労作性狭心症について

労作性狭心症の病態から看護のポイントまで徹底解説

あずかん

循環器疾患の中でも特に遭遇する機会の多い「労作性狭心症」。患者さんのサインを見逃さず、適切なケアを提供するためには、その病態から看護のポイントまでを深く理解しておくことが不可欠です。
この記事では、労作性狭心症の基本から実践的な看護まで、分かりやすく解説していきます。


目次

労作性狭心症とは

労作性狭心症は、冠動脈の動脈硬化が主な原因で起こる虚血性心疾患の一つです。

心臓は、全身に血液を送り出すポンプの役割を担っていますが、心臓自身が働くためにも酸素や栄養が必要です。その酸素や栄養を運ぶ血管が「冠動脈」です。

通常、安静時には冠動脈が多少狭くなっていても、心臓が必要とする分の血液は供給されます。しかし、運動や階段の上り下り、重いものを持つなどの労作によって心臓の仕事量が増えると、より多くの酸素が必要になります。

動脈硬化によって冠動脈の内腔が狭くなっている(狭窄)と、需要が増えた分の血液(酸素)を十分に送り届けることができなくなります。この「酸素の需要と供給のアンバランス」によって心筋が一時的に酸素不足(虚血)に陥り、胸の痛みや圧迫感といった症状が現れるのです。

この発作は、数分間安静にすることで心臓の仕事量が減り、酸素の需要が元に戻ることで症状が治まるのが特徴です。

労作性狭心症の原因

労作性狭心症の根本的な原因は、冠動脈の動脈硬化です。動脈硬化を進行させる危険因子には、以下のようなものがあります。これらは生活習慣と密接に関連しています。

高血圧
脂質異常症(高コレステロール血症など)
糖尿病
喫煙
肥満
ストレス
加齢
家族歴

これらの危険因子が複数重なることで、動脈硬化の進行リスクはさらに高まります。

労作性狭心症の症状

労作性狭心症の最も典型的な症状は、労作時に出現する胸部の症状です。

症状の部位
胸の中央部や左胸に感じることが多いですが、左腕、肩、首、顎、背中、心窩部に広がる(放散痛)こともあります。
症状の性質
「締め付けられるような」「圧迫されるような」「焼けつくような」と表現されることが多いです。
持続時間
通常は数分から長くても15分以内です。
誘因
坂道や階段の上り下り、重い荷物を持つ、急いで歩く、興奮する、寒い場所に出る、食後など、心臓に負担がかかる状況で誘発されます。
寛解
安静にしたり、ニトログリセリン(舌下錠やスプレー)を使用したりすることで、数分以内に症状が軽快・消失します。

高齢者や糖尿病患者では、典型的な胸痛を自覚しにくく、「息切れ」や「倦怠感」として現れることもあるため注意が必要です。

治療・対症療法

治療の目的は、症状をコントロールしてQOLを改善すること、そして心筋梗塞などのより重篤な心血管イベントへの移行を防ぐことです。

薬物療法

薬物療法は治療の基本となります。

  • 抗血小板薬
    • アスピリンなど。血栓の形成を防ぎ、心筋梗塞のリスクを低下させます。
  • 血管拡張薬
    • 硝酸薬(ニトログリセリンなど): 発作時に使用し、冠動脈を拡張させて速やかに症状を和らげます。また、長時間作用型の硝酸薬は発作の予防にも使われます。
    • カルシウム拮抗薬: 冠動脈を拡張させ、血圧を下げて心臓の負担を軽減します。
  • 心臓の負担を軽減する薬
    • β遮断薬: 心拍数や心収縮力を抑えることで、心臓の酸素需要を減らし、発作を予防します。
  • 危険因子の管理
    • スタチンなど(脂質異常症治療薬): コレステロール値を下げ、動脈硬化の進行を抑制します。
    • 降圧薬、血糖降下薬

カテーテル治療(経皮的冠動脈インターベンション:PCI)

薬物療法で症状のコントロールが難しい場合や、冠動脈の狭窄が高度な場合に行われます。手首や足の付け根の血管からカテーテルを挿入し、冠動脈の狭窄部位まで進めます。そこでバルーンを膨らませて血管を広げ、多くの場合、再狭窄を防ぐためにステントという金属の網状の筒を留置します。

冠動脈バイパス術(CABG)

狭窄や閉塞している部位が多く、カテーテル治療が困難な場合に行われる外科手術です。患者自身の血管(足の静脈や胸の動脈など)を用いて、冠動脈の狭窄部の先にバイパスを作成し、心筋への血流を確保します。

看護のポイント

胸痛(発作時)の看護

  • 迅速なアセスメント: バイタルサイン(血圧、脈拍、SpO2)、心電図モニターの確認、症状の性状(部位、程度、持続時間、放散痛の有無)を詳細に聴取・観察します。不安定狭心症や心筋梗塞との鑑別が重要です。
  • 安楽な体位: ベッドの頭側を少し上げたセミファーラー位とし、呼吸しやすい体位を整えます。
  • 安静の保持: 発作の誘因となった労作を中止し、身体的・精神的安静を保つよう促します。
  • 酸素投与: 医師の指示に基づき、SpO2が低下している場合は酸素を投与します。
  • 薬剤の確実な投与: 医師の指示通りにニトログリセリンを投与します。血圧低下の副作用があるため、投与前後の血圧測定は必須です。

不安の軽減

胸痛は患者に強い不安や死への恐怖を与えます。

  • 傾聴と共感: 患者さんの訴えを傾聴し、不安な気持ちに寄り添います。
  • 的確な情報提供: 落ち着いた態度で、現在の状況やこれからの検査・治療について分かりやすく説明し、見通しが持てるように支援します。

生活指導・セルフケア支援(退院指導)

再発作や心筋梗塞への移行を防ぐためには、患者自身によるセルフケアが非常に重要です。

  • 疾患の理解
    • なぜ発作が起きるのか、そのメカニズムを患者が理解できるよう、パンフレットなども活用して説明します。
  • 危険因子の管理
    • 食事指導: 塩分・脂肪分を控えたバランスの良い食事について、栄養士と連携して指導します。
    • 禁煙指導: 禁煙の重要性を繰り返し説明し、必要であれば禁煙外来への受診を勧めます。
    • 内服薬の自己管理: 薬の作用・副作用、飲み忘れた時の対処法などを確実に理解できるよう指導します。「胸が痛くなったら飲む薬(ニトログリセリン)」と「毎日飲む予防の薬」の違いを明確に伝えます。
  • 発作時の対処法
    • どのような時に発作が起きやすいか、自身の誘因を把握してもらいます。
    • 発作が起きたら、すぐに①活動を中止して安静にし、②ニトログリセリンを使用するという二つの行動を具体的に指導します。
    • 「ニトログリセリンを1回使用しても症状が治まらない場合、5分後に再度使用できること」「3回使用しても治まらない場合や、今までと違う強い痛み、15分以上続く痛みの場合には、ためらわずに救急車を呼ぶこと」を徹底します。
  • 運動・活動
    • 医師の許可の範囲内で、ウォーキングなどの適度な有酸素運動が推奨されることを伝えます。過度な負担を避け、準備運動やクールダウンの重要性も説明します。

参考資料
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