脳炎について|病態生理から看護のポイントまで徹底解説
あずかん脳炎は、ウイルスや免疫異常によって脳実質に炎症が生じる疾患であり、急速な意識障害やけいれん発作を引き起こすため、救急・急性期の現場では迅速な対応が求められます。
この記事では、看護師が知っておくべき脳炎の病態生理、原因、症状、治療、そして具体的な看護のポイントについて、最新の情報を交えて解説します。
目次
脳の中で何が起きているのか
脳炎とは、脳実質(大脳、小脳、脳幹など)そのものに炎症が生じている状態を指します。髄膜(脳を包む膜)に炎症が起きる「髄膜炎」とは区別されますが、両者が合併する「髄膜脳炎」として発症することも少なくありません。
病態は大きく分けて以下の2つのメカニズムで進行します。
- 直接侵襲(感染性)
ウイルスや細菌などの病原体が脳細胞に直接侵入し、細胞を破壊・壊死させることで炎症が起こります。細胞傷害性T細胞などの免疫応答が過剰に反応し、脳浮腫を増悪させることがあります。 - 免疫介在性(非感染性)
自己免疫機序により、自身の神経細胞表面の抗原(受容体など)に対して抗体が産生され、炎症が引き起こされます(例:抗NMDA受容体脳炎)。
炎症により脳浮腫、頭蓋内圧亢進(IICP)が生じると、脳ヘルニアによる致死的なリスクが高まります。
原因ウイルス性と自己免疫性の鑑別が重要
脳炎の原因は多岐にわたりますが、臨床で特に重要なのは「感染性」と「自己免疫性」の鑑別です。
感染性脳炎(主にウイルス性)
- 単純ヘルペス脳炎(HSE)
単純ヘルペスウイルス1型(HSV-1)によるものが多く、成人の散発性脳炎で最も頻度が高い。側頭葉・前頭葉下部を好発部位とし、放置すると致死率が高い緊急疾患です。 - 日本脳炎
コガタアカイエカが媒介する日本脳炎ウイルスによるもの。西日本を中心に夏〜秋に発生が見られます。 - 水痘・帯状疱疹ウイルス脳炎
水痘や帯状疱疹の合併症として発症します。 - その他: インフルエンザ脳症(小児に多い)、サイトメガロウイルス、HHV-6など。
自己免疫性脳炎
- 抗NMDA受容体脳炎
卵巣奇形腫(テラトーマ)に関連して若い女性に発症することが多いですが、腫瘍がない場合や男性・小児でも発症します。精神症状で発症し、その後けいれん、無呼吸へと進行するのが特徴です。 - 傍腫瘍性脳炎
肺小細胞癌などの悪性腫瘍に伴い、免疫反応として脳炎が生じます。
初期症状から重篤なサインまで
脳炎の症状は、「感染徴候」と「中枢神経症状」の組み合わせで現れます。
初期症状(先行感染症状)
- 発熱(高熱)
- 頭痛
- 全身倦怠感、感冒様症状
急性期の中枢神経症状
炎症が脳実質に及ぶと、以下の症状が出現します。
- 意識障害: JCSやGCSの低下。軽度の混迷から昏睡まで急速に進行することがある。
- けいれん発作: 全身性または焦点性の発作。重積状態になることもある。
- 精神症状・異常言動: 幻覚、妄想、興奮、錯乱。特に抗NMDA受容体脳炎やヘルペス脳炎の初期に顕著。
- 巣症状(局所神経脱落症状): 失語、麻痺、感覚障害など(炎症部位による)。
- 自律神経症状: 発汗過多、血圧変動、不整脈、中枢性低換気(呼吸抑制)。
治療・対症療法
脳炎の治療は、原因検索と並行して行う「エンピリック治療(経験的治療)」と、全身管理が基本です。
原因療法
- 抗ウイルス薬
- アシクロビル(ACV): 単純ヘルペス脳炎が否定できない段階から、速やかに投与を開始します。
- 免疫療法(自己免疫性の場合)
- ステロイドパルス療法
- 免疫グロブリン大量静注療法(IVIg)
- 血漿交換療法
- 免疫抑制剤(リツキシマブなど)
- 腫瘍切除
- 抗NMDA受容体脳炎で卵巣奇形腫がある場合は、手術による切除を行います。
対症療法・全身管理
- 脳浮腫対策: グリセロール、マンニトールの投与。頭部挙上。
- 抗けいれん薬: ジアゼパム、ミダゾラム、レベチラセタム、ホスフェニトインなどを用いて発作をコントロールします。
- 呼吸循環管理: 意識障害や中枢性低換気がある場合は、気管挿管・人工呼吸管理を行います。
看護のポイント
神経学的所見の継続観察(モニタリング)
- 意識レベル: GCS/JCSを用い、急激な低下がないかチェックします。
- 瞳孔・対光反射: 脳ヘルニアの兆候(瞳孔不同、散大)を見逃さないようにします。
- 麻痺・しびれ: バレー徴候などで運動機能を評価します。
- 頭痛・嘔吐: 頭蓋内圧亢進症状(IICP)の有無を確認します。
けいれん発作時の対応
- 発作時は気道確保を最優先し、誤嚥を防止します。
- 発作の「型(強直か間代か)」「持続時間」「部位(全身か一部か)」「眼球偏位の方向」を観察・記録し、医師へ報告します。
- ベッド柵の保護カバー使用など、外傷予防を行います。
精神症状・不穏への対応
- 異常言動や興奮状態にある場合、患者の安全を守るための環境調整が必要です。
- 必要に応じて抑制帯の使用も検討されますが、倫理的配慮と頻回な観察(循環不全や皮膚トラブルの予防)が必須です。
- 家族への精神的サポート(急変によるショックへのケア)も重要です。
合併症予防
- 長期臥床に伴うDVT(深部静脈血栓症)、褥瘡、拘縮の予防を行います。
- 嚥下機能評価を行い、誤嚥性肺炎を予防します。