上腕骨遠位端骨折について

上腕骨遠位端骨折の病態から看護のポイントまで徹底解説

あずかん

上腕骨遠位端骨折は、肘関節周辺の複雑な骨折であり、的確な看護が患者さんの予後を大きく左右します。
この記事では、上腕骨遠位端骨折の基本的な知識から、具体的な看護のポイントまでを分かりやすく解説します。


目次

上腕骨遠位端骨折とは

上腕骨遠位端骨折は、肘関節を構成する上腕骨の末端部分(遠位端)で発生する骨折です。この部位は、内側上顆、外側上顆、滑車、小頭といった複数の骨の部位からなり、形状が非常に複雑です。

骨折の仕方によって、関節内に骨折線が及ぶ「関節内骨折」と、関節外にとどまる「関節外骨折」に大別されます。特に、関節内骨折では、関節面の不整やずれが生じやすく、治療が不十分な場合、肘関節の動きに制限(可動域制限)が残ったり、将来的に変形性肘関節症に移行したりするリスクがあります。

また、骨折部周辺には、尺骨神経や橈骨神経、正中神経といった重要な神経や、腕の血流を担う上腕動脈が走行しています。そのため、骨折による骨片の転位によってこれらの神経や血管が損傷されると、手指のしびれや運動麻痺、血行障害といった重篤な合併症を引き起こす可能性があります。


上腕骨遠位端骨折の原因

上腕骨遠位端骨折の主な原因は、転倒や転落時に肘を直接強打したり、手をついたりすることによる高エネルギー外傷です。

若年者・成人
交通事故やスポーツ(柔道、ラグビーなど)中の転倒、高所からの転落など、強い外力が加わることで発生します。
高齢者
骨粗鬆症を背景に持つことが多く、屋内での転倒など比較的軽微な外力でも骨折に至るケースが増加します。骨が脆弱なため、骨折が複数の骨片に分かれる「粉砕骨折」となりやすい傾向があります。


骨折後の症状

上腕骨遠位端骨折の主な症状は以下の通りです。

  • 強い痛みと腫れ
    • 骨折部を中心に、肘関節全体に激しい痛みと著しい腫れ(関節内血腫)が見られます。
  • 皮下出血
    • しばらく時間が経つと、皮下出血斑が前腕や上腕に広がります。
  • 可動域制限
    • 痛みと腫れのため、肘を動かすことができなくなります。
  • 変形
    • 骨片の転位が大きい場合、外見上、肘が変形して見えることがあります。
  • 神経・血管損傷の症状
    • 神経損傷: 手指のしびれ、感覚が鈍くなる、指が動かしにくいといった症状が現れます。どの神経が損傷されたかによって、症状の出る範囲が異なります(例:尺骨神経損傷なら小指側のしびれ)。
    • 血管損傷: 手指が蒼白になる、冷たくなる、脈が触れにくくなるといった血行障害のサインが見られます。これは緊急の対応を要する危険な状態(コンパートメント症候群)につながる可能性があります。

治療・対症療法

治療の目的は、骨折部を正確な位置に整復、強固に固定し、早期から関節の運動を開始することで、関節機能の回復を最大限に図ることにあります。

保存的治療

骨折の転位がほとんどない、または徒手整復で良好な位置に保てる場合に選択されます。ギプスやシーネを用いて肘関節を約90度に曲げた状態で固定します。固定期間は通常4〜6週間程度ですが、定期的にレントゲンで骨片のずれがないかを確認する必要があります。

手術的治療

多くの成人の上腕骨遠位端骨折は、関節内骨折であり、転位が大きいため手術が必要となります。

  • 観血的整復固定術(ORIF)
    • 最も一般的に行われる手術です。皮膚を切開して骨折部を直接目で見て整復し、プレートやスクリューなどの金属製インプラントを用いて強固に固定します。これにより、術後早期からのリハビリテーション(関節可動域訓練)が可能となり、関節拘縮の予防につながります。
  • 人工肘関節置換術
    • 高齢者で骨が非常に脆弱な粉砕骨折の場合や、リウマチなどで元々関節の状態が悪い場合に選択されることがあります。損傷した関節部分を金属やポリエチレンでできた人工関節に置き換える手術です。

看護のポイント

術前・保存的治療の看護

  1. 疼痛コントロール
    • 医師の指示に基づき、鎮痛薬を適切に使用します。
    • 患肢を安定させ、不必要な動きを避けることで痛みを軽減します。枕やクッションを用いて、腕を心臓より高い位置に保つ(挙上)ことで、腫れと痛みの軽減を図ります。
  2. 神経・血管損傷の観察
    • 最重要項目です。コンパートメント症候群や神経麻痺の早期発見に努めます。
    • 観察項目
      • 橈骨動脈の触知: 手首の脈拍がしっかり触れるか、左右差はないか。
      • 毛細血管再充満時間(CRT): 爪を圧迫し、色が戻るまでの時間を確認します(通常2秒以内)。
      • 手指の色、温度: 蒼白になっていないか、冷たくなっていないか。
      • 感覚: しびれや感覚の鈍さがないか、患者さんの訴えを詳細に聴取します。
      • 運動: 指を曲げたり伸ばしたりできるか。
    • これらの観察を頻回に行い、異常があれば直ちに医師に報告します。
  3. 精神的サポート
    • 突然の受傷と手術に対する不安を傾聴し、治療や今後の見通しについて、医師の説明を補足しながら丁寧に説明します。

術後の看護

  1. 術後合併症の予防と早期発見
    • 術前と同様に、神経・血管損傷の観察を継続します。特に術後は腫れが強くなるため、コンパートメント症候群のリスクが高まります。
    • 創部の感染兆候(発赤、腫脹、熱感、異常な痛み、浸出液)がないか観察します。
  2. 疼痛管理
    • 術後の痛みは強いため、硬膜外麻酔や神経ブロック、経口・静脈内鎮痛薬を組み合わせて効果的に管理します。痛みがコントロールされていることは、リハビリを円滑に進める上で非常に重要です。
  3. リハビリテーションの支援
    • 多くの場合、術後早期(術後1〜3日)から理学療法士によるリハビリが開始されます。
    • リハビリは痛みを伴うことが多いため、訓練前に鎮痛薬を使用するなど、積極的に疼痛コントロールを行います。
    • 患者がリハビリの重要性を理解し、意欲的に取り組めるよう、声かけや励ましを行います。
    • 自主トレーニングの方法を一緒に確認し、病棟での実践を促します。
  4. 日常生活動作(ADL)の援助
    • 患側の上肢が使えないため、食事、更衣、排泄、清潔など、あらゆる場面で援助が必要となります。
    • 患者の自尊心を尊重し、できることは自身で行ってもらい、必要な部分をサポートする姿勢が大切です。
参考資料
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