呼吸状態の変化(むせ、痰の増加、SpO2低下など)がないか、顔色や表情を観察する。
- 滴下速度
- 指示通りの速度で投与されているか、定期的に確認する。特に自然滴下の場合は速度が変化しやすいので注意が必要です。
投与後のケアも大切!
- 体位の保持
- 投与後も最低1〜2時間はセミファーラー位を保ち、逆流・誤嚥を予防する。
- チューブのフラッシュ
- 指示量の投与が終わったら、必ず白湯でフラッシュし、閉塞を予防する。
- 口腔ケア
- 経口摂取がなくても、口腔内は乾燥しやすく細菌が繁殖します。唾液の誤嚥による肺炎(不顕性誤嚥)を防ぐためにも、定期的な口腔ケアは極めて重要です。
- 排便コントロール
- 毎日の排便状況を確認し、下痢や便秘が続く場合は医師や先輩看護師に報告・相談する。
精神的ケアを忘れずに
「口から食べられない」という患者の気持ちに寄り添い、傾聴する姿勢が大切です。可能であれば、医師の許可のもとで、氷片をなめたり、好きなものの匂いをかいだり、少量のゼリーなどで嚥下訓練を行うことも、QOL向上につながります。患者の「食べたい」という気持ちを尊重し、多職種(医師、ST、管理栄養士など)と連携して関わることも大切です。