
狭心症にはいくつか種類があります。
この記事では、「冠攣縮性狭心症」について詳しく説明していきます。
冠攣縮性狭心症とは
冠攣縮性狭心症とは、冠動脈が痙攣を起こして一時的に血管が狭窄~閉塞を起こしている状態をいう。痙攣の原因は。動脈硬化や炎症による血管内皮障害であり、不安定プラークがある場所で攣縮が起きるとプラークが破綻する原因となり、それによって急性冠症候群(急性心筋梗塞、不安定性狭心症)の発症につながる。
基本的には安静時の前胸部痛で、下顎・頸部・左肩または両肩・左腕への放散痛が伴う場合もある。
就寝中~明け方に症状が好発し、数分~20分ほど症状が持続する。
過換気や飲酒、喫煙により誘発されたり、早朝の運動時に生じることもある。
不安定プラーク
線維性被膜が薄く、脂質の含有量が多いためやわらかい。
内腔が広く保たれていても、いったん破綻すると血栓による狭窄・閉塞が急速に進行する。(急性冠症候群)
安定したプラーク
線維被膜が厚く、破綻しにくいため、狭窄が急速に進むことはない。
安定したプラークでは、内腔の狭さが危険度に直結する。(労作性狭心症)
検査・診断
心電図
非発作時は正常な場合が多い
発作時:ST上昇またはST低下
ST上昇:冠攣縮が重度で冠動脈が完全閉塞することにより貫壁性の心筋虚血を生じるとST上昇がみられる。別名【異形型狭心症】とも呼ぶ
ST低下:冠攣縮が比較的軽い場合、非貫壁性の心筋虚血となりST低下がみられる。
心エコー検査
冠動脈造影CT検査
冠動脈カテーテル造影検査
アセチルコリン
アセチルコリンには副交感神経刺激作用があり、健常な動脈に副交感刺激が加わると動脈は拡張するが、攣縮しやすい動脈では逆に血管が収縮してしまうため、この逆効果を診断に用いる。
しかし、副交感神経を刺激すると徐脈になってしまうため、アセチルコリン負荷試験を行う場合は一時ペーシングカテーテルを右心室内に挿入しておき、徐脈時にペーシングを行えるように準備する必要がある。
エルゴノビン(メルゴメトリン)
エルゴノビンには、血管平滑筋を収縮させ血管内腔を狭くし血流を減らす作用がある。この作用を冠攣縮誘発試験で用いる。
副作用として嘔気や頭痛を生じることも多く、また冠攣縮に伴い心室細動(VF)のような重篤な不整脈が引き起こされる可能性も高いため、VF出現時は胸骨圧迫や電気的除細動が行えるように準備する必要がある。
治療
薬物療法
発作時:即効型の硝酸薬(ニトログリセリンの舌下錠など)
発作の予防;第一選択はCa拮抗薬、次に硝酸薬(内服や貼付薬)
※血管ではβ2受容体刺激によって血管拡張作用が生じるため、β2遮断薬は血管拡張作用を抑えてしまい冠攣縮を悪化させることがある。(Ca拮抗薬などの併用であれば大丈夫)
生活習慣の改善
喫煙や飲酒により冠攣縮が誘発・増悪するため、禁煙や節酒の指導が重要となってくる。
ストレスによる過換気傾向になっても冠攣縮が誘発されてしまうため、不安感が強い患者の場合、カウンセリングや抗不安薬、漢方薬治療による不安への介入が重要である。
看護のポイント
情報収集とアセスメント
症状の把握
胸痛の部位、性質、強さ、持続時間、誘因、増悪・緩和因子などを詳細に聴取する。特に、安静時の発作の有無や時間帯は重要となってくる。
既往歴・合併症の確認:
高血圧、脂質異常症、糖尿病などの生活習慣病や、動脈硬化の有無を確認する。
生活習慣の聴取
喫煙、飲酒の習慣、睡眠時間、ストレスの程度、食生活などを詳しく聞く。これらは発作の誘因となる可能性があるため、重要な情報となる。
ニトログリセリンの使用状況
ニトログリセリンの効果の有無、使用回数、副作用(頭痛、めまいなど)について確認する。効果がない場合や、頻回に使用する場合は注意が必要。
心理状態のアセスメント
冠攣縮性狭心症はいつ発作が起こるか予測しにくいため、患者は不安を抱えていることが多い。発作への恐怖や日常生活への影響など、心理的な側面もアセスメントしていく。
発作時の対応
バイタルサインの測定
血圧、脈拍、SpO2などを測定し、全身状態を把握する。
ニトログリセリンの介助
必要に応じてニトログリセリン舌下錠の使用を介助する。また効果判定のために、使用前後の症状変化を確認していく。
安静の保持
発作時は安静を保つように促す。
医師への報告
発作の状況(症状、バイタルサイン、ニトログリセリンの効果など)を迅速に医師に報告する。
薬剤管理と指導
薬剤の効果と副作用の説明
処方されている薬剤(Ca拮抗薬、硝酸薬など)の効果、正しい内服方法、注意すべき副作用について分かりやすく説明し、自己判断での中止は危険であることを伝える。
ニトログリセリンの使用方法指導
ニトログリセリン舌下錠の正しい使用方法(舌下投与、効果発現までの時間、効果がない場合の追加使用の目安など)を具体的に指導する。携帯方法や有効期限、副作用による頭痛についても指導・説明する。
生活習慣の改善に向けた支援
禁煙指導
喫煙は冠攣縮の最大の危険因子のため、禁煙の必要性を伝え、禁煙に向けた具体的な支援方法(禁煙外来の紹介など)を提供する。
飲酒指導
過度な飲酒は冠攣縮を誘発する可能性があり、適切な飲酒量について指導する。
ストレスマネジメント
ストレスも冠攣縮の誘因となる。患者にとって効果的なストレス解消法を一緒に考えたり、リラクゼーションの方法を紹介する。
規則正しい生活
十分な睡眠をとり、規則正しい生活を送ることも大切。
不安の軽減と精神的支援
病気に関する情報提供
冠攣縮性狭心症という病気について、患者が理解できるように分かりやすく説明する。正しい知識を持つことで、漠然とした不安が軽減されることがある。
傾聴と共感
患者の抱える不安や悩みについて、じっくりと耳を傾け、共感的な姿勢で接する。
セルフケア能力の向上支援
発作が起きた時の対処法や、発作を予防するための方法について、患者自身が実践できるよう支援する。
退院指導と継続看護
自宅での注意点
退院後の生活で注意すべき点(服薬管理、症状出現時の対応、日常生活での工夫など)を具体的に指導する。
医療機関との連携
かかりつけ医への受診の重要性や、症状が悪化した場合の連絡先などを伝える。
家族への指導
患者だけでなく、家族にも病気や日常生活時の注意点、発作時の対応ついて説明し、サポート体制を整える。