
看護を学ぶ上で、必ず直面する「便秘」。
その原因は多岐にわたり、重篤な疾患のサインである可能性もあります。
また、便秘の放置は様々な合併症を引き起こす可能性もあります。
この記事では、便秘について詳しく解説していきます。
病態生理:便秘とは?
便秘は、便が硬くなったり、排便回数が減少したりして、排便が困難になる状態のことで、正常な排便メカニズムが阻害されることで起こります。
そもそも、正常な排便メカニズムとは、①食べ物が消化され、水分が吸収されて便が形成される ②便は大腸を通過し、直腸に貯留する ③直腸に便が貯留すると、その刺激が脳に伝わり、便意を感じる ④便意を感じたら腹圧をかけ、骨盤底筋を弛緩させることで排便が行われる となっています。
便秘になる要因
大腸の運動低下
蠕動運動が弱まり、便の輸送が滞る
水分の過剰吸収
大腸での水分吸収が過剰に行われ、便が硬くなる
直腸の感覚鈍麻
便が貯留しても便意を感じにくくなる
排便反射の障害
骨盤底筋が上手く弛緩できない
便秘の原因または考えられる疾患
便秘の原因は多岐にわたりますが、大きく分けると、機能性便秘と器質性便秘があります。
機能性便秘
機能性便秘とは、特定の疾患によらない便秘で、生活習慣や腸の機能異常が原因となっています。
食事性便秘
食物繊維や水分摂取量の不足が挙げられます。
習慣性便秘(弛緩性便秘)
排便を我慢する習慣や運動不足などにより、大腸の運動が低下する。高齢者に多いです。
痙攣性便秘
ストレスなどにより腸の蠕動運動が過剰になり、便がうさぎのフンのようにコロコロになります。過敏性腸症候群の一症状としても見られます。
直腸性便秘
直腸に便が貯留しても便意を感じにくく、直腸の感覚が鈍麻しています。高齢者や寝たきりの方に多いです。
器質性便秘
器質性便秘とは、腸管の病気や他の臓器の病気が原因で起こる便秘となっています。
腸管の閉塞
大腸がん、炎症性腸疾患(クローン病、潰瘍性大腸炎)、腸管の狭窄、ヘルニアなどにより、物理的に便の通過が妨げられます。
腸管の神経・筋疾患
糖尿病性ニューロパチー、パーキンソン病、筋ジストロフィーなどにより、腸管の運動機能が障害されます。
内分泌・代謝疾患
甲状腺機能低下症、高カルシウム血症などがあります。
薬剤性便秘
オピオイド鎮痛薬、抗コリン薬、精神病薬、鉄剤、制酸薬などの薬剤の副作用が原因になることが多いです。
神経学的疾患
脳卒中、脊髄損傷などが挙げられます。
診断方法
便秘の診断は、問診、身体診察、必要に応じて検査を行います。
問診
排便回数、便の硬さ、排便時のいきみ、腹痛、腹部膨満感などの症状、便秘の経過、既往歴、内服薬、生活習慣などを詳しく聴取します。
身体診察
腹部の聴診(腸蠕動音の確認)、触診(圧痛、しこりの有無)、直腸診(便の性状、直腸内の異常の有無)などを行います。
腹部X線検査
腸管内の便やガスの貯留を確認します。
大腸内視鏡検査
腸管内の病変(ポリープ、腫瘍、炎症など)の有無を確認します。器質性便秘が疑われる場合や、便潜血陽性の場合などに行われます。
注腸X線検査
バリウムを注入し、腸管の形や通過障害の有無を確認します。
生理機能検査
大腸通過時間測定、排便造影検査など、より詳しい腸の機能を調べる検査です。
血液検査
貧血や炎症の有無、甲状腺機能などを評価します。
治療法・対症療法
便秘の治療は、原因や重症度に応じて選択されます。器質性便秘の場合は、原因疾患の治療が優先されます。機能性便秘の場合は、生活習慣の改善や薬物療法が中心となります。
生活習慣の改善
食事
食物繊維を多く含む食品(野菜、果物、きのこ、海藻類など)や水分を十分に摂取します。
運動
適度な運動は腸の動きを活発に排便を促します。
排便習慣
毎日決まった時間にトイレに行く習慣をつけ、便意を我慢しないようにします。
水分摂取
特に朝起きたときにコップ一杯の水を飲むことは、腸の動きを刺激します。
薬物療法
便秘薬には様々な種類があり、患者さんの状態に合わせて選択されます。
浸透圧性下剤
便に水分を引き寄せ、便を柔らかくします。酸化マグネシウム、ラクツロースなど。
刺激性下剤
大腸粘膜を刺激し、腸の動きを促します。効果は強いですが、連用により腸の機能が低下する可能性があるため注意が必要です。センノシド、ピコスルファートナトリウムなど。
膨張性下剤
水分を吸収して便のカサを増やし、腸を刺激します。ポリカルボフィルカルシウムなど。
上皮機能変容薬
腸管からの水分分泌を促進します。ルビプロストン、リナクロチドなど。
坐薬・浣腸
直腸を刺激して排便を促します。即効性がありますが、常用は心因的な依存や身体機能の低下につながるため避けるべきです。
看護ケア
患者さんの便秘の状況や原因をアセスメントし、適切なケア計画を立てることが求められます。
食事や水分摂取に関する指導を行う。
適度な運動を促す。
排便習慣の確立を支援する。
必要に応じて医師と連携し、適切な薬物療法を検討する。
器質性便秘が疑われる場合は、速やかに医師に報告する。
精神的なサポートも重要です。

