脳炎について

脳炎について|病態生理から看護のポイントまで徹底解説

あずかん

脳炎は、ウイルスや免疫異常によって脳実質に炎症が生じる疾患であり、急速な意識障害やけいれん発作を引き起こすため、救急・急性期の現場では迅速な対応が求められます。
この記事では、看護師が知っておくべき脳炎の病態生理、原因、症状、治療、そして具体的な看護のポイントについて、最新の情報を交えて解説します。

目次

脳の中で何が起きているのか

脳炎とは、脳実質(大脳、小脳、脳幹など)そのものに炎症が生じている状態を指します。髄膜(脳を包む膜)に炎症が起きる「髄膜炎」とは区別されますが、両者が合併する「髄膜脳炎」として発症することも少なくありません。

病態は大きく分けて以下の2つのメカニズムで進行します。

  1. 直接侵襲(感染性)
    ウイルスや細菌などの病原体が脳細胞に直接侵入し、細胞を破壊・壊死させることで炎症が起こります。細胞傷害性T細胞などの免疫応答が過剰に反応し、脳浮腫を増悪させることがあります。
  2. 免疫介在性(非感染性)
    自己免疫機序により、自身の神経細胞表面の抗原(受容体など)に対して抗体が産生され、炎症が引き起こされます(例:抗NMDA受容体脳炎)。

炎症により脳浮腫、頭蓋内圧亢進(IICP)が生じると、脳ヘルニアによる致死的なリスクが高まります。

原因ウイルス性と自己免疫性の鑑別が重要

脳炎の原因は多岐にわたりますが、臨床で特に重要なのは「感染性」と「自己免疫性」の鑑別です。

感染性脳炎(主にウイルス性)

  • 単純ヘルペス脳炎(HSE)
    単純ヘルペスウイルス1型(HSV-1)によるものが多く、成人の散発性脳炎で最も頻度が高い。側頭葉・前頭葉下部を好発部位とし、放置すると致死率が高い緊急疾患です。
  • 日本脳炎
    コガタアカイエカが媒介する日本脳炎ウイルスによるもの。西日本を中心に夏〜秋に発生が見られます。
  • 水痘・帯状疱疹ウイルス脳炎
    水痘や帯状疱疹の合併症として発症します。
  • その他: インフルエンザ脳症(小児に多い)、サイトメガロウイルス、HHV-6など。

自己免疫性脳炎

  • 抗NMDA受容体脳炎
    卵巣奇形腫(テラトーマ)に関連して若い女性に発症することが多いですが、腫瘍がない場合や男性・小児でも発症します。精神症状で発症し、その後けいれん、無呼吸へと進行するのが特徴です。
  • 傍腫瘍性脳炎
    肺小細胞癌などの悪性腫瘍に伴い、免疫反応として脳炎が生じます。

初期症状から重篤なサインまで

脳炎の症状は、「感染徴候」と「中枢神経症状」の組み合わせで現れます。

初期症状(先行感染症状)

  • 発熱(高熱)
  • 頭痛
  • 全身倦怠感、感冒様症状

急性期の中枢神経症状

炎症が脳実質に及ぶと、以下の症状が出現します。

  • 意識障害: JCSやGCSの低下。軽度の混迷から昏睡まで急速に進行することがある。
  • けいれん発作: 全身性または焦点性の発作。重積状態になることもある。
  • 精神症状・異常言動: 幻覚、妄想、興奮、錯乱。特に抗NMDA受容体脳炎やヘルペス脳炎の初期に顕著。
  • 巣症状(局所神経脱落症状): 失語、麻痺、感覚障害など(炎症部位による)。
  • 自律神経症状: 発汗過多、血圧変動、不整脈、中枢性低換気(呼吸抑制)。

★ここがポイント
「熱があって様子がおかしい(異常言動)」という主訴は、単なる熱せん妄ではなく脳炎を強く疑うサインです。

治療・対症療法

脳炎の治療は、原因検索と並行して行う「エンピリック治療(経験的治療)」と、全身管理が基本です。

原因療法

  1. 抗ウイルス薬
    • アシクロビル(ACV): 単純ヘルペス脳炎が否定できない段階から、速やかに投与を開始します。
  2. 免疫療法(自己免疫性の場合)
    • ステロイドパルス療法
    • 免疫グロブリン大量静注療法(IVIg)
    • 血漿交換療法
    • 免疫抑制剤(リツキシマブなど)
  3. 腫瘍切除
    • 抗NMDA受容体脳炎で卵巣奇形腫がある場合は、手術による切除を行います。

対症療法・全身管理

  • 脳浮腫対策: グリセロール、マンニトールの投与。頭部挙上。
  • 抗けいれん薬: ジアゼパム、ミダゾラム、レベチラセタム、ホスフェニトインなどを用いて発作をコントロールします。
  • 呼吸循環管理: 意識障害や中枢性低換気がある場合は、気管挿管・人工呼吸管理を行います。

看護のポイント

神経学的所見の継続観察(モニタリング)

  • 意識レベル: GCS/JCSを用い、急激な低下がないかチェックします。
  • 瞳孔・対光反射: 脳ヘルニアの兆候(瞳孔不同、散大)を見逃さないようにします。
  • 麻痺・しびれ: バレー徴候などで運動機能を評価します。
  • 頭痛・嘔吐: 頭蓋内圧亢進症状(IICP)の有無を確認します。

けいれん発作時の対応

  • 発作時は気道確保を最優先し、誤嚥を防止します。
  • 発作の「型(強直か間代か)」「持続時間」「部位(全身か一部か)」「眼球偏位の方向」を観察・記録し、医師へ報告します。
  • ベッド柵の保護カバー使用など、外傷予防を行います。

精神症状・不穏への対応

  • 異常言動や興奮状態にある場合、患者の安全を守るための環境調整が必要です。
  • 必要に応じて抑制帯の使用も検討されますが、倫理的配慮と頻回な観察(循環不全や皮膚トラブルの予防)が必須です。
  • 家族への精神的サポート(急変によるショックへのケア)も重要です。

合併症予防

  • 長期臥床に伴うDVT(深部静脈血栓症)、褥瘡、拘縮の予防を行います。
  • 嚥下機能評価を行い、誤嚥性肺炎を予防します。
参考資料
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