腓骨神経麻痺について

腓骨神経麻痺について|疾患の概要から看護のポイントまで徹底解説

あずかん

腓骨神経麻痺は、整形外科疾患の合併症としてだけでなく、長時間の臥床や手術体位、弾性ストッキングの不適切使用など、看護ケアが原因で発症する(医原性)リスクがある疾患です。
一度発症すると、ADLに直結する機能障害を残す可能性があり、患者さんのQOLを著しく低下させてしまいます。
今回は、私たち看護師の「観察の目」と「ポジショニングの工夫」で防げる部分も多い、この腓骨神経麻痺について、現場目線で深掘りしていきましょう。

目次

サクッと復習!疾患の概要

  • 病態: 総腓骨神経は、膝の外側にある腓骨頭のすぐ後ろを通り、表面近くを走行しています。ここは骨と皮膚の間にクッションとなる軟部組織がほとんどないため、外部からの圧迫に非常に脆弱です。
  • 原因
    • 外部圧迫: ギプス固定、弾性ストッキングの食い込み、下肢の外旋位によるベッドマットとの接触圧迫、手術中の砕石位など。
    • 内部要因: ガングリオン、腫瘍、外傷による血腫など。
  • 症状:
    • 運動障害: 前脛骨筋の麻痺による下垂足。足首の背屈(上に反らす動作)不能。歩行時は鶏歩を呈します。
    • 感覚障害: 下腿外側から足背にかけてのしびれ、知覚鈍麻。
  • 治療
    • 保存療法:圧迫の解除、ビタミンB12製剤投与、装具療法(AFO:短下肢装具)、リハビリテーション。
    • 手術療法:麻痺が進行する場合や物理的圧迫(腫瘤など)がある場合は、神経剥離術などが行われます。

観察ポイント&根拠

観察項目観察ポイント根拠・予測
足関節の「自動」背屈と抵抗運動患者さんに「足首を反らして、つま先を鼻の方に向けてください」と指示し、手のひらで足背に軽く抵抗をかけて筋力を評価する(MMT)。単に「動きますか?」と聞くのはNGです。完全麻痺になる前の「筋力低下(不全麻痺)」の段階で捉える必要があります。特に長母趾伸筋(親指を反らす筋肉)の筋力低下は初期サインとして現れやすいため、親指単独の動きも確認すると感度が高まります。
知覚鈍麻の「境界線」第1趾と第2趾の間の水かき部分(深腓骨神経領域)と、足の甲全体(浅腓骨神経領域)を、健側と比較しながら触診・痛覚検査を行う。腓骨神経は途中で「深」と「浅」に分かれます。どの領域にしびれがあるかで、障害部位や程度を推測できます。特に第1・2趾間の知覚低下は深腓骨神経麻痺の特徴的なサインであり、運動麻痺に先行して現れることがあるため、早期発見の鍵となります。
腓骨頭周囲の皮膚所見膝の外側、腓骨頭部分の皮膚に発赤、圧痕(へこみ)、色素沈着がないか、弾性ストッキングをめくって目視確認する。弾性ストッキングの上縁が丸まって(ロールダウンして)、ちょうど腓骨頭を締め付けているケースが非常に多いです。発赤や圧痕は「現在進行形で神経が虚血状態にある」というSOSであり、褥瘡リスクと同時に、神経圧迫のリスクアセスメントとして必須です。

もし患者さんが「スリッパが脱げやすい」と言ったら?

離床が進んできた患者さんが、リハビリの後にポツリとこう言いました。
「なんか最近、スリッパがすぐ脱げちゃうのよね。足がだらしないのかしら。」
この言葉を聞き流してはいけません。「筋力低下による下垂足」が隠れている典型的な訴えです。

言葉の裏にあるニード
この訴えには、「思うように歩けないことへの違和感・不安」と、「転倒への恐怖(無意識的な)」が含まれています。患者さんは「麻痺」だとは認識しておらず、「自分の不注意」だと思っていることが多いです。

対応アクションと会話例

  1. 即座のアセスメントとフィードバック
    • 「スリッパが脱げやすいんですね。もしかすると、つま先を持ち上げる力が少し弱くなっているかもしれません。一度、足の動きを見せてもらえますか?(その場でMMTを実施)」
  2. 転倒予防への具体的提案(環境調整)
    • 「やはり、少しつま先が上がりにくくなっていますね。スリッパだとつまずいて転ぶ危険があるので、かかとがあるリハビリシューズに履き替えましょう。安全第一でいきましょう。」
  3. 医師への報告と連携(SBAR)
    • 「(医師へ)〇〇さんですが、スリッパが脱げやすいとの訴えがあり確認したところ、右足関節の背屈がMMT3レベルまで低下しています。腓骨神経麻痺の疑いがあるため、診察をお願いできますか?」

現場で差がつく看護のコツ・ポイント

工夫・コツ・アイデア具体的な手技・環境調整期待される効果・メリット
良肢位保持のための「タオル一枚」仰臥位の際、膝の下に枕を入れるだけでなく、大腿〜膝の外側に丸めたバスタオルを沿わせて土手を作る。高齢者は股関節が外旋位(ガニ股)になりやすく、腓骨頭がマットレスに長時間押し付けられがちです。外側に土手を作ることで過度な外旋を防ぎ、腓骨頭を「浮かせた」状態を保てます。
弾性ストッキングの「折り返し禁止」弾性ストッキングを履かせる際、膝下タイプであれば腓骨頭にかからない位置(指2本分下)に合わせる。長い場合は折り返さず、均等にシワを伸ばすか、サイズ変更を検討する。ストッキングのゴム口が腓骨頭直上で止まると、そこが止血帯(ターニケット)のようになり、神経を絞め殺してしまいます。「腓骨頭を避ける」という意識一つで、医原性の麻痺は防げます。
重み除去のための「ディバイダー活用」掛け布団が重くて足先が押される(尖足・下垂足助長)のを防ぐため、ディバイダー(離被架)を使用するか、ベッドのフットボードと布団の間に隙間を作る。物理的な重みを取り除くことで、前脛骨筋への負担を減らし、神経への圧迫も回避できます。特に冬場の重い毛布を使用する際は必須の配慮です。

新人さんが陥りやすいミスへの対策

新人さんがよく陥りがちなミス、それは「しびれを『術後だから』と思い込んでしまうこと」です。
例えば、脊椎麻酔や硬膜外麻酔後の患者さんが「足がしびれている」と訴えたとします。
新人の頃は「麻酔が効いているんだな、あるいは切れてきたんだな」と、「麻酔の影響」として片付けてしまいがちです。
しかし、実はそのしびれが、長時間の同一体位や抑制帯による腓骨神経麻痺の初期症状であるケースが稀にあります。

「しびれ」=「麻酔のせい」と決めつけないこと。
必ず「足首は動きますか?(運動麻痺の有無)」と「しびれている場所はどこですか?(デルマトームの確認)」を行いましょう。
麻酔の影響なら広範囲あるいは左右対称に出ることが多いですが、腓骨神経麻痺なら「下腿外側〜足背」に局所的に出現し、片側性であることが多いです。
「おかしいな?」と思ったら、すぐに腓骨頭を確認する。その一手間が、患者さんの一生歩く足を救うことにつながります。

参考資料
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