便秘について

あずかん

便秘は、患者さんのQOLを著しく低下させるだけでなく、食欲不振やせん妄、さらには腸閉塞などの重篤な合併症を引き起こす可能性のある重要な症状です。この記事では、便秘の病態生理から看護のポイントまでを詳しく解説します。


目次

便秘とは

便秘は、単に「便が出ない」状態ではなく、「大腸内を便が通過するのに時間がかかりすぎる、あるいは直腸から便を出すのが困難な状態」と定義されます。この背景には、主に以下の2つの病態が関与しています。

  1. 大腸通過時間の遅延
    • 大腸の蠕動運動が低下すると、便の内容物が大腸内に停滞する時間が長くなります。
    • 停滞している間に、便から水分が過剰に吸収され、便は硬くなります。
    • 硬くなった便はさらに大腸を通過しにくくなり、悪循環に陥ります。
  2. 直腸排出障害
    • 便が直腸まで到達しても、骨盤底筋群の協調運動の障害や、直腸の感覚低下などにより、いきんでもうまく排出できない状態です。
    • 便意を我慢する習慣があると、直腸の反射が鈍くなり、このタイプの便秘を引き起こしやすくなります。

これらの病態は、後述する様々な原因によって引き起こされます。


便秘の分類

便秘は、その原因によって「器質性便秘」と「機能性便秘」の2つに大別されます。

  1. 器質性便秘
    • 原因: 大腸がんや炎症性腸疾患(IBD)、手術後の癒着など、腸管そのものに物理的な狭窄や閉塞があるために起こる便秘。
    • 特徴: 緊急性が高く、原因疾患の治療が最優先される。安易な下剤の使用は、腸管穿孔などのリスクを高めるため禁忌となる。
  2. 機能性便秘
    • 原因: 腸管に物理的な問題はないものの、大腸や直腸・肛門の機能が低下して起こる便秘です。いわゆる「便秘」の多くがこれに該当する。
    • 種類: 機能性便秘は、さらに以下の3つのタイプに分けられる。
      • 弛緩性便秘: 大腸の蠕動運動が低下し、便を送り出す力が弱くなるタイプ。高齢者や長期臥床の患者、出産後の女性に多く見られます。便は太く、硬くなる傾向がある。
      • 痙攣性便秘: ストレスなどが原因で大腸が過度に緊張し、蠕動運動が不規則になるタイプ。便がうさぎの糞のようにコロコロになるのが特徴で、便秘と下痢を繰り返すこともある。
      • 直腸性便秘: 便が直腸に達しても便意が起こりにくくなるタイプ。便意の我慢や、高齢による直腸反射の低下、不適切な排便姿勢などが原因となる。

便秘の原因

便秘の原因は多岐にわたり、複数の要因が複雑に絡み合っている場合がほとんどです。

  • 生活習慣
    • 食事: 食物繊維や水分、脂質の摂取不足。
    • 運動: 運動不足による腸管への刺激低下。
    • 排便習慣: 便意の我慢。
  • 疾患
    • 消化器疾患: 大腸がん、過敏性腸症候群(IBS)、炎症性腸疾患など。
    • 全身性疾患: 糖尿病(神経障害)、甲状腺機能低下症、パーキンソン病など。
    • 精神疾患: うつ病、統合失調症など。
  • 薬剤性
    • オピオイド: 医療用麻薬。蠕動運動を強力に抑制する。
    • 抗コリン薬: 消化管の運動を抑制します。
    • 精神病薬、抗うつ薬
    • その他: カルシウム拮抗薬、利尿薬、鉄剤など。
  • 加齢
    • 食事量の減少、活動性の低下、腹筋力の低下、直腸感覚の低下など、複数の要因が重なる。
  • 環境の変化
    • 入院や旅行、プライバシーが確保できないトイレ環境など。

治療・対症療法

便秘の治療は、原因に応じて行われますが、機能性便秘に対しては、生活習慣の改善と薬物療法が中心となります。

  1. 非薬物療法(生活習慣の改善)
    • 食事療法:
      • 食物繊維: 水溶性(海藻、果物など)と不溶性(穀物、野菜、豆類など)をバランスよく摂取。
      • 水分摂取: 1.5〜2L/日を目安に十分な水分を補給。
      • 脂質: 適度な脂質は便の滑りを良くします。
      • 発酵食品: ヨーグルトや納豆などで腸内環境を整える。
    • 運動療法: ウォーキングなどの適度な運動や、腹部のマッサージ(「の」の字マッサージ)は腸管を刺激する。
    • 排便習慣の確立: 毎日決まった時間(特に朝食後)にトイレに行く習慣をつけ、便意がなくても数分間座ってみる。
  2. 薬物療法
    • 下剤の種類と選択:
      • 浸透圧性下剤(酸化マグネシウムなど): 腸管内に水分を引き込み、便を軟化・増大させる。非刺激性で、第一選択薬として広く用いられる。
      • 上皮機能変容薬(ルビプロストン、リナクロチドなど): 腸管からの水分分泌を促進し、便を軟化させる。
      • 刺激性下剤(センノシド、ピコスルファートナトリウムなど): 腸管を直接刺激して蠕動運動を亢進させる。頓用での使用が原則。長期連用は耐性や大腸メラノーシスの原因となるため注意が必要。
      • 胆汁酸トランスポーター阻害薬(エロビキシバット): 胆汁酸の再吸収を阻害し、大腸への流入を増やすことで蠕動運動を促進する。
    • 浣腸・坐薬: 直腸性便秘や、硬い便が肛門付近で詰まっている場合(糞便嵌頓)に有効。

看護のポイント

  1. 的確なアセスメント
    • 排便状況の把握: 便の回数、量、性状(ブリストル便形状スケールなどを用いる)、色、臭い、排便時の苦痛の有無などを詳細に聴取・観察する。
    • 腹部のアセスメント: 視診(膨満の有無)、聴診(腸蠕動音)、打診(鼓音)、触診(圧痛、硬結)を行う。
    • 随伴症状: 腹痛、腹部膨満感、食欲不振、悪心・嘔吐などの有無を確認する。
    • 原因の評価: 食事内容、水分摂取量、活動量、使用中の薬剤、基礎疾患、精神的ストレス、トイレ環境など、便秘の原因となりうる因子を多角的に評価する。
  2. 個別的なケアの実践
    • 排便環境の調整: プライバシーが保たれ、リラックスできる環境を整える。ポータブルトイレやベッドサイドでの排泄が必要な場合でも、カーテンやスクリーンで仕切るなどの配慮が重要。
    • 安楽な排便姿勢の確保: 洋式トイレでは、足元に台を置いて膝を股関節より高くすることで、直腸肛門角が広がり、排便しやすくなる(ロダンの「考える人」のポーズ)。
    • 生活習慣への介入: アセスメントに基づき、食事内容や水分摂取、運動について患者とともに目標を設定し、実行を支援する。
    • 精神的ケア: 便秘はデリケートな問題であり、羞恥心から訴えを我慢している患者も少なくない。信頼関係を築き、安心して悩みを話せるような関わりが求められる。
    • 薬剤管理: 処方された下剤の効果と副作用(腹痛、下痢など)を注意深く観察し、医師・薬剤師と連携して適切な薬剤使用を支援する。特に刺激性下剤の連用には注意を促す。
参考資料
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