冠攣縮性狭心症(異型狭心症)とは|原因、症状から看護のポイントまで徹底解説

「冠攣縮性狭心症」は、一般的な労作性狭心症とは異なる特徴を持ち、アセスメントや看護ケアにおいて特別な注意が求められます。
この記事では、冠攣縮性狭心症(異型狭心症、安静時狭心症)について、その基本から臨床で役立つ看護のポイントまで、分かりやすく徹底的に解説します。
冠攣縮性狭心症とは
冠攣縮性狭心症を理解する上で最も重要なのが、その特異的な病態生理です。
冠攣縮性狭心症は、心臓に血液を供給する「冠動脈」が、一時的に痙攣して強く収縮(攣縮)することで発生します。
通常、冠動脈は心臓が必要とする酸素や栄養を常に送り届けています。しかし、何らかの原因で冠動脈が攣縮を起こすと、血管の内腔が極端に狭くなり、心筋への血流が一時的に途絶えたり、著しく減少したりします。これにより、心筋が酸素不足(虚血)に陥り、胸痛などの症状が引き起こされるのです。
労作性狭心症との違い
一般的な「労作性狭心症」は、動脈硬化によって冠動脈が物理的に狭くなっていることが原因です。そのため、運動や階段の上り下りなど、心臓に負担がかかる(=多くの酸素が必要になる)場面で症状が出現します。
一方、冠攣縮性狭心症は、動脈硬化がほとんどない正常に近い冠動脈でも起こり得ます。そして、発作は心臓に負担がかかっていない「安静時」、特に「夜間から早朝にかけて」起こりやすいという大きな特徴があります。これが「安静時狭心症」や「異型狭心症」と呼ばれる所以です。
原因と危険因子
冠攣縮性狭心症の直接的な引き金は冠動脈の攣縮ですが、なぜ攣縮が起こるのか、その根本的なメカニズムは完全には解明されていません。しかし、以下の要因がリスクを高めると考えられています。
喫煙: 最も重要なリスクファクターです。タバコに含まれるニコチンなどが血管内皮機能を低下させ、攣縮を誘発しやすくします。
飲酒: 特に多量のアルコール摂取は、夜間から早朝にかけての発作と関連が深いとされています。
ストレス: 精神的・身体的なストレスは、自律神経のバランスを乱し、血管の過剰な収縮を引き起こす可能性があります。
過労・睡眠不足: 生活リズムの乱れも自律神経に影響を与えます。
寒冷刺激: 急に寒い場所へ移動することなども、血管収縮の誘因となり得ます。
遺伝的要因: 家族歴がある場合もリスク因子となる可能性があります。
マグネシウム不足: ミネラルバランスの乱れが関与するという説もあります。
これらの因子は、自律神経系や血管内皮の機能を障害し、冠動脈が過敏な状態になることで、攣縮を引き起こすと考えられています。
冠攣縮性狭心症の症状
冠攣縮性狭心症の症状は、典型的な胸痛発作が中心です。
- 発作の時間帯: 夜間、睡眠中、明け方、早朝の安静時に起こることが多い。
- 症状の性質:
- 胸の圧迫感、締め付けられるような感じ(「胸に重石を乗せられたよう」と表現されることも)
- 胸が焼けるような感じ
- 持続時間: 通常は数分から15分程度で、長くても30分以内には治まることがほとんどです。
- 放散痛: 胸だけでなく、左肩、腕、顎、歯、背中などに痛みが広がることがあります。
- 随伴症状: 冷や汗、吐き気、動悸、息切れなどを伴うこともあります。
- ニトログリセリンの効果: 発作時にニトログリセリン(舌下錠やスプレー)を使用すると、数分以内に速やかに症状が改善するのが特徴です。
発作が長時間続いたり、ニトログリセリンが効かなかったりする場合は、心筋梗塞へ移行している可能性があり、緊急の対応が必要です。
治療・対症療法
治療の目的は、発作を予防し、QOLを維持すること、そして心筋梗塞などの重篤な合併症を防ぐことです。
薬物療法
薬物療法が治療の中心となります。
- カルシウム拮抗薬: 冠動脈の攣縮を予防する第一選択薬です。血管平滑筋の収縮を抑制し、血管を拡張させる作用があります。ヘルベッサー®、コニール®などが代表的です。
- 硝酸薬: ニトログリセリンのように発作時に使用する即効性のあるものと、発作予防のために長時間作用する貼り薬や内服薬(ニトロダームTTS®、フランドル®テープなど)があります。
- ニコランジル: カリウムチャネルを開口させる作用もあり、冠動脈を拡張させます。
- スタチン製剤(HMG-CoA還元酵素阻害薬): コレステロール低下薬ですが、血管内皮機能を改善する作用も期待して用いられることがあります。
生活習慣の改善
薬物療法と並行して、原因となるリスクファクターを徹底的に排除することが非常に重要です。
- 禁煙: 最も重要です。禁煙指導が不可欠となります。
- 節酒・禁酒: 過度の飲酒を避けるよう指導します。
- ストレス管理: 十分な休息、リラックスできる時間を作る。
- 過労を避ける: 規則正しい生活を心がける。
- 寒暖差に注意: 特に冬場の外出時には防寒対策を徹底する。
看護のポイント
最後に、冠攣縮性狭心症の患者さんを受け持つ上での看護のポイントを解説します。
正確なアセスメントと観察
- 胸痛の評価(PQRST)
- P (Provocation/Palliation): きっかけ・楽になる要因(安静時か?ニトロで改善したか?)
- Q (Quality): 痛みの質(圧迫感、絞扼感など)
- R (Region/Radiation): 部位・放散痛の有無
- S (Severity): 痛みの強さ(スケールを用いて評価)
- T (Time): 発症時間、持続時間
- バイタルサインの測定: 血圧、脈拍、SpO2を測定します。発作時は血圧が上昇することがあります。
- 12誘導心電図: 発作時にはST上昇が見られるのが特徴です(労作性ではST低下が多い)。ただし、発作が治まると正常化するため、症状があるタイミングで記録することが重要です。24時間ホルター心電図で夜間のST変化を捉えることもあります。
発作時の迅速な対応
- 安静の保持: まずは患者を安静な状態にします(ベッド上ならファウラー位など)。
- ニトログリセリンの投与介助: 医師の指示に基づき、速やかに投与します。投与後は血圧低下や頭痛の副作用に注意し、バイタルサインをモニタリングします。
- 医師への報告: 状況、バイタルサイン、心電図変化などを的確に報告します。
- 酸素投与の準備: 必要に応じて酸素投与ができるよう準備しておきます。
不安の軽減
胸痛発作は、患者に強い不安と「死の恐怖」を与えます。
- 寄り添う姿勢: 発作中はそばにいて、声をかけ、背中をさするなどして安心感を与えます。
- 丁寧な説明: 検査や治療について、分かりやすい言葉で丁寧に説明し、患者が現状を理解できるように支援します。
- 感情の表出を促す: 患者の不安や恐怖の感情を受け止め、傾聴します。
セルフケア支援と退院指導
この疾患は、生活習慣の改善が再発予防に直結するため、退院指導が極めて重要です。
- 禁煙・節酒の重要性を繰り返し説明する: なぜ禁煙が必要なのか、病態と関連付けて根気強く説明します。必要であれば禁煙外来の利用も勧めます。
- 服薬管理の指導
- 予防薬(カルシウム拮抗薬など)を自己判断で中断しないことの重要性を伝えます。
- 発作時のニトログリセリンの使い方(舌下投与、保管方法、使用期限)と、使用しても改善しない場合は直ちに救急要請するよう具体的に指導します。
- ストレスマネジメント: 患者一人ひとりに合ったストレス解消法を一緒に考えます。
- 生活上の注意点: 過労を避け、十分な睡眠をとること、冬場の防寒対策などを具体的に指導します。