糖尿病ケトアシドーシスについて

糖尿病ケトアシドーシス(DKA)の病態から看護のポイントまで徹底解説

あずかん

糖尿病ケトアシドーシス(DKA)は、糖尿病の急性合併症の中でも特に重篤で、迅速な対応が求められる病態です。
この記事では、DKAの患者さんを受け持った際に、自信を持ってアセスメントとケアを実践できるよう、病態生理から具体的な看護のポイントまでを分かりやすく解説します。


目次

糖尿病ケトアシドーシスとは

DKAを理解する鍵は、「インスリンの絶対的欠乏」です。インスリンは、血液中のブドウ糖(血糖)を細胞内に取り込み、エネルギーとして利用するために不可欠なホルモンです。このインスリンが極度に不足すると、体は以下のような危機的状況に陥ります。

エネルギー源の枯渇と代替エネルギーの産生

インスリンが不足すると、細胞はブドウ糖を利用できなくなり、エネルギー不足に陥ります。そのため、血糖値は高いにもかかわらず、細胞は飢餓状態となります(「飢餓の飽食」とも呼ばれます)。

この状況を打開するため、体は代替エネルギー源として脂肪を分解し始めます。この過程で、ケトン体(アセトン、アセト酢酸、β-ヒドロキシ酪酸)が肝臓で大量に産生されます。

代謝性アシドーシスの進行

ケトン体は酸性の物質です。通常であれば、体は緩衝作用によって血液のpHを正常範囲(7.35~7.45)に保ちますが、DKAではケトン体が過剰に蓄積し、この緩衝能を超えてしまいます。その結果、血液が酸性に傾き、代謝性アシドーシスという危険な状態に陥ります。

高血糖と脱水

インスリン不足により血糖が利用されないため、血糖値は著しく上昇します(多くは250mg/dL以上)。血糖値が腎臓の再吸収能力を超えると(約180mg/dL)、尿中に糖が排出される浸透圧利尿が起こります。これにより、体は大量の水分と電解質(ナトリウム、カリウムなど)を失い、重度の脱水を引き起こします。

まとめると、DKAは ①高血糖、②ケトアシドーシス、③脱水 という3つの要素が複雑に絡み合った病態です。


糖尿病ケトアシドーシスの原因

DKAの主な原因は、インスリンの作用が極端に不足する状況です。特にⅠ型糖尿病患者に多く見られますが、Ⅱ型糖尿病患者でも起こり得ます。

インスリン治療の中断:自己判断でのインスリン注射の中断が最も多い原因です。
感染症:肺炎や尿路感染症などの感染症は、インスリンの必要量を増大させ、DKAの引き金となります。
シックデイ:発熱、下痢、嘔吐、食欲不振など(シックデイ)により、食事がとれずにインスリンを中断してしまったり、ストレスホルモンの影響でインスリン需要が増大したりすることが原因となります。
その他のストレス:心筋梗塞、脳卒中、外傷、手術なども大きな身体的ストレスとなり、DKAを誘発します。
糖尿病の新規発症:Ⅰ型糖尿病がDKAを契機に初めて診断されることも少なくありません。


糖尿病ケトアシドーシスの症状

DKAの症状は、高血糖、脱水、アシドーシスを反映したものです。初期症状を見逃さず、重症化のサインを早期に発見することが重要です。

分類主な症状
高血糖・脱水症状口渇、多飲、多尿、全身倦怠感、脱力感、皮膚の乾燥、頻脈、低血圧
消化器症状悪心、嘔吐、腹痛(急性腹症と間違われることがある)
アシドーシス症状クスマウル大呼吸
深く大きい呼吸。体内の酸を二酸化炭素として排出しようとする代償性の呼吸様式。
呼気のアセトン臭
甘酸っぱい、果物のような口臭。
意識障害傾眠、昏睡など。重症度と相関する。

治療・対症療法

DKAの治療は、原因の除去とともに、「輸液」「インスリン」「電解質補正」を三本柱として迅速に行われます。

大量の輸液(補液)

最も優先される治療です。脱水によって循環血液量が減少しているため、まずは生理食塩水などで細胞外液を補充し、循環動態を安定させます。これにより血圧が維持され、腎血流が改善し、血糖値の低下にも繋がります。

インスリン持続静注療法

インスリンを持続的に静脈注射することで、高血糖を是正し、ケトン体の産生を抑制します。血糖値を急激に下げすぎると脳浮腫のリスクがあるため、モニタリングをしながら慎重に投与量を調整します。血糖値が250mg/dL程度まで低下したら、ブドウ糖を含む輸液に切り替えることが一般的です。

電解質の補正(特にカリウム)

治療開始前、血清カリウム値は正常か高値を示すことが多いですが、これはアシドーシスの影響で細胞内のカリウムが細胞外へ移動しているためであり、体内の総カリウム量は欠乏しています。

インスリン治療を開始すると、ブドウ糖と共にカリウムが細胞内に取り込まれるため、血清カリウム値は急激に低下します。低カリウム血症は致死的な不整脈を引き起こす可能性があるため、尿量が確保されていることを確認した上で、早期からカリウムの補充を開始します。

アシドーシスの補正

通常、輸液とインスリン治療によってアシドーシスは自然に補正されます。重炭酸ナトリウム(メイロン®)の投与は、pHが著しく低い場合(例:pH < 6.9)などに限定して慎重に検討されます。


看護のポイント

バイタルサインと全身状態の観察

  • 意識レベル:意識障害の進行は重症度を示します。JCSやGCSを用いて経時的に評価します。
  • 呼吸状態:クスマウル大呼吸の有無、呼吸数、深さ、SpO2を観察します。
  • 循環動態:血圧、脈拍、心電図モニターを装着し、不整脈の出現に注意します。特にカリウム補正中は注意が必要です。
  • 水分出納バランス:尿量、嘔吐量、輸液量を正確に測定し、脱水の改善状況を評価します。

血糖値と電解質の厳密な管理

  • 血糖測定:頻回な血糖測定(1~2時間ごと)を行い、血糖値の変動を把握し、低血糖症状(冷や汗、動悸、手の震えなど)の出現に注意します。
  • 電解質:採血データ、特にカリウム値の変動を注視し、医師の指示に基づき確実にカリウムを投与します。

安全な療養環境の提供

  • 転倒・転落防止:意識障害や筋力低下により転倒リスクが高いため、ベッドサイドの環境整備や離床センサーの活用を検討します。
  • 口腔ケア:著しい口渇と脱水により口腔内が乾燥しやすいため、こまめな口腔ケアで患者の安楽を図り、感染を予防します。

DKAの原因検索と再発予防への関わり

  • 急性期の状態が安定したら、なぜDKAに至ったのかという原因を患者と共に考え、退院後の療養生活を見据えた関わりを開始します。
  • インスリン自己注射の手技の確認、シックデイルールの理解度などをアセスメントし、必要に応じて糖尿病療養指導士や医師、栄養士など多職種と連携して再発予防のための教育を行います。
参考資料
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