
狭心症にはいくつか種類があります。
この記事では、「労作性狭心症」について詳しく説明していきます。
労作性狭心症とは
労作性狭心症とは、動脈硬化により冠動脈の内腔が狭くなり、労作時(運動時)に心臓の筋肉に十分な酸素・栄養を送ることが出来ない状態のことをいう。別名「安定狭心症」ともいう。
労作時に伴って出現し、3~5分程度持続する前胸部痛(絞扼感・圧迫感)がある。また、下顎・頸部・左肩または両肩・左腕への放散痛を伴うことがある。安静にすると症状は改善しする。
一過性の心筋虚血状態であり、この心筋虚血は可逆的であるため、心筋の壊死は生じない。また、安静時検査では異常がないことが多い。
検査・診断
運動負荷心電図
運動により心筋の酸素需要を増大させて虚血状態を誘発し、心電図のST変化を観察する。
エルゴメーター法
トレッドミル法
マスター法
心筋シンチグラフィ検査
運動負荷または薬物負荷があり、負荷時には冠動脈狭窄部位の血流が低下し心筋虚血が生じるが、安静時には心筋虚血は改善するため、その負荷時と安静時の画像を対比することで心筋虚血の有無を診断する。
運動負荷心筋シンチグラフィ
自転車エルゴメーターを、目標の心拍数に到達するまで、もしくは胸痛や心電図変化が出現するまで患者に漕いでもらい、最大負荷がかかった時点でタリウム(Tl)などの心筋血流製剤を注射する。
足腰が悪くて運動できない患者、普段から血圧が高く運動に伴い血圧がさらに上昇してしまう患者には行えないため注意が必要。
薬物負荷心筋シンチグラフィ
薬物(=アデノシン)を使用し検査する。アデノシンには冠動脈拡張作用があるため、健常な冠動脈は拡張するが、狭窄血管は拡張しないため、健常な冠動脈の方に血流が奪われてしまう。狭窄血管の血流低下が起こっているところを画像化する。運動負荷は必要ないため、足腰が悪い患者も検査が可能。
アデノシンの副作用として、気管支収縮作用や心臓の刺激伝導系抑制作用がある。そのため、気管支喘息や房室ブロックなどの刺激伝導系に異常がある患者には使用できない。
検査前にコーヒーや緑茶などを飲んでいると、カフェインによりアデノシンの効果が打ち消されてしまって十分な検査ができないため注意が必要。
冠動脈造影検査
冠動脈造影CT検査
造影剤を点滴などを用いて静脈から注入し、冠動脈の内部がどのように狭くなっているかなどを立体的に確認することが出来る。カテーテルを挿入しないため患者の負担が比較的少ないが、石灰化が強い血管や非常に細い血管の評価が難しい場合もある。
冠動脈カテーテル造影検査
鼠径部や手首などからカテーテルを挿入し、先端を冠動脈の入り口まで進める。カテーテルの先端から冠動脈内に直接造影剤を注入し、血管の状態をリアルタイムで確認することができる。CTでは評価できなかった石灰化が強い血管壁でも確実に造影することが可能で、そのままPCI(経皮的冠動脈形成術)を行うことが可能である。
治療
薬物療法
①抗血小板薬(アスピリン)
アスピリンは心血管疾患に対する一次予防(新規発症予防)と二次予防(再発予防)の両方に有効であることが証明されている。また、PCI後のステント血栓症を予防するためにも必要になる。
②LDLコレステロール低下薬
スタチン、エゼチミブ、PCSK-9阻害薬などの投与によるLDLコレステロール値の低下により、冠動脈プラークの退縮効果が証明されており、厳重な脂質管理が重要になる。
③発作に関する薬
β遮断薬は運動時の心拍低下および心収縮力低下作用により、心筋酸素消費量を減少させることで、狭心症発作を予防する。また、Ca拮抗薬は血管の拡張作用があり、冠動脈を拡張させ心筋酸素供給量を増加させることにより心筋虚血を軽減させる効果がある。
発作時には硝酸薬(ニトログリセリンなど)を舌下投与することで、静脈の拡張作用で心臓に戻る血液量が減少し酸素需要量が低下する効果がある。しかし、硝酸薬に対する耐性が生じてしまうため、常用はできない。
手術療法
①PCI(経皮的冠動脈インターベンション治療)
PCIは、カテーテルを用いて狭くなった冠動脈を広げる治療法で、多くの場合局所麻酔で行われる。手首や鼠径部の血管からカテーテルを挿入し、レントゲンを見ながら心臓の冠動脈まで進める。狭窄部位に到達したら、バルーン付きのカテーテルを挿入し、バルーンを膨らませて血管を内側から広げる。血管が再び狭くなるのを防ぐために、ステントと呼ばれる金属製の筒を留置することが一般的であり、このステントは、薬剤が塗布されている「薬剤溶出性ステント」が主流である。薬剤溶出性ステントは、血管内皮の増殖を抑え、再狭窄率を低下させる効果がある。
②CABG(冠動脈バイパス術)
CABGは、狭窄や閉塞した冠動脈の先に、体の別の場所から採取した健康な血管(グラフト)をつなぎ合わせ、新しい血液の通り道(バイパス)を作る外科手術で、一般的に全身麻酔で行われる。まず、胸骨を切り開いて心臓に到達し、人工心肺装置を使用して心臓を一時的に止めて行われることが多いが、心臓を動かしたまま行うオフポンプCABGもある。グラフトは、内胸動脈や大伏在静脈などがよく用いられる。複数本の冠動脈に病変がある場合や、病変が複雑でPCIでは対応が難しい場合などに選択される。